第4話 義妹と俺と取引先

 都内のベンチャー企業。

 そう言えば聞こえは良いが、蓋を開けてみるとイメージは崩れる。

 俺は、マーケティング担当だ。

 そう言えば聞こえは言いが、蓋を開けてみるとイメージは崩れる。


 朝から晩まで、腰を痛めながらパソコンに齧りつき、広告の出稿と広告効果の測定、その報告の作成。広告代理店とマーケティングツールの会社との打合せの毎日。


 今日も、広告代理店とのリモートで定例会議をこなし、間髪を入れずに次の打合せ。俺が入社する前から導入されているマーケティングツールを提供している会社の担当者とのリモートでつながる。


「お世話になております。今日は新しく入社した川田も参加させていただきます」

「あ、よろしくおねがいします」


 俺と、俺の部下、担当とその部下の川田さんの顔が4分割されたモニターに映る。


「という、新機能が追加されましたので、是非今後ともよろしくおねがいします。」

「あ、それと、明後日の会食の場所を後ほどメールさせていただきます。」


 長い付き合いのこの会社との半年に一度の会食。契約更新の根回しだ。まあ、美味しいものを食べられるし、会計は先方持ちだし。タダ酒が飲める良い風習だ。


 ***


 東京、六本木の和食割烹のテーブル席に4人が座る。新人の川田さんもいる。清楚で初々しい彼女。ビジネスマナーもしっかりしていて好感が持てる。挨拶もそこそこに契約更新についてのアピールが始まる。


「弊社は来期、BIを強化いたします。昨今のAIの進化のなかで国内で一番最初に実装することになりまして、何卒今後とも!」


「私は、御社にこの機能がマッチしているとは思いません」


 川田さんがきっぱりと言う。


「おい、何を言っているんだ」

「だって、そうじゃないですか。先日のお打合せでお聞きした業務フローにまったく関係ないです」

「君は黙ってなさい」


 随分はっきりいう子だな。でもそういうの、嫌いじゃあない。


「ははは。いえ、正直に言ってくれると逆に信頼できます。来期もよろしくおねがいします。」


 ぶっちゃけ、今更他のシステムに移管するのが面倒くさいんだ。

 「契約更新の内諾」を得た担当者はご機嫌だ。高いボトルをどんどん注文する。

 普段なら、酒を飲むとタガが外れそうになるが、流石に取引先相手にスケベ発言をするわけには行かない。必死に理性を保っていた。


 しかし、部下が阿呆な質問をする。


「担当者さんは、浮気とかしてるんすか?」

「えー。そりゃぁ私も男ですから、するかしないかで言うと……してますね」

「え?社内ですか?もしかして、お相手は川田さんだったり?」


「部下さん!いくらお客様でも怒りますよ! そんなこと絶対ないです」

「あはは。川田は派遣なのに真面目だからな。でも、実際はどうなんだ?お前実はエロそう」

「仕事が忙しすぎて彼氏すらいないです! もういいです。私は飲みに集中します」


 お、固そうな人だな。こりゃ流石に手を出すわけにはいかない。


 接待は楽しい雰囲気でお開きになった。


「おい。川田。もう帰るぞ。お前家はどこだ?」

「う……実家暮らしれすー。目黒駅の方れす」


 あらら。潰れる寸前じゃないか。


「あ、俺と同じ駅ですね」

「そうなんですか、大変申し訳ございませんが、お車代は支払うので送っていってもらってもよろしいですか?私は門限がございまして……」


 「はい、近いのでお任せ下さい。川田さん、行きましょう」


 酔っているものの、平常を保とうとしている。

 一緒にタクシーに乗る。


「目黒駅方面へおねがいします」と運転手に伝え、酔の余韻に浸る。

 15分ほどで目黒駅の近くまで来た。


「川田さん。川田さん! お家の場所教えて下さい」

「……」


 だめだ。


「お客さん、どこに行けばいいですか?」

「えー、とりあえずそこを右に行って下さい」


 しょうがない。俺の家の前で停めてもらい、川田さんを担いで車を降りた。


「川田さん! 川田さんー」


 反応がない。うーん。しょうがない。家に連れて行くか。

 家に入ると川田さんをベッドに転がすと、すぅすぅと寝息を立てている。

 ――くそぉぉ。据え膳じゃあかいか!

 

 取引先だし……。でも、酔ってるし……。でも、とりあえずお乳だけは触っておこう。

 もみ――。もみもみ――。もみもみもみ――。

 俺はソファに倒れ込む。悶々としながらも眠気が俺を誘う。




 ――重い。うーん。金縛り?

 目を開けると、俺に跨る川田さん。


 「ねぇ、さっき私の胸、触ってたでしょ」


 醒めていない酔いがぶり返す。

 ――据え膳食わぬは男の恥でございます!


「ごめんね。スーツのまま寝かせちゃって。パジャマ貸そうか?」

 ――さあ、お脱ぎなさい。ヌード、ヌーダー、ヌーディスト!


 シャツのボタンを1つ外す。

 私の私が20度、角度を上げる。


 2つ目のボタンを外す。

 私の私は更に20度角度を上げる。

 

 全部のボタンを外す頃には、東京タワーの完成です!のっぽーーーん!

 ホックは私が外して差し上げましょう。

 必殺! 乳当て外しホックブレイカーぁぁぁぁ


 川田のお胸がぺろりんちょ。そこを私がぺろりんちょ。

 あなたの心をマーケティング。股間の広告を出稿さ。

 寝心地の悪いソファの上で

 


 いたした。



「何かをさせようと思ったら、いちばん忙しいやつにやらせろ。それが事を的確にすませる方法だ。」


 心のなかにナポレオン=ボナパルトの言葉が響き渡る。

 


  薄れゆく意識の中、洗面所に向かう川田さんの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。

 

  我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。


  ――朝、スマホのアラームが、取引先と取引した俺を目覚めさせる。


 傍らに眠る、川田さん愛でようと布団をめくる。猫のように丸くなって寝転がる梨紗がおはようという。


 ――梨紗?


 なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?

 くそ!取引先にも潜入してやがったか!


「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」


 俺は出社すると、決済者に契約更新は一旦保留を報告した。

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