第15話 3つの契約。
真一が いつも行く神社の中で 学校から1番近い 雄大神社に着いた。
「ここが 僕が いつも行く神社のひとつで 雄大神社です。」真一は 鳥居の前で 止まって言った。
「うわぁ……。割と広いんだね。なんか 気持ちいい。ここ。」桜は 琥珀の肩の上で 嬉しそうだった。
鳥居をくぐると 左手に 大きな馬の銅像が 建っていた。
(真一くん 今日は お客様と 一緒なんですね。)馬は 澄ました顔で 言った。
「そう言うことか。この仔は
「はい。憲章と言います。いつも 見張りありがとな。」真一は 馬の蹄を撫でながら 馬の憲章を 見上げて微笑んだ。
「憲章くん 初めまして。私は 桜。前にいる人が
「よろしくお願いします。ゆっくりしていってください。」憲章は 表情を変えずに言った。
「よろしく。」
(ヒヒーーーーーン。)気持ち良さそうに 憲章は 鳴いた。
「僕が 撫でても そんな嬉しそうな声 出さないよね?」真一の声は 拗ねていた。
「憲章も 野郎より 可愛い女の子に 撫でられる方が 嬉しいよねぇ?」
憲章も
「そう言うことか……。長い付き合いなのに……。冷たいやつだな。」真一も 笑った。
参道を抜けて 拝殿を見に行くと やはり神様は いなかった。
「いないな。」
「うん。ここ最近 見ていないんだ。」真一も ぐるりと周りを見た。
「ここの神社は 憲章くんしか いないの?他にも
「ここは 憲章だけ。この神社は いつも神主様も いるから 憲章だけで 守れるみたい。」真一は 答えた。
「じゃ 憲章に 少し聞いて 次の神社に行くか。」
神主がいると言ってただけあって 憲章は とても綺麗に ピカピカに磨き上げられていた。
参拝者も ご利益を授かろうと 参拝者が 撫でて行くのも あるのだろう。
憲章は 皆に愛されているなと 真一は 憲章を 見上げる度に感じていた。
「さあ?はっきりとは 憶えていないが ここ1ヶ月ぐらいじゃないか?」憲章は 答えた。
「そうか……。」
「元々 ここの神様は 気紛れだったしな。毎日じゃなくて 気が向いた時に 来てる感じだったぞ?」憲章は 言った。
「だから……か。たまに 今日は 神様いないなと思う時が あったけど……。僕も 毎日 ここに来ていないし 毎回 確認していたわけじゃないから……。」真一は 憲章を見ながら 話していた。
「なるほど……。じゃあ 1ヶ月も 来ないことは 今まであった?」
「それは ないな……。毎日 来る時もあれば 最低でも2~3日に 1回ぐらいのペースで 来てたと思うぞ。」憲章は 考えながら 答えた。
「そっか……。じゃあ 本当に いなくなってる感じだな……。」
「わかった。ありがとう。また 来るよ。」
「ああ。待ってる。」憲章も 皆に向かって 微笑んだ。
雄大神社を 出たところで「真一が いつも行く神社は 他にもある?」
「うん。後2つある。余吾神社と楠杉江神社。」真一は 答えた。
「よし 両方共 見てみよう。」
「うん。行こ行こ。」琥珀は 笑って答えた。
余吾神社に 到着すると いつも通り 何本もの赤い旗が 風になびいていた。
鳥居が 綺麗な朱色の小さな神社だった。
「朱色……。ここは お稲荷様?」桜は 真一に 聞いた。
「うん。ここには 4人?で いいかな?匹で 数えるのも 失礼な気がするし……。4人の
「お狐様か?」
「うん。左が うな。右が みつ。中にも 拝殿の前に 2人いる。そっちは やなぎとひいらぎ。名前すら 付けてもらえていなかったから 僕が 名前を付けた。」真一は 狛狐を 見て微笑んだ。
「真ちゃん お友達?」うなが 聞いた。みつは 黙って 皆を見つめていた。
「そうだよ。
「えっとぉ……うなちゃんで いいのかな?」桜が 恐る恐る聞いた。
「うん!」うなは 性別を わかってもらえたことが 嬉しそうだった。
「あっ。そっか。わかり難かったね……。うなちゃん みつくん やなぎくんに ひいらぎちゃんだよ。これなら わかりやすいかな?」真一は 笑いながら 言った。
