第16話 見えているものと 視えていること。

小鳥のさえずり声に混じって 囁く声が 聞こえて来た。


「真ちゃん 大丈夫かな?」「わかったかな?」「僕は よくわからない。」「大変そうだね。」「これから どうなるのかな?」「心配だよ。」精霊達が また一斉に 話し出した。

「これこれ 静かにしなさい。真一が 全てを心に 落とし込むまで 時間をやりなさい。」長老は 皆を窘めた。

「あ……大丈夫です。ちょっと頭が 追いつかないだけで……。」真一は 作り笑いをした。


「私達も 何が 何だか……。」くれないは 頭の後ろを掻いた。

「桜に 出来るのかなぁ?」桜も びっくりし過ぎて 逆に へらへら笑っていた。

神怪師かみかいしねぇ……。」琥珀も 顎を撫でて 上を見ながら 考え込んでいた。




「でも……さっき 長老が言ってた 契約って いつ されたんですか?僕も 何が 何だか わからなくて……。」真一は 長老に聞いた。

「それがのう……わしにも よくわからんのじゃ……。知り合いの妖怪師あやかいしが遠くで 契約したのを 見かけただけじゃ。その時に 妖怪師あやかいしが あの眩しい閃光が 契約の証だと教えてくれた。ただ ある言葉を お互いが 自然に言い合うと 契約が 成立するとしか わしも 聞いていない。その言葉は 誰から 教わるものでもないと……。」長老は 思い出すように言った。

「どの言葉だったんだろう……?」真一は 首を傾げた。


「守るって 言った。」「僕も 言った。」「私も 真ちゃん 守るって言った。」「俺も 真一を守る。」精霊達が 口々に 言い始めた。

「あっ!僕も 僕が 守らなきゃって……言った。」真一は 思い出したようだった。

「そう言えば 私も 言ったな。」くれないも 驚いた顔をした。

「桜も 真一くん 守るって言った!」桜は 両手を 口元に持って行き びっくりしていた。

「あたしも 真一守るって……。」琥珀も 目を見開いた。

「おぉ……そうじゃな……。きっと その言葉で あろう。」長老は 感嘆した後 優しい顔で 微笑んだ。


「w。>9@えb」「ql+;お<&」「#%rsvzp」「@*。¥、k」「hgm=+*x」長老は また呪文のような言葉を 発した。

すると 真一の側に 5人の精霊が 集まった。

「お前達は どうしたいんじゃ?真一と 一緒に 行くのか?ここに 残るのか?」長老は 5人に聞いた。

「真ちゃんと 一緒にいる。」「俺は 行く。」「僕も 行きたい。」「私も 真ちゃんがいい。」「真ちゃんといる。」精霊達は 口々に答えた。


「じゃあ 契約は 成立したままで よいな……。」長老は 5人を見て 微笑み「どのみち わしも 契約解除のやり方は 知らん。」長老は ふふふと笑って言った。

「真一 この子達に 新しい名前を 付けてやってくれ。皆が 呼びやすいようにのう……。」長老は 心なしか 寂しそうに見えた。

「あ……えっと……んーーーっと じゃあ はれ あめ くも ゆき みぞれ……で どうかな?」真一は 精霊達を 順番に見渡した。

「私 はれ?」「俺 あめか。」「僕が くもだね。」「私 ゆきちゃん。」「私が みぞれちゃんね。」精霊達が 一斉に話した。


「お?はれ あめ くも ゆきに みぞれか。良い名前じゃん。よろしくねーーー!」くれないは 手を上げて 精霊達とハイタッチした。「いえ~~~い。」「よろしく。」「くれないちゃんだよね?」「私 ゆきだよ。」「これから よろしくね。」精霊達も 嬉しそうに 声が弾んでいた。

桜が 小さな声で 飛び交う精霊達を 見ながら「琥珀さんは 見分けがつく?」と 不思議そうに 琥珀に聞いた。

「無理ね……。大丈夫よ。真一とくれないは 区別付いてるみたいだから。」琥珀は 桜の耳元で 笑って囁いた。


「真一 この子達を どうか……どうか 頼む……。この子達は この神社から出るのは これが 初めてじゃ。怪我を させないように 傷付かないように……してくれ。」長老は 頭を下げた。

