彼女が何も楽しめなくなるまでの物語
吉田陽春
2024年5月3日 恵美31歳
今年のゴールデンウィークはあまり長く感じない。
前半の三連休が終わると三日間平日になるからだ。
夫は出勤だったし、子どもたちも学校へ行った。
そして今日からまた四連休が始まる。
外は太陽の光が暖かく風もない。
夫の提案で庭でバーベキューをすることになった。
庭から子どもたちの笑い声が聞こえる。
キッチンで食材を用意していると
「ママ!早くお肉焼こうよ!」
「恵美、火の用意出来たよ」
「ママー!一緒にジュース飲もうよー!」
家族に声をかけられた。
私は笑顔でこう答えた。
「分かった!今行くねー!」
傍から見れば幸せな家族そのものだと思う。
そう、幸せなはずなのだ。
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【2024年5月3日 21:36】
私は気付いてしまった。
私が求める無償の愛はどこにもなく、私はありのままではいけないのだと。
私は些細な事に良く気付く。
他人の仕草、言葉の発し方、選び方、行動、外見の変化。
全てが気になる。
そして気付けば相手を快適にしたいと思い相手の好きなやり方や、相手にとっていいやり方に寄せる。
だから疲れる。知らぬ間に疲れてメンタルが不安定になる。
私のメンタルが不安定になると夫はイライラする。
そして子どもは私の機嫌を伺いフォローをしてくるだろう。
私はそういう子どもの気持ちを良く知っている。
だからこそ私はカウンセリングに通い、動けなくった時には服薬をした。
だいぶうまくやっていたはずだ。
自分で自分の機嫌を良く保ち、周りに迷惑をかけないように、最善の方法を考え実行し過ごしてきたはずだ。
周りに迷惑をかけないように、家族が快適に過ごせるように、子どもが健やかに育つように、この十年間バランスを保つようにやってきたはずだ。
それでも、私は、もう消えてなくなりたい。
でもそれはしない。
私は子どもたちの人生に「愛する母が自分で死を選んだ」というエピソードを加えたくないと思っている。
だから死なない。でも辛い。
私は自分を状態良く保ち、家族や周りに迷惑がかからないように過ごしてきた。
でも今分かってしまった。
人間の本質は変わるものではない。
たぶんこの先もこれ以上私は変わることが出来ない。
過敏な私は変わらない。
そんな私を誰かに「そんな恵美の良いところも悪いところもありのままでいいんだよ」と愛してほしいと思っている。
でもそれは相手にとって負担でしかないだろう。
私が欲しい無償の愛を、夫に求めてはいけない。
子どもたちになんてもってのほかだ。
でも私は自分で自分に愛を注げない。
今日はバーベキューをした。
子どもたちも夫も楽しそうだった。
何の問題もないと思う。
なのにどうして私は消えたいと思っているの?
どうしたら良いかもう分からない。
どうしてこうなったのか、誰か教えてほしい。
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