「みつくんも よろしくお願いします。」桜は 頭を下げた。
みつは 無言で 頷いた。
真一が「みつは 人見知りなんだ。仲良くなったら きっといっぱい 話してくれるよ。」と 桜に説明すると みつは 無言で 真一を睨んだ。
「ごめん。ごめん。みつは こう言うの嫌いだったね。間に入るのは 止めておくよ。」真一は みつに謝ると 皆に向かって「みつと 仲良くなりたかったら それぞれで お願いします。仲良くなるか ならなないかは みつが 決めます。」真一は きっぱりと言った。
「わかった。聞きたいことが あったら その時は 頼むよ。」
みつは ちらっと
琥珀は あえて何も言わずに にっこりと微笑んで みつに ゆっくりと頷いた。
まるで 琥珀が 無理して あたしと仲良くしなくていいよと 言っているかのように見えた。
みつは 嬉しそうな顔になり 何も言わず 琥珀に 微笑み返した。
真一は 琥珀さん ある意味凄いな……と 思わず感心しながら 横で 2人を見ていた。
琥珀は 腰を屈めて 真一の耳元に「ありがと。」と 小さな声で 囁いた。
「しまった……。なかなか 慣れないよ。」真一も 琥珀に笑いながら 小さな声で 呟いた。
参道を進み 拝殿前に行くと「お前ら どっから 来た?」やなぎが 威勢よく 聞いて来た。
「それがさ わかんないんだよねぇ。」
「そうなのか。そりゃ 大変だな。」やなぎは 目を見開いた。
「そうなんだよぉ。気が付いたら 雲の上にいてさー。」
やっべ……。何?この2人。びっくりするぐらい 気が合ってると 真一は 2人を見ながら 吹き出しそうになるのを 必死で堪えた。
「雲の上か?そんなところに いたのか?もしかして お師匠さんに 会ったか?いたか?」やなぎは 矢継ぎ早に 質問した。
「そうそう。雲の上に いたの。え?お師匠さんって 誰?」
「この神社の神様だよ。色々教えてくれるから 俺は お師匠さんって 呼んでるんだよ。会ったのか?」やなぎと
「いや。この2人以外には 会ってないよ。」と
「そうか。会ってないのか。お師匠さん 最近 来ないからさ 俺は 心配してんだよ。」やなぎは 眉をひそめた。
「お師匠さん いつから 来てないの?お師匠さんの名前って 何?」
「お師匠さん ここ1ヶ月ぐらい 来てない。名前は なんだったかな?ウカノミなんちゃらとか 言ってたぞ?長くて 俺は 覚えられん。」やなぎは 答えた。
「やっぱり さっきの雄大神社と 一緒だな。憲章も 1ヶ月ぐらいって 言ってたよな?」
真一は 声を出す雰囲気じゃないと思い うんうんと頷いた。
「憲章?憲章って あの馬野郎か?真一?」やなぎは キッ!とした顔で 真一を見た。
「そうだ……。」馬野郎とか 言うなよ……あいつは あいつで いいやつなんだと 真一は 項垂れた。
ひいらぎは 心配そうに やなぎと真一を おろおろと 見比べていた。
「なんだ?やなぎは 憲章と知り合いなのか?」
「あんな馬野郎は 知り合いでも 友達でも 何でもねぇよ。」やなぎは やれやれと言う顔を していた。
「そうか。馬なのは 知ってるんだな?」
やなぎは ケッ!と言う顔で「知らねえよ。」と 言い放った。
「お師匠さんは ウカノミなんちゃらか……。ウカノミ ウカノミ……。」
「あっ。
「ん?桜 そのウカノミタマ様に 会ったことあるの?」「そうそう。お師匠さんは おじいちゃんだよ。」
「どこで 会ったんだろう……?名前は 思い出せたんだけど……おじいちゃんだったような……?う~~~~~ん。思い出せない。」桜は 頭を振った。
「また 順番に 思い出すかもよ?」琥珀は 優しい声で言った。
「桜 また 思い出したら 教えてね。」
「わかったぁ……。」桜は 力なく頷いた。
「そうか……。神様の名前かぁ。そこまで 調べてなかったなぁ……。また 調べてみた方が 良さそうだな。」真一は スマホを取り出して メモしておいた。
「ところで お前ら 誰だ?」やなぎは 唐突に聞いた。