「長老 頭を上げて下さい。この子達は こんな僕を 頼ってくれるんだから……僕は……この子達に 怪我をさせません。絶対に 守りますから!」真一は 心を込めて言った。

「私達も付いてるから 大丈夫だ。」くれないも頷いて きっぱりと言った。


「とは 言っても……何から 手をつけたら いいのか……。」真一は 半笑いで言った。

「確かにのう……。いきなり 妖怪師あやかいしだの 神怪師かみかいしだの 言われても 困るじゃろう?妖怪師あやかいしの知り合いが まだ ここにいたら 紹介して やれるんじゃが……今は ここに いないんじゃ……。なんでも 武者修行すると言って 全国を周ると 言うておった。」長老は 残念そうな顔をした。


「大丈夫です……。それに 僕は そこまで器用じゃないから 神怪師かみかいし 妖怪師あやかいし 龍怪師りゅうかいしの3つを 平行して 同時に やれる自信は ありません……。僕は くれない達が 一緒にいてくれる間は まずは 神怪師かみかいしメインで やってみようと思います。いい……?」真一は そう言いながら くれないと桜と琥珀の顔に 視線を移した。


「もちろん。真一が それで いいなら。」くれないは 頷いた。

桜と琥珀も うんうんと頭を 上下させて 頷いていた。

「ありがとう……。じゃあ 手探りで 神怪師かみかいしを やってみます。龍怪師りゅうかいしは 白龍様にも ちゃんと確認したいから おいおいで……やれそうならって 感じでいいかな……?」真一は くれないに手首に 視線を落とすとを ブレスレットになっている白龍は キラリと光った。


「長老 僕は 大切な友達であるこの子達を 傷付けたくありません。」真一は はれ達を見た。

くれない達も 白龍様も 僕と一緒に いてくれてる……。だから……妖怪師あやかいしは 開店休業状態に しておきます。」真一は 長老に向かって にっこりと微笑んだ。

「そうか……。そうしてくれるか……?本当に ありがとうじゃ……。真一。」長老は 今にも 泣き出しそうに 真一に 頭を下げた。


「はれも 戦う。」「俺は 真一と一緒に行く。」「僕も 頑張る。」「私 側にいる。」「私も 一緒にいる。」はれ達は また一斉に 話出した。

「ダメダメ。戦わないで?これは 僕との約束だよ?僕と一緒に いてくれるだけで いいんだ。」真一は はれ達に 慌てて話した。

「じゃ 指切りね。」「約束だ。」「くもも 指切り。」「指切りげんまんするー。」「みぞれも する。」精霊達は 一気に 真一に 群がって来た。


真一は 慌てて 小指を立てて「はいはい。指切りね。順番だよ。」と 笑って言った。

精霊達と話す真一の声は とても優しかった。

精霊達は 嬉しそうにキャッキャッと言いながら 順番に真一と 指切りをした。

琥珀は 嬉しそうに はしゃぐ精霊達と 笑顔の真一を見ながら まだその輪の中に 入れない自分が 少し寂しく思えた。

桜は 無表情のまま 無言で 琥珀の頭を わしゃわしゃと 撫で続けた。


「あっ……。ひとつ誤解しないで 欲しいんだけど……僕は くれない達も 傷付ける気は ないからね。と……友達だから……ね。」真一は くれないにも 笑顔を向けた。

「真一ーーーーー!そこは 大切なを 付けろよー。大・切・な・友・達だろう?」くれないは 真一の頭を抱えて ヘッドロックをかけた。

「ごめんごめん。た……大切な友達だよ!」真一は くぐもった声で 必死に付け足した。


くれないは 真一に ヘッドロックをかけたまま 琥珀を見て どや?とばかりに 親指を立てた。

琥珀は 桜に わしゃわしゃと 頭を撫でられたまま 顔をくしゃっとさせて 泣きそうな顔で笑った。 

桜は 笑顔で くれないに ウィンクした。


「真一は これから どうするんじゃ?」長老は そっと聞いた。

「どうしましょうね……。神怪師かみかいしと言っても 何をどうしたら 神怪師かみかいしになれるのか……。くれない達とも 相談してみないと……。そもそも どうやって かいを祓うのかすら わかっていませんし……。」真一は 苦笑いをした。


