第5話 義妹と俺と恋愛相談

 今日も激務だった。1日にやらないといけないタスク量は2日かかる。絶望だ。ジョッキに氷を入れ、ウィスキーと炭酸を注ぐ。タブレットでYoutubeを開き、至福のひととき。一気に飲み干し、ジョッキを左右に振り、カラカラと音を立てる。


 おつまみがほしい。炊飯器にうま味調味料をいっぱい入れて豚しゃぶやりたいかも。


 メッセージの受信音。スマホを見ると、関西出身の大学からの友達からメッセージ。


『今週の金曜日、飲まへん?』

『関西と違ってブラック企業の俺が平日に飲み?無理無理』

『華金やで?』

『黒い華が咲くわ。無理だ。諦めてくれ』


『今、通話できる?』

『うん』


 着信音が鳴る。

 

「なんだ?関西」

「ちゃうねん」

 ――なにが違うんだよ。


「横島奏斗、聞いてくれ!今な、好きな人がいるんやけどな。その子と金曜日飲むことになってんねやんか。お前も一緒に飲もうや」

 ――なんでフルネームで呼ぶんだよ。

 

「それなら尚更1人で行けよ。俺がいても邪魔なだけだろ。」

 

「ちゃうねん、まだ2人きりで飲むとかそういう感じやなくて、なんやこう、こっちから誘ってんけどな、そしたら友達もさそう言うて、俺にも誰か連れてきて言うねん。」

 ――ま、そういうことなら俺にもいい出会いがありそうだ。


「OKわかったよ」


 ***


 金曜日、この日のタスクは諦めた。休日で巻き返すか。

 席を立つと部下が話しかけてくる。


「横島さん、今日は早いですね」

「飲み会があってね、残りのタスクは、明日午前中にやるよ」


 ちょっとウキウキしながら会社をでる。

 渋谷、新南口から歩いて5分の小さなビルの2階。こじんまりとしているが、一枚板のテーブルが店内の梁とマッチしていて、良い雰囲気の居酒屋に着くと、既に席に着いている3人が目に入った。


 色白で細身の綺麗な女性と、ほんわかした雰囲気をしている可愛らしい女性、向かいの席に関西が座り俺に手招きをする。


「こいつ、大学から友達の奏斗。彼女は色白さん。で、色白さんの友達の、えーっと」

「アユです」


 色白さんが言葉を挟む。

 

「このこちょっと天然はいってて超可愛いの。」

「か、奏斗です。横島奏斗」

「あほか、何緊張してんねん」


 関西と色白さんはダーツバーで出会ったらしい。お調子者の関西と明るい色白はお似合いだな。


「とりあえず生」

「じゃ、じゃあ、俺も生」

「私、レモンサワー」

「わたしも」


 関西のどうでもいい話が続く。

 ――マジで、どうでもいい話!

 

「色白ちゃん、関西くんの隣に行きなよ。関西くんが気になってるんでしょ?」


 唐突の天然っぷり。必然とアユちゃんの隣になる俺。

 関西と色白さんのの顔が赤くなる。

 ――出た!両片思いだ!


 その後は俺も饒舌モードになり、話は盛り上がる。

 二次会は2人が出会ったというダーツバーへ。


 薄暗い店内に、カウンターのLEDとダーツマシンの光が眩しく光っている。


「2:2で勝負な!負けたほうが自腹テキーラ」

「いや、俺、ダーツあんまりやったことないし、ズルだろ」

「奏斗くん、だいじょうぶ。わたし、ダーツ得意」


 アユがダーツ上手いイメージは無いが、嫌々承諾。


「ドゥーン! ドゥーン! ドゥーン!」


 いきなり3投ともど真ん中に命中させるアユ

 ――まじで上手いのかーー。


 しかし、結局俺が足を引っ張り、テキーラを飲むアユと俺。

 ――かぁぁ。喉が焼ける。


「よし!リベンジだ!いくぞアユちゃん」


 「ドゥーン! ドゥーン! ドゥーン!」


  やはり3投ともど真ん中に命中。同時に俺のハートにも矢が刺さった。

 ――君のインブルにハットトリック! AフライトよりCがいい!


 なんとか、俺達が勝った。

 ――君のクリケットに20トリ!そうです、略してクリットリ!


 「ふう。疲れたね」


 色白さんがいう。


「そうだな、そろそろ解散しようか」


 解散だ。

 色白さんと関西は2人で手を繋いで帰っていく。

 

 「わたしも帰ります」


 とアユ。

 残念だ。逃した魚はでかかったがしょうがない。1人、締めのラーメンでも食って帰るか。俺は、渋谷駅近くの博多ラーメンの店に向かう。


「奏斗くん」

 

 振り返るとアユがいる。


「ダーツしたらお腹減っちゃってラーメン食べようと思って」

「同じく。締めのラーメンを」


 っしゃぁぁぁ!魚付いてました!根掛かりではありませんでした―!

 俺達はラーメンを食べて、アユが食べ終わるまで瓶ビールを頼んで飲んでた。


「あ……」

「ん?どうしたの?」

「終電無くなりました。奏斗くん、朝帰るから、泊めて」


 ふぉぉぉぉ!鮎が釣れたァァァ。


 ***


 お酒も飲み、2人きりの部屋。そうなることは必然で。間接照明だけの部屋。アユは服を脱ぎ始める。艷やかな肌は光を反射させている。

 ――やっぱり、アユは天然に限りますねぇ。わたしの腰もビクビクしております!


 ラーメン、◯ーメン、ボク駅弁!

 替え玉、キ◯玉、おったまげ!



 いたした。


 

 「人生の成功者ではなかったけれど、ダーツを楽しんだ成功者として人生に悔いはない」

 心の中に伝説のダーツプレイヤー、バリー・トゥモローの言葉が響く。


 薄れゆく意識の中、洗面所に向かうアユの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。

 

 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。

  ――朝、スマホのアラームが、残したタスクをしないといけない休日の俺を目覚めさせる。


 傍らに眠る、アユを起こさないようにそっと布団でようとするが、ぴったりと抱きつき梨紗が離れない。


 ――梨紗?


 なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?

 くそ!ダーツもうまいのかよぉぉぉ!


「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」

 

 以降、俺がダーツをすることは無くなった。

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