第18話 受け繋ぐ役目。

「ばっちゃん 僕ね……」真一は ばっちゃんの目を見て ゆっくりと話し出した。


かいが 視えていること 誰に話しても わかってもらえなくて なんか 色々と……諦めちゃってたんだ……。『変わったやつ』って 小さい頃から ずっと言われてたし……。学校に 友達も いなくて……友達が いないのは 別に割と 平気だったんだ。代わりに あやかしが 友達で いてくれたから……。町中は かいも 人も多くて 僕は 苦手で……だから 僕は 学校帰りに いつも神社に 寄ってたんだ。そこで あやかしと 仲良くなったんだ。」真一は 喉が渇いたのか お茶を飲んだ。


「今 一緒にいる子達かい?」ばっちゃんは そっと聞いた。

「うん。はれ あめ くも ゆき みぞれだよ。」真一は 紹介した。

「精霊さんなんだね……。可愛い子達だね。よろしくね。」ばっちゃんは 微笑んで 頭を下げた。

「ばっちゃん よろしく。」「よろしく。」「僕 くもだよ。よろしく。」「私は ゆき。」「よろしくね。」精霊達は 一斉に 返事をした。

「はいはいはいはい。よろしくね。」ばっちゃんは ころころと笑った。


「この子達は 楠杉江神社から 来たんだ。」真一は 言った。

「あー。あの山の麓の神社かい?」ばっちゃんは 思い出すように 話した。

「そうそう。その神社の長老に……あっ この子達 精霊達の長老なんだけど……。」真一が 言うと ばっちゃんは うんうんと頷いていた。

「長老と色んなこと 話してたら この子達と契約しちゃって……。」真一は どう話そうか 考えていると ばっちゃんが「契約……?」と 不思議な顔をした。


「うん。僕……妖怪師あやかいしに なった……。それと くれないと桜ちゃん 琥珀さんとも 契約しちゃって……神怪師かみかいしにも なったんだ。それに くれないに 白龍様が 付いてるから 龍怪師りゅうかいしでも あるらしい。ややこしいことに なっちゃって ごめん。ばっちゃん。」真一は 胸の前で 両手を合わせて 頭を下げた。

「おやまぁ……。おやまぁ……。」ばっちゃんは 繰り返し呟き 両手を 口に当てて びっくりしていた。


ばっちゃんは 呟いた後 何度か 深呼吸を 繰り返していた。

「大丈夫……?落ち着いた?ばっちゃん。」真一は 心配そうに ばっちゃんの顔を 覗き込んだ。

「うん。大丈夫だ……。ちょっと びっくりしちゃっただけ。ふうーーー……。」ばっちゃんは 大きく息を吐いた。

妖怪師あやかいしは 聞いたことがある。神怪師かみかいしと 龍怪師りゅうかいしは 初めて聞くね……。」ばっちゃんは 右手で胸を 押さえていた。


「うん。神怪師かみかいしと 龍怪師りゅうかいしは 長老も 珍しいって 言ってた。神怪師かみかいしは あやかしの代わりに 神様と一緒に かいを祓う人だって。龍怪師りゅうかいしは くれないを介して 白龍様も 扱える人だって……。」真一は 説明した。

「そうかい……。じゃあ 真一は 妖怪師あやかいしと 神怪師かみかいしと 龍怪師りゅうかいしの3つの仕事を するのかい?」ばっちゃんは 心配そうな顔で 聞いた。


「いや……。僕は 3つのことを 同時に出来る程 器用じゃないから……長老が言うには この子達は 元々 戦闘向きじゃないらしい。傷付けたくないのもあるけど 何より 僕が 戦わせたくないんだ。でも 僕と一緒にいたいって 言ってくれてるし……その気持ちは 僕は 嬉しくて……だから 妖怪師あやかいしは 開店休業状態に しておくことにしたよ。」真一は 微笑んだ。


「うん。わかった。だからと言って 心配していないわけじゃないよ……。ばっちゃんも 大事な孫が 傷付くのは 嫌だ。真一が この子達を 大事に思うのと一緒でね。でも 真一の人生は 真一が 好きに 生きていいんだよ。」ばっちゃんは にっこりと微笑んだ。