「俺は やなぎ。こいつは ひいらぎだ。そっちこそ 覚えておいてくれ。」やなぎは 最後に 自己紹介をした。
「もう 覚えたよ。うなとみつ。やなぎとひいらぎでしょ?」
「あいつらのことは 覚えなくていい……。」やなぎは 小さな声で ボソッと呟いた。
「あはははははは!」
「は……はい。また!」ひいらぎは 最後に 初めて声を出した。
4人は 神社を後にした。
「残りは 楠杉江神社か。山の麓にあるから ここから 15分ぐらい歩くけど いい?」真一は 皆に聞いた。
「いいよ。時間は たっぷりある。」
「そっか。僕も 散歩にもなって ちょうどいいんだ。空気も 綺麗だし……。3社とも 全部好きだけど 楠杉江神社が 1番のお気に入りの神社かも……。」真一は 微笑んだ。
皆で ゆっくり歩いて 楠杉江神社に着いた。
楠杉江神社は 手入れの行き届いた こじんまりした神社だった。
「神主様は 常駐していないけど 地元の方々が 掃除をしてくれていて とても綺麗なんだ。」真一は 神社を見て 自慢そうに言った。
遠くから たくさんの声が 一斉に 聞こえて来た。
「あっ。真ちゃんだ。」「真ちゃん 来た。」「おはよう。真ちゃん。」「今日は 早いね。」「どうしたの?」口々に それぞれが 話しながら たくさんの精霊の
「だぁれ?」「この人達 誰?」「どなたなの?」「真ちゃん 教えて?」「誰なの?」皆が 一斉に声を出すので 雀の合唱のようだった。
ここの
皆 全身緑色で てんとう虫のような丸い身体に 小さな黒い細い手足 とんぼのような小さな羽が付いていて 葉っぱで出来た小さな帽子を 被っていた。
顔は それぞれ違っていたが 遠目で見ると 誰が誰だか
「真一……。まさか この
「さすがに これだけの人数は 付けてないですよ。」真一も 苦笑いをした。
「真ちゃん お名前って?なぁに?」「お名前 欲しい。」「名前いいなぁ。」「お名前あるといいね。」ここの
「これこれ。真一が 困っておるじゃろう?名前なら わしが 付けた名前が あるじゃろう?」落ち着いた声が 聞こえた。
「あっ。長老 お久しぶりです。」真一は 嬉しそうに 挨拶した。
「だって 私達の名前 真ちゃんは 呼べないじゃん?」「無理だよね。」「発音出来ないじゃん。」「そうだよね。」「無理無理無理無理。」口々に言う声に 好奇心に駆られた桜は「お名前 何て言うの?」と ついつい聞いてしまった。
あっ。マズい……。と 真一が 思った瞬間「:%mw~;+@mkl」「¥^^ー*>qpt」「/y、<sxz&$#」「~~~gfkbcお@」全く 聞き取れない言葉が 飛び交った。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ。ごめんなさいーーーーー!」思わず 桜は 謝った。
「よろしくね。
「よろしくねーーー!」
「あっちに座る椅子が あるから そこで ゆっくり話そう。」真一は 言った。
古い木製の長い椅子に 琥珀 桜 真一
その4人の周りを 精霊達が 好き好きに 飛び回っていた。
「長老 最近 神様は 来ていらっしゃいますか?」真一は 聞いた。
「ここ1ヶ月ほど 見ておらんのう。どこに 行ってらっしゃるのやら……。」長老は 困った表情だった。
「雄大神社と余吾神社と 全く一緒だな。」
「やっぱり いなくなってますね……。」真一も 不安そうな声だった。
「わしらも 結界を張ってはいるが……いつまで 持つか わからんのう。」長老も 困っているようだった。
「このまま 神様が来ないと
「その
「
「やはり……
「真一……お前さんは
「っ……‼ 昨日の夜 みんなに言われたことが 気になって……。」真一は 言葉を切り 周りを飛んでいる 精霊達を見た。
「何か 出来ないかと……
「ちょっと前まで
その瞬間 真っ白な閃光が 皆を 包んだ。
「おお。良いのか 悪いのか 契約が 成立してしまったな……。」長老が 呟いた。
「契約?それは なんですか?」真一は 長老に聞いた。
「真一は たった今
「僕が……?