「そうじゃな……。わしも 妖怪師あやかいしのことを そんなに詳しくは 知らないからのう……。さっき言っておった 知り合いの妖怪師あやかいししか 知らん。遠くで契約したのを見たと 言ったじゃろう?はっきりとは わからんが 主のいなくなったあやかしの主に なってやっていたのかもしれん……。もちろんかいを 祓うために 契約したのかもしれんが 真一みたいに 守るために 契約したのかもしれん。こればっかりは そいつじゃないと わからんのう……。」長老は 遠くを見ていた。


「そうなんですね……。長老は かいを 祓っているところを 見たことは ないんですか?」真一は 素直に聞いた。

「……ないな……。元々 その妖怪師あやかいしは ふらっとこの神社にやって来ては『最近は どうだ?』ぐらいの世間話しか したことは なかった。そいつの名前も 何者なのかも 知らん。たまたま あやかしと契約したところを 見かけたから 話してくれただけだと思うぞ?ただな……これを言っても いいものか……。まあ 何かのヒントに なるかもしれんからのう。話しておくか……。そいつから たまにじゃがな 黒龍の匂いが していたんじゃよ。」長老は 思い出しながら ゆっくりと話した。


「黒龍か……。もしかして その人も 龍怪師りゅうかいしだったのか?それとも 神怪師かみかいしだったのか?後で はくちゃんにも 聞いてみるか。」くれないは 思案顔になった。

「何か 少しでも ヒントになれば いいんじゃがのう……。それぐらいしか 憶えておらん。」長老は すまなそうに言った。

「そう言えば……昔 ばっちゃんから 聞いたことが ある……。確かこの地方に 黒龍様が 祀られている神社が あるって……。ただ 地元の人と 黒龍様に呼ばれた人以外 辿り着けないって聞いた。」真一は 思い出したように言った。


「あっ……。そっちの可能性も あるわね?例えば 黒龍様のいらっしゃる神社の神主なら 匂いが 移るのも 有り得るわよね?」琥珀は 真一を見た。

「あっ それかも?昨日の夜 ネットで調べた時 かいを祓うから 神主や宮司など 神職に就いている者が 兼任しているんじゃないかって言う噂が あるって書いてあった。もしかすると その黒龍様のいる神社の神主様が 妖怪師あやかいしだったとか……?」真一は 長老に聞いた。

「う~~~ん。その妖怪師あやかいしは 神主の恰好じゃなかったぞ?作務衣を 着ておった 気がするのう。」長老は 思い出しながら 言った。

「そっかぁ……。困ったな……。」真一は 考え込んだ。


「真一くん ばっちゃんに その神社のこと 詳しく聞いてみるのは どう?桜も ばっちゃんに会いたいし!」桜は 明るい声で言った。

「それ いいな。はくちゃんにも ゆっくり話を 聞きたいし。」くれないも 嬉しそうだった。

「真一 急に お家にお邪魔しても ばっちゃんは 大丈夫かしら?」琥珀は 真一に聞いた。


「そうだね……。ばっちゃんに 聞いてみた方が 詳しくわかるか……。確かに 白龍様からも 話を聞きたいし……。ここで 白龍様と話すと 皆を 怖がらせちゃうね。」真一は 苦笑いをした。

「ばっちゃんには メールをしておくから 大丈夫だよ。」真一は 琥珀に言った。

「ただ びっくりするだろうな。友達なんて 連れて来たことないし……。」真一は 照れくさそうに笑いながら ばっちゃんにメールをした。


「真一 くれぐれも この子達を よろしく頼むぞ?」長老は 真顔で 真一に言った。

「はい!わかりました。また これまで通り ちょこちょこ ここに寄りますね。」真一は にっこりと笑った。

「はれも 来る。」「真ちゃんと 来る。」「また 来るね。」「私も 来る。」「一緒に 来るね。」はれ達は また一斉に 話した。

「わかったわかった。いつでも 来るといい。」長老は 嬉しそうに微笑んだ。


「んじゃ 行こっか?」くれないは 皆に 向かって言った。

「行こう。」「一緒に 行こう。」「真ちゃん 行こう。」「ゆきも 行く。」「みんなで 行こう。」「わかったわかった。行こう。行こう。」真一も 笑って立ち上がった。

「また 来るよー。」桜は 長老に 声をかけた。

「行って来ます。」琥珀は 長老に 丁寧に お辞儀をした。


「行ってらっしゃい。気をつけてのう……。」長老とたくさんの精霊達が 一斉に手を振りながら「いってらっしゃい。」「いってらっしゃーーーい。」「いってらっしゃい。」いってらっしゃいの大合唱の中 真一達は 神社を後にした。


帰り道は くれない 真一 琥珀の順に 3人で 並んで歩いていた。

桜の定位置は いつの間にか 琥珀の肩の上に なっていた。

「あっ。そうだ。はれ達に 紹介しておくよ。私のこのブレスレットは はくちゃんって 言ってね。大きな大きな白龍様なんだよ。大きいままだと みんなにバレちゃうから 今は 小さなブレスレットになってもらってるんだよ。」くれないは 真一の周りを 飛び回っているはれ達に 見えるように 手を上げて ブレスレットを見せた。


「小っちゃいじゃん。」「怖くないじゃん。」「白龍って 大きいの?」「小さいよね?」「怖くないね。」はれ達は 思い思いの感想を 言った。

(ふぉふぉふぉ。わしは 怖くないぞよ?)白龍は のんびりとした声で言った。

「龍が 喋った。」「話せるの?」「はくちゃんって 言うの?」「私は ゆき。」「みぞれだよ。」口々に言う 声を聞き「あーーー。はくちゃん 紹介が まだだった。この子達は……」くれないが 言いかけたところで(大丈夫じゃよ。はれ あめ くも ゆきに みぞれじゃろう?」よろしくのう。)白龍の優しい声が 響いた。


「よろしくね。」「よろしく。」「よろしくお願いします。」「仲良くしようね。」「お願いね。」はれ達は くれないの手首の周りを ぐるぐると飛び回った。

「ちょっっっっっ。くすぐったいって!」くれないは ケラケラ笑った。

「大丈夫かな?はくちゃん 大きくなった時 みんな 怖がらないかな?」桜は 琥珀の肩の上から そっと琥珀に 聞いた。

「たぶん 大丈夫……。きっとその時は みんな『大きいね。』『大きい。』って言うだけだと 思うわよ?」琥珀は クスクスと笑った。


「あーーーーー。ってかさ さっき言える雰囲気じゃなかったから 黙ってたけど 私って はくちゃんの匂いする?匂うの?臭いの?」くれないは 自分の身体の匂いを クンクン嗅ぎながら みんなに聞いた。

