第9話 義妹と俺と異世界転生

 俺が勤める会社は、御存知の通り、ブラック企業だ。

 このままだと、過労死してしまうと何度思ったことか。今日で何日連続徹夜したのだろう……。


 意識が遠のいていく。

 

 目を開けると、真っ白な光の空間に女神がいた。


「横島奏斗。あなたは地球という世界での命を全うしました」

「え? 俺、死んだのですか?」

「ええ。過労死で寝ている間にぽっくりと」


 ええぇぇぇぇ!


「哀れなあなたに転生するチャンスを与えます。そして、次の世界では幸せになれるよう、神の加護も与えましょう。」


魅了エロムード

 

「どうか、新しい世界では幸せな人生を過ごして下さい。」

 

 意識が遠のいていく。


 ***


「……ちゃん! おい! 兄ちゃん」

 気付くと俺は異世界の酒場にいた。

 

「お、兄ちゃん!気づいたか、すっかり酔いつぶれてるのかと思ったぜ」

「ん? 異世界か? ステータスオープン。なんてな」

 ――あ、本当に出るんだ。


 ――――

 名前:カナト(26歳)

 種族:人間

 スキル:【魅了エロムード

 加護:溢れる性欲

 所持金:0ゴルデ

 ――――

 

 スキルか……。

 ちょっと発動してみよう【魅了エロムード

 あたりをピンクのオーラが漂い始める。

 

 すると、酒場中の女の人が寄ってくるではないか。


 冒険者の女、ギルド職員の女、酒場の店員までもが俺に群がる。

 もみくちゃにされる俺の顔に柔らかい感触が当たり、息ができなくなる。

 

 ――うっぷ!スライムか?

 女たちのお胸のスライムがボクを窒息させようとしてる。


 「こんな人数、お相手できませーーん」


 俺は慌てて酒場から逃げ出す。店から100メートルほど離れたところで、俺の眼前を塞ぐ衛兵は屈強な体躯をしていた。

 俺は無銭飲食で捕まってしまったのだ。



 ***


 「で、金もないのに酒をたらふく飲んだ挙げ句、逃げた……と」

 

 取調官が軽蔑した目で言う。性格のきつそうなメガネを掛けた長身のエルフ。


「違うんです。俺、この世界に転生してきたばかりで」

「まだ、酔いが冷めていないようだな」


 経緯を説明するが、罪が晴れない。


 ――くそぅ。しばらく臭い飯を食べることになりそうだ。

 そんなの嫌だ。うまい食事と酒を持ってこさせよう


 【魅了エロムード

 俺から発せられるピンクのオーラがエルフ取調官を包む。


「うまい飯と酒を持って来い!」

「は……はい。ハァハァ(恍惚)」

 

 恍惚とした表情のエルフ取調官が従順に俺の命令に返事をする。

 しばらくすると、美味そうな料理とビールが運ばれてきた。


 ――おおっ! 【魅了エロムード】ってこういう使い方もできるのか!チート能力じゃあないか!


 飯と酒を堪能する姿を監視しているエルフ取調官。

 

 「取調官さん、なんか顔がお赤いのですが、どうしたんですか?」


「知らん! ちょっと部屋が暑いだけだ(恍惚)」

「取調官さんってエルフですよね。魔法とか使えるんですか?」

「当たり前だろ。(恍惚)」

 ――その表情、たまりませんよぉぉ。お股からウォータースプラッシュの魔法を出してくださいな。

 

 調子に乗った俺は、禁断の【魅了エロムード】を重ね掛けをする。


 「はぁん!(恍惚)」


「お。まだ理性を保っているのですか。堅物ですねぇ」


 ――わたしの堅ブツも魔力を帯びて参りましたよぉぉ。

 

「もうよい!取り調べの続きは明日だ(恍惚)」

 ――もうイッてしまうのですかぁ?


 独房の冷たい寝床で横になる。

 転生初日に捕まるなんて……。ついてない。けど、こんなチート能力を与えられるなんて。楽しい異世界スローライフ。否、スローセックスライフを楽しめそうだ。


「過労死で異世界転生した俺は、スローセックスライフすることにしました」

 

 俺を主人公にしたラノベが書かれるなら、こんなタイトルだろうな。

 そんな事を考えながら冷たい寝床で眠りに落ちていく。


 ――あれ?さっきまで寒かったのに……。あたたかい。

 

 目を覚ますと、エルフの取調官が俺にピタッとくっつき、熱い吐息が俺の首筋に当たる。

 ――ファイヤーブレスですかぁぁ。

 わたしの股間がボルケーノしそうです。


「さぁ! 見せてみよ! 魔力に長けているというエルフのウォータースプラッシュを!」


 【黄金の中指と薬指ゴールデンフィンガー】!


 ――どうやら新しいスキルを身に着けてしまったようだ。

 さらに、スキルを発動する。


暴れ狂う息子ベルセルクサン

 

 エルフの長い耳を甘噛しながら……。



 いたした。



 「したいことがあるから努力するんだ。それこそ人間の本質だと俺は思う」


 リ◯ル・テンペストの言葉がオレの心に響く。


 朝、独房の狭い寝床で目を覚まし、エルフの長い耳を優しく愛でようと触ると、俺の指に普通の人間の耳の感触が伝わってくる。薄い布団をめくると、恍惚とした表情の梨紗の顔が現れた。

 

  ――梨紗?


 なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?

 くそ!こいつもこっちの世界に来てるのかよぉぉぉぉ!


「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」

 

 

 そこで、目を覚ます。気づけば俺は自分の家のベッドにいる。

 どうやら、夢だったらしい。


 クソぉぉ!夢の中まで梨紗が出てくるなんて……。


 俺は、洗面所に行き、自分のパンツを洗った。

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