「ありがとう。ばっちゃん……。僕は くれない達と一緒に 神怪師かみかいしを やってみるよ。龍怪師りゅうかいしは 神怪師かみかいしをやってみて 慣れて来たら おいおいって感じで 今は 考えてる……。ただ……神怪師かみかいしと言っても 何から 手を付けたら いいのか……いきなり 神怪師かみかいしに なっちゃったから……。」真一は 困った顔をしていた。


「そうか……。うん。話す時期が 来たのかもしれないねぇ……。」ばっちゃんは お茶を 飲み干した。

「話す時期……って 何……を?」真一は 少し不安そうな顔をした。

「ちょっと 待ってね。お茶のおかわりを 淹れようかね。真一は カフェオレでも 飲むかい?くれないさん達も コーヒー飲むかい?」ばっちゃんは 微笑んで 皆に聞いた。


「コーヒー?何か わからないけど 飲んでみるよ。」くれないは 答えた。

「あたしも 飲んでみたい。」琥珀は 安心出来たのか すっかり元通りの口調に 戻っていた。

「桜も 飲みたいー!」桜は 元気よく 手を上げた。

「ばっちゃん 手伝うよ。」真一は 座卓の下に置いてあった おぼんを取り出し 皆の飲み終わった 湯呑を乗せた。


くれない達の湯呑は ほんの少し お茶が 減っていただけだった。

へぇー。こんな感じなんだ?仏様に お茶あげるのと同じなんだな……と 真一は 湯呑を眺めた。

「桜も 手伝うーーー!」桜も 真一とばっちゃんと一緒に 台所に付いて来た。


「ありがとうね。桜ちゃん。私も コーヒーに しようかね。桜ちゃんも 真一と一緒のカフェオレに するかい?牛乳を入れるから 美味しいよ。」ばっちゃんは カチャカチャと 小さな音を立てて マグカップを5個出した。

「じゃ 真一くんと 一緒のにする。美味しいの好きー!」桜は 嬉しそうに言った。


ばっちゃんは コーヒーを作り 真一と桜の分に レンジで温めた牛乳を入れた。

「桜ちゃんは 甘いの好きかい?」ばっちゃんは スティックシュガーを 桜に見せた。

「うん。甘いの好き。」桜は 頷いた。

「じゃ お砂糖を 入れようね。」ばっちゃんは 桜のマグカップに 砂糖を入れて かき混ぜた。


仏様に お供えした物は 食べると縁起がいいと ばっちゃんから 真一は 教わっていた。

神様のだけど 飲んだ方がいいのかな?と 真一は 少し悩んで 湯呑に 口を付けた。

味が 薄い……そうか……。こうなるんだ……真一は 不思議に感じた。

今度 両親達にも 温かいお茶を 入れてあげようと思った。


真一は ばっちゃんが コーヒーを作っている間に 湯呑を洗って 片付けた。

「運ぶよ。」マグカップと スティックシュガー入れにしている小さなコップ 温めた牛乳を入れたミルクピッチャーを おぼんに乗せて 真一は 居間に運んだ。

マグカップを 皆の前に それぞれ置いて「ブラックで 飲むなら そのままで。もし 飲み難かったら 牛乳と砂糖を 入れるといいよ。」智は 言った。


「飲んだ?」くれないは ニヤッとしながら 真一を見た。

「え……?」真一は 一瞬で 頬が 赤くなった。

「大丈夫だよ。琥珀のだ。」くれないは あははと笑った。

「ん?何がぁ?」琥珀が くれないに聞くと「こっちの話だよ。」琥珀に 返事をして「でも 飲むのは 正解。」くれないは 真一に頷いた。


真一は「そっか……。」と 言いながら くれないの湯呑だったら もっとヤバかった……と恥ずかしくて 下を向いた。

「気に しなくていいよ。」くれないは 照れている真一を見ないように 目を瞑って コーヒーを飲んだ。

「苦いな……。」くれないは 顔を歪めた。

「砂糖入れる?」真一は 平常を装い 聞くと「このままで いいよ。」くれないは 首を横に振った。

「真ちゃん あたしのに入れてーーー。苦いーーー。」琥珀は いつの間にか 真ちゃん呼びになっていた。


「牛乳は?」真一は 琥珀のコーヒーに砂糖を入れて かき回しながら 聞いた。

琥珀は コーヒーを 一口飲んで「お砂糖だけで 大丈夫ね。」と 笑った。

「美味しい。」桜も 嬉しそうに カフェオレを飲んでいた。

「真ちゃん 私も飲みたい。」「俺も。」「僕も 飲みたい。」「私も 飲むー。」「真ちゃん 飲んでいい?」はれ達は また一斉に 話し出した。


「わかったわかった。僕の飲んでいいから。みんなで わけっこね?」真一が カフェオレの入ったマグカップを そっと前に出すと はれ達は 一斉に マグカップに群がって飲んだ。

「美味しいね。」「甘いね。」「これ好き。」「大人の味?」「美味しいー。」はれ達は 楽しそうに飲んだ。

「美味しいなら 良かった。」真一は 微笑ましそうに はれ達を見ていた。

ばっちゃんは 皆がコーヒーを飲むのを 嬉しそうに見て ばっちゃんも コーヒーを飲んだ。


「ふう……。」と ばっちゃんは 一息付き ゆっくりと話し出した。

「今まで 誰にも 話したことはない……。息子……真一のお父さんにさえ 話していないことだ……。」ばっちゃんは マグカップを 両手でそっと 包むように握っていた。

真一は 頷きながら ばっちゃんの話を 神妙な顔で 聞いていた。


「私の爺様……真一には 高祖父にあたる人だ……。爺様は 妖怪師あやかいしだったんだ……。自分の子供には 爺様と同じように 視える子供は いなかった……。今で言う 隔世遺伝なんだろうね。幸か不幸か 私が あやかしかいが 視えているとわかると 私に 妖怪師あやかいしを 継がせようとした……。」ばっちゃんは 少し俯いて 悲しそうな顔をしていた。

真一は どんな言葉を かけていいかわからず 黙って頷いた。


「両親が いない時を見計らって 何度も 妖怪師あやかいしなることを 勧められた。爺様曰く 視える者の使命……だそうだ。たぶん 爺様も そう言われたんだろう……。でも 私は 妖怪師あやかいしには どうしても なりたくなかった。」ばっちゃんの目は 涙で潤んでいるように 見えた。


「嫌だと ずっと言い続けた……。そしたら 爺様から 遠縁の親戚の家の手伝いをしろと言われて 家から 出された。追い出されたと言う方が 正しいかもしれない……。親戚の家では 毎日 田畑の手伝いをしたよ。休みなんて なかった……。でも 妖怪師あやかいしにならなくて 済んだ。そっちの気持ちの方が 大きかった。」ばっちゃんは 涙をこらえているようだった。


真一は 何も言わず 座卓の上に置いてあったティッシュの箱を ばっちゃんに そっと差し出した。

「ありがとね……。」ばっちゃんは ティッシュで 目頭を押さえた。

「爺様は ほとんど 毎晩出かけていた。夜中に かいを祓っていたんだろう。帰って来た時は 精魂尽き果てていて 泥のように眠っていた。もちろん 爺様は 凄い人だったよ。そんな爺様を見ていて 私に 妖怪師あやかいしが 出来るとは 思えなかった……。」ばっちゃんは コーヒーを一口飲んだ。


真一は 黙って頷いて 話を聞いていた。

くれない達も コーヒーを飲みながら ばっちゃんの話に 耳を傾けていた。

「私は 何よりも かいが 怖かった……。私の場合 波長が 合ってしまうと かいの感情が 私に 流れ込んで来るんだよ……。」ばっちゃんは 目を伏せた。

「それは……キツいな……。」真一は 口に手を 充てて呟いた。


「それを聞きながら 妖怪師あやかいしをやるなんて 到底出来ない。私は 視えない振りを 続けることを選んだ……。だから 真一にも 何も 話せなかった。隔世遺伝までさせて 真一にも 辛い思いを させちゃったね……。本当に ごめんなさい……。」ばっちゃんは そう言うと 涙を ポロポロと流した。

「ばっちゃん 大丈夫だよ。僕は たまに声が 聞こえて来る時が あるぐらいで かいの感情は わからないから……。隔世遺伝も ばっちゃんのせいじゃないよ。きっと たまたまだよ。ばっちゃんのせいじゃない!」真一は 同じ言葉を 2度繰り返した。


今まで 黙って聞いていたくれないが 口を開いた。

「うん。ばっちゃんのせいでは ないよ。強いて言うなら ばっちゃんのお役目かな……?ばっちゃんが 妖怪師あやかいしにならなかったのも 正解。」くれないは ばっちゃんに きっぱりと言った。

「そうだなぁ……。ばっちゃんが なりたいならって言う話だけど……ばっちゃんは やるなら 霊媒師かな。天界に 上がりたいのに 上がり方を忘れたかいを 導くみたいな?悪霊になったかいは 私達が なんとかする。だから 妖怪師あやかいしにならなかったことに ばっちゃんが 負い目を 感じなくていい……。」くれないは 優しい目で ばっちゃんを見ていた。


妖怪師あやかいしにならなくて 良かったんだね……。良かった。視えているのに 妖怪師あやかいしにならなかったことは 間違っていなかったんだね……。ありがとうね。くれないさん。爺様に言われたことで 気付かないうちに 自分で 呪縛をかけてたのかも しれないねぇ……。少し 肩の荷が 下りた……。」ばっちゃんは ティッシュで 涙を拭った。


「霊媒師……は またゆっくり 考えさせてもらうよ。今は 真一のことで 頭が いっぱいだ……。」ばっちゃんは 真一を見て 微笑んだ。

「うん。無理強いは しない。ばっちゃんが やりたいならって 話だ。」くれないも 微笑んだ。

くれない ちょっと気になったんだけど ばっちゃんのお役目って……?」真一は 聞いた。

「ん?簡単に言うと 真一に 力を分け与えて 私達に繋ぐ役目。そのために ばっちゃんは 力を持って生まれて来た。」くれないは サラッと言った。


「繋ぐ……。ってことは 僕が こうなるって決まってた……?」真一は びっくりして聞いた。

「まあ……大筋と言うか ある程度は……かな。」くれないは 真顔で言った。

「それって 人間全員?」真一は 思わず 聞いてしまった。


「んー……。例えば 選択肢は いっぱいある。違う道を選んでも お役目のある人は 結局 そこへ 辿り着く。ばっちゃんみたいに 自分がやるのではなくても 多少係わることになったり……みたいな?お役目は 大なり小なり みんなあるんじゃないかなぁ……。」くれないは 考えながら 話した。


「なんか 神様っぽいな。言うことが。」真一は クスっと笑った。

「っしょ⁈神様らしいよ?知らんけど。」くれないも 笑って言った。


「桜 お腹空いたな……。」桜は ボソッと呟いた。

「お茶菓子あるよ。大福食べるかい?」ばっちゃんは 大福を 袋から出して 桜に渡した。

「美味しそう!」桜は 大福に かぶり付いた。

「あたしも 食べたいーーー。」「俺もー。」「私も 食べたい。」「僕も 食べる。」「ゆきもー。」「みぞれも 食べたい。」琥珀とはれ達が 一斉に 話し出した。


「わかった。待って。待って。」と言い 真一は 慌てて 大福を袋から出して 琥珀に渡し「はれ達は こっち。」と もう1個大福を 袋から出して 袋を 小皿の代わりにして その上に 大福を置いた。

「みんなで 分けてね。」大福に かぶり付くはれ達を見ながら 真一は やっと一息ついて すっかりぬるくなった カフェオレを飲んだ。

「味 薄っっっ。」真一は まじまじと マグカップの中を 覗き込んだ。コーヒーの味も 香りも ほぼ抜けていた。


嬉しそうに 大福に かぶり付く琥珀と はれ達を眺めながら 真一は カフェオレを飲んでいた。

真一は うるさいのが 1人増えたな……と思った。琥珀は 大福を頬張ったまま 真一を睨んだ。

しまった……そうだった……なかなか慣れない……なと 真一は 苦笑いをした。

そんな真一を見て 琥珀は 俯いて微笑んだ。


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