「大丈夫だよ。僕には 匂わないよ。」真一は 慌てて言った。

「匂うよね?」「匂いするよ。」「臭くは ないよ。」「はくちゃんの匂いだね。」「匂いするね。」はれ達が 口々に言いだした。

みんなの声を 聞いて「私 はくちゃん臭いのかーーー。」くれないは 頭を抱えた。


くれないちゃん 大丈夫よ。桜達は 臭くないよ。ほらっ はれちゃん達 精霊だから きっとわかるだけだよ。」桜は 一生懸命慰めようとした。

(ふぉふぉふぉ。わしは きっと良い匂いのはずじゃ。知らんけどのう。)白龍は 愉快そうに笑った。

「なんか やだ……な。あっ。琥珀が これ付けるのは どお?」くれないは 目を キラキラさせて言った。

「え⁈ あたしは いいけど ただ……くれないの方が 似合ってると思うわよ?」琥珀は ブレスレットを見て 微笑んで言った。


くれない お前さんしか わしを 付けれないよ。)白龍の声は 凛としていて くれないに 有無を 言わせないような 今までにない優しい声だった。

「そうか……。わかったよ。もし 私が 匂ってても 私のせいじゃないからな。」くれないは 恐る恐るブレスレットの匂いを 嗅いだ。

「うん。確かに 臭くは ないか……。」くれないは ほっとした表情に なった。


「気になるなら 僕の家で お風呂に入れば いいのでは?」真一は くれないに 提案した。

「やだよ……。はくちゃんに 見られるじゃん……?」くれないは 横を向いて 少しだけ照れくさそうにした。

「あっ……それも そうか……。」真一も 頭の後ろを掻いた。

真一は ポケットから スマホを取り出し ロック画面を ちらりと確認した。

ばっちゃんから メールの返信は まだ来ていなかった。


「あそこが 僕の家。」真一は 昔からあるような 小さな平屋の一軒家を 指差した。

「ばっちゃん たぶん裏の畑に いると思うから ちょっと呼びに行って来る。」真一は 家の門を 開けながら 言った。

「いいよ。一緒に行くよ。ちゃんと挨拶したいし。」くれないが言うと 桜も 琥珀も うんうんと頷いた。

「わかった。こっち。」真一は 家の横の小さな庭を抜け 裏手に回って「ばっちゃん。いる?」と 声を掛けた。


「あれ?真一かい。早いね。大丈夫かい?」麦わら帽子を被り 草抜きをしていたばっちゃんが 軍手に付いた手の土を払うように パンパンと叩きながら 真一に 振り向いた。

ばっちゃんは 振り向きざまに 真一の周りにいるくれない達に 目線をやった。

真一を 取り囲むように 光輝く3人の男女が 真一の側に 立っていた。

しかも 真一の周りには 幾つものチカチカと輝く小さな光が 飛び交っていた。

ばっちゃんは それらを瞬時に 全て認識したように 目線を動かした。


真一は くれない達が ばっちゃんにも 視えていることが わかって 逆に ホッと出来た。

真一にとって 白昼夢のようでもあった 朝からの目まぐるしい出来事が 現実であることを ばっちゃんが ちゃんと教えてくれたような 気分になった。

「これは……。」ばっちゃんが 目を 見開いたところで「初めましてーーー!私は 真一くんのお友達のくれないと言います!」くれないが 手を高く上げて 元気よく挨拶をした。


「琥珀さん 降ろして。」桜が 琥珀の耳元で 囁いた。

「あっ。そ……そうね。」琥珀は 桜を 肩から そっと 地面に降ろした。

桜は 地面に 降りたところで ワンピースの裾を パパっと手で綺麗に直して ばっちゃんに向かい「初めまして。桜と言います。よろしくお願いします。」と お辞儀をした。