「そうじゃ……。ただ うちの子達は あまり戦闘向きじゃない……。真一に すごく負担が かかるじゃろう……。どうしたものか……。」長老も 思い悩んでいるようだった。
「負担より
「あっ。いいこと 思い付いた!」琥珀が 身を乗り出し 真一を見て 明るい声で言った。
「あたしが 精霊ちゃん達を 守るわぁ。そして 真一のことも 守るの。これなら どお?」琥珀が 満面の笑みを 浮かべて言った。
「あっ。それいいかも!それなら 私も 出来るじゃん。私も 精霊達と真一を 守るよ!」
「桜もーーー‼ 桜も 真一くんと 精霊ちゃん達を 守るーーー‼ 」桜は 元気よく 手を上げて言った。
「だから ダメだって!僕ばかりが 守られてちゃ!僕も……僕が
その瞬間 さっきとは 比べものにならないほどの輝く真っ白な閃光が 辺り一面を包んだ。
全員 びっくりして 目を 見開いたまま 止まっていた。
「そう言うことか……。」沈黙を破ったのは 長老だった。
「お前さん達は 不思議なオーラを 纏っておるとは 思っていたが……神様だったのか……?」長老は 飛びながら びっくりした顔で
「はい?????神様?????」
「え……?」真一も 言葉を失った。
「これだけの閃光が 起こるのは 神様じゃよ。わしも 初めて見たのう……。」長老は 嬉しそうだった。
「ところで お前さん達は 何の神様じゃ?名前は 何と言うんじゃ?」長老は 目を細めて聞いた。
「いや……。神様も 何も……その前に 自分達が 誰かすら 憶えていない……。と言うか……何も わかっていない状態で……。」
「そう言うことか……。お前さん達は 自分達が 誰か 憶えていないんじゃな?」長老は 確認した。
「そうなの……。桜達 何も憶えていなくて……だから 着てるお洋服の色を 名前にしたの。」桜は 泣きそうな顔で 言った。
「そうか。自分達が 誰かも 思い出さないと いけないんじゃな?」長老は ふむふむと言う顔をしていた。
「それも込みで 真一に 手伝って欲しいと 頼んだばかりだ。」
「なるほど……本来 神様なら いなくなってしまった この神社の神様の代わりに ここの神様になってくれと 頼みたいところじゃが……。」長老は 1度言葉を切り ゆっくりと皆を 見渡した。
「お前さん達は 真一と 契約が 成立してしまったようじゃ……。」長老は 真一に 向かって言った。
「え……?ど……どう言う……意味ですか?」真一は しどろもどろになって 聞いた。
「よいか?真一が パニックを 起こしそうじゃからのう。ゆっくりと ひとつずつ説明するぞ?」長老は 顎を撫でながら 言った。
「は……はい。よろしくお願いします。」真一は 神妙な顔付きで 頭を下げた。
「まずは ひとつめ。」長老は 指を1本立てて 真一に言った。
「うちの子達5名が 真一専属の
「はい……。言っている意味は 理解出来ます。」真一は 頷いた。
「次に ふたつめ。」長老は 指を2本立てた。
「真一は
「
「じゃろうな……。
「まだ……何か あるんですか?」真一は 不安そうな顔をした。
長老と真一のやりとりを 黙って聞いていた
「行くぞ?みっつめじゃ……。」長老は 指を3本立てた。
「うちの子達を 怖がらせないよう……ずっと気配を 消しておってくれて ありがとうじゃのう……。」長老は
長老は
「そうだ。白龍様が いる。」
白龍は 一瞬だけ目を開け 長老とちらっと目を合わせ すぐに目を閉じた。
白龍は 精霊達を 怖がらせないよう あえて言葉を発せず ブレスレットのまま 収まっていた。
「
「まじか……。」真一は 口元を手で 押さえたまま 固まっていた。
しんと静まった神社の中で 小鳥のさえずり声だけが 時を刻んでいるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます