第7話 義妹と俺とBBQ

 とある初夏の日曜日。関西に誘われ、BBQへ。

 東京都神奈川の間を流れる多摩川沿いのBBQ場につくと、関西が俺の胸に綿テープを貼り、油性マジックで「カナト」と書いた。


「今日は人が多そうやからな」


 コミュニケーションおばけである関西の仲良しグループ。総勢25人。社会人サークルやら、よく行く居酒屋の常連たちやらに声をかけたら集まったとのこと。


「あ、横島奏斗!」


 色白さんもいた。なぜフルネーム……。あれから関西と付き合い始めたらしい。


 「今日はアユも誘ったんだけど、用事があるらしくて」


 ――ダーツプレイヤーアユ! いや、ダーツプレイヤー梨紗だ!来なくていい。

 主催の関西は忙しく皆を取り仕切っている。

 火起こしすらまだできてないではないか。

 

 俺は、ブラック企業の癒やしを求めて、たまにソロキャンプに行く。

 BBQテクニックを見てやろうじゃないか。俺はバーベキューコンロに着火剤、バトニングした薪、薪の順に並べる。火が付いたところに木炭を転がしていく。

 

 炭が熾るまでの間に手早く、魚の鱗をとり、アルミホイルで作った鍋にオリーブオイル、アサリやはまぐり、ニンニク、ミニトマトを入れ、アクアパッツァの準備をする。


 その様子をじっと覗いている、おとなしそうな、ちょっと地味な女の子。胸の名札に「チカ」と書いたテープが貼ってある。

 俺の料理を食べると、ぱっと明るい笑顔とフニャっととろける笑顔にドキッとする。


  取り分けた後の出汁で作るパスタ。これも大好評だった。


 ひと仕事終えて、関西と色白さんとキャンピングチェアに座り飲む。

 

「お前、昔から料理上手やな。BBQメンバーのレギュラー決定やで」

「学生時代からキッチンのバイトばっかりやってたからな」

「胃袋つかまれてもうたわ。横島奏斗ぉ、俺と結婚してや」

「色白さんにお願いしてくれ」



「はい〜! 飲んで〜! 吐いて〜! 飲んで吐いて〜」

 

 ちょっと離れたところから聞こえる。

 コールか。若いなぁ。

 ――って、おい、若くないぞ。


 アラフォーのおっさんが困り顔のチカちゃんに寄って集って。


 「んー。あれはちょっとあかんな」

 

 関西が救出に行き、チカちゃんを連れて戻ってきた。

 

「大丈夫やったか? 俺らとまったり飲もうや」

「ありがとうございます。逃げられなくて……」

 

「みなさんBBQはよくされるんですか?」

「俺らはあんまりせんけど、横島奏斗がよくソロキャンプいってるな」

「たまにな。ブラック企業で汚れた魂の洗濯だ」

「わたしも興味があって、いまキャンプギアを色々探してるんです」


 そういいながらフランクフルトを頬張るとまたフニャっとした顔をする。

 ――そのフニャ顔、反則でございます。

 わたしのフランクフルトからマスタードが垂れてますぞぉ。


「ワンポールテントが可愛いなとおもって」

 焼きそばを食べると、フニャっとした顔をする。

 ――わたしの股間のワンポールテントが設営完了しておりますよぉぉ。


 夕日が緩やかな川に反射している。

 

「そろろそ解散です!おつかれさまでした。各自ゴミは袋にまとめといてください」

 

 関西の仕切りで円滑に撤収が完了した。

 

「ほな、俺らは都内に戻って2次会といきましょか。チカちゃんも来るか?」

「いいんですか? はい」

 

 グッドジョブですよぉ。関西さん。

 都内に戻ると、駅に近い居酒屋へ入る。炎天下のした、汗をかいたので、酒がすいすいと入ってくる。日焼けした腕がヒリヒリするが、とても心地が良い。


 みんな明日も仕事だ。今日は早く解散することになり、関西と色白さんは仲良く手を繋いで帰っていった。

 

 見つめ合う、俺とチカ。

 ――むむむ。来るか?来てしまうんですか?


 「あの、キャンプギア見せてほしいんです」

 

 ――キターァァァァ!ファイヤー!わたしのロケットストーブが火を吹いております。


「じゃぁ、俺んち近いし、来る?」

「はい」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! BIG確定!


 ***


 家につき、まずは缶ビールで乾杯。

 部屋の中にソロテントを設営。エアマットに空気を吹き込み、寝袋をセッティング。


「こんな感じで寝るんだよ」

 

 チカがテントに入ってくる。


 「これって、2人だと……うふふ。流石に狭いですね」


 チカが出ようとすると、体制を崩してわたしの上に倒れ込む。

 ――ちょうどチカの手がわたしのふもとっぱらにぃぃぃ。

 テント! テンター! テンテスト! わたしの股間はテンペスト!

 

 いつの間にか、わたしのテントも2人用に膨れ上がっております!


 狭いテントの中で……。




 いたした。




  「ここをキャンプ地とする」

 心の中に藤村Dの言葉が響く。


 薄れゆく意識の中、洗面所に向かうチカの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。

 

 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。

 

 ――朝、掛け布団にワンポールテントが勃っている。

 布団をめくると、俺のポールを丁寧にお掃除している、いたずら顔の梨紗が顔を出す。


 ――梨紗?


 なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?

 くそ!地味っ子フニャ顔は卑怯だろぉぉぉぉ!


「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」

 

 俺のポールはポッキリと折れた。

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