「琥珀です。よろしくお願い致します。」琥珀は 深々とお辞儀をした。

琥珀は 緊張しているのか すっかり男性のような声に なっていた。


「初めまして……。」ばっちゃんは 元の表情に戻り 優しい笑顔を 皆に向けた。

「ばっちゃん この人達は 神様なんだ……。自分達が 誰だか わからないらしい。それで 僕が 手伝いをすることに なったんだ。」真一は 説明をした。

「そうかい。ここじゃなんだから 家に 入らないかい?暖かいお茶でも 淹れようかね。」くれない達に向かって 優しく微笑んだ。


6畳の居間で 4人用の座卓に 真一の隣に くれない 真一の向かい側に 琥珀 その隣に 桜が 座った。

ばっちゃんは 台所でお茶を淹れ お茶菓子と一緒に おぼんに乗せて 居間に入って来た。

ばっちゃんは みんなに お茶とお茶菓子を 配り終えると 真一の右斜め横に 座った。


「いただきます。」桜は 両手を合わせた。

「ありがとうございます。」琥珀は ばっちゃんに 頭を下げた。

「みんな よく来たね。」ばっちゃんは お茶を飲みながら 微笑んだ。

「美味いな。」くれないは お茶を一口飲み しみじみと言った。

「お口に合って 何より。」と ばっちゃんは 嬉しそうに微笑んだ。


ばっちゃんは くれない達を見渡して 姿勢を正し「それで くれない様達は ご自身のことを 何も 憶えていらっしゃらないのですか?」と 聞いた。

「ばっちゃん……ばっちゃんと 呼んでいいか?くれない様は 止めてくれ。呼び捨てでいい。」紅は 困った顔で 言った。

「いいですよ。わかりました……。」ばっちゃんは 少し俯いて 微笑んだ。


「ばっちゃん 私達は 本当に 何も憶えていなくて……。名前も 憶えていない。」くれないは 首を 横に振った。

「だから 桜が 着ているお洋服の色で 名前を付けたの。」桜は ばっちゃんに言った。

「そうだったのかい。綺麗な色だねぇ……。」ばっちゃんは みんなの服を見た。


「私は 気が付いたら 雲の上にいた。そこで 桜と琥珀と 白龍に出会った。白龍に……はくちゃんって 呼んでるんだけど はくちゃんに乗せてもらって 雲の切れ目から こっちに 下りて来た。はくちゃんが 真一を 見つけたんだ。目が合ってるやつが いるって……。」くれないが 話している途中で ばっちゃんは 真一を見た。

真一は バレたと言う顔で 口を歪めて 無言で 頷いた。


「ちなみに これが はくちゃん。ブレスレットに なってもらってる。」くれないは ばっちゃんに 手を差し出した。

「おやまぁ……。これは これは 綺麗だねぇ……。」ばっちゃんは くれないの手を そっと掴んで 紅の手に 綺麗に巻き付いている 白龍様に 見入っていた。

(ふぉふぉふぉ。そんなに見られると 照れるのう。)白龍は 嬉しそうな声を 出した。

「白龍様 あまりにも 大きいから ちょっと小さくなってもらった。」真一は 言葉を 付け足した。

「そうだったんだね。いいものを 見せてもらったよ。ありがとうね……。」ばっちゃんは 紅の手を そっと離した。


「その後 真一が 手伝ってくれることに なったんだけど 私達も 下りて来た時に かいが 多いのが 気になってて……。真一に 聞いたら ここ最近 神様を 見かけなくなって 闇が 濃くなって来たって 教えてくれたんだ。」くれないは 真一を見た。

真一は くれないと 視線を合わせてから ばっちゃんに 向かって頷いた。

ばっちゃんとかいについて 1度も話したことが なかったから 真一は 内心とてもドキドキしていた。

ばっちゃんは「そうだったんだね……。」と くれないと真一に 頷いた。


「それで みんなで いくつかの神社を 周って来たんだ。あやかし達は 皆 ここ1ヶ月ぐらい神様は 見ていないと言っていた。その中で 精霊のあやかしの長老が 私達のことを 神様だと教えてくれた。ばっちゃんに 聞きたいことがあって ここに 連れて来てもらった。それを 聞く前に 真一 どうする?私が 話していいのか?自分で 話すか?」くれないは 真一の目を じっと見つめた。


真一は ハッとした顔になり ばっちゃんの顔を 真っ直ぐに見て「自分で 話すよ。」と 言った。

「ばっちゃん 話す前に 1度も この話は したことがないけど……ばっちゃんは 僕と一緒で あやかしかいも 神様も 視えてるんだよね……?」真一は ばっちゃんに聞いた。

「うん。視えてるよ。」ばっちゃんは ごめんと言うような顔で 頷いた。

「そっか……。僕と同じで 良かった……。」真一は 泣きそうな顔で 笑っていた。

くれないも 桜も 琥珀も 黙って 2人のやりとりを 見ていた。


ばっちゃんは 真一の方向に 身体を向けて きちんと正座をして 真一の話に 耳を傾けた。

「ばっちゃん 僕ね……」真一は ばっちゃんを見ながら ゆっくりと話し出した。


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