第14話 守り合う力。

智が 主屋で 片付けをしていると 物凄い轟音と共に 突然の吹き荒れる風に びっくりして 洗い物の手を止めた。

智は 香奈達が 心配になり 主屋から 走り出て行くと 神社の周りの樹木が 葉を 撒き散らし揺れていた。


智が 周りを見渡しても 彼らは どこにも いなかった。

智は 慌てて 本殿と拝殿の方角へ 走って行った。

風が 渦巻く中 神社の鳥居辺りに 薄っすらと人影が見えた。

智は 手で目を覆いながらも 進もうとしたが 強風が 吹きすさび あまりの風に それ以上 前に進めなかった。


いったい何が どうなってるんだ……?智は 風に 吹き飛ばされないようにしながら 目を守った。

必死で 身体でバランスを取り 拝殿前の階段の上の狛龍に なんとか摑まって 踏ん張って立っていた。

智は 前に進めないので 何も出来ずに 事の成り行きを 見守るだけしか 出来なかった。

鳥居の向こうに 3人がいることは 辛うじて確認出来たが 声までは 風にかき消されて 聞こえなかった。

無事でいてくれ!智は それだけを祈り 必死で立っていた。


しばらく吹いていた風が 突然ピタリと収まった。

智は 慌てて3人の元へ 駆けつけようと思ったけれど 足を止めた。

漆黒が 首元に手をやり 3人で 何か話しているのが 見えたからだった。

3人が 無事でいることは 確認出来た。3人の判断に委ねて 話し合いが 終わるまで ここで待っている方が 良さそうだと ふと智は 思った。


「では 戻りましょうか。」紫苑が 2人に 声をかけた。

「うん。」香奈は 返事をして 目線を 神社に向けると 階段の上には 智が 優しい笑みを浮かべて 立っていた。

智は 3人の顔を見て 漆黒の首にぶら下がっている チョーカーになった 黒龍に目をやると すべてを理解した 表情に変わった。

香奈には 智の表情が 先程 黒龍が 香奈に向けてくれた優しい笑顔と 同じ表情に思えた。


漆黒に 目をやり「黒龍様と 出会えたんですね。」智は とても優しい声で 言った。

「ああ……。ありがとう。」漆黒も 首元を押さえて 微笑みながら お礼を言った。

「いえいえ。お礼を言うのは こちらの方です。黒龍様が 世間を見たいと言うことで 私も 1度試してみたのですが とても 立っていられませんでした。その器には 到底 及びませんでした。ここで あなたを待ちたいと仰ったので 狛龍の中に 入って頂いていたんです。やはり あなたには その素質が おありなんですね。」智は 仏様のような笑みを 湛えていた。


香奈は 嬉しそうな顔で「お兄ちゃん 2人の名前が 決まったよ。漆黒さんと……。」黒髪の青年を 手で差し「こちらが 紫苑さんです。」白髪の青年に 手を向けた。

「漆黒さんと紫苑さんですね。黒龍様も よろしくお願い致します。」智は 2人に交互に 目線をやり 深々とお辞儀をした。

(こちらこそ 色々と手を 尽くしてくれて ありがとう。漆黒とも やっと会えた。)黒龍は 漆黒の胸元で 嬉しそうに ギラリと輝いた。


4人は 揃って 主屋に戻った。

智は 台所で 暖かいお茶を淹れて テーブルに戻った。

漆黒と紫苑が 横並びに座り 智と香奈が 2人に向き合う形で 座った。

4人が 落ち着いて座ったところで 漆黒が 話し出した。


「智 黒龍に寄ると 俺達は 神様らしい。」漆黒は 智の目を じっと見て言った。

「やはり……そうでしたか。」智も 漆黒を 見つめたまま言った。

「知っていたのか……?」漆黒は 眉を寄せて 少し怒った表情になった。

「はい……。ただ 確信は 出来ませんでしたが……。」智は どこまで話すべきか 悩んでいた。

「なぜ 言わなかった?」漆黒は 腕を組んで 智を見た。

香奈は 湯呑を握りしめて 2人のやりとりを 黙って聞いていた。


「そうですね……。やはり 全部 お話した方が 良さそうですね。」智は 2人を見た。

「ああ。頼む。全部 教えてくれ。」と漆黒は言い 紫苑は黙って 智を見つめていた。

「僕は あやかしかいも 神様も 全て視えてしまうタイプです。」智は 1度 言葉を切った。

「ん?と言うことは みんなは 俺達のことが 見えていないのか?」漆黒は びっくりして聞いた。

智は 苦笑いをして「そうですね。ほとんどの人には 視えません。」と 静かに言った。


「そうだったのか……。いや 1番最初に 会えたのが 智達で良かったよ。なあ?」漆黒は 紫苑に 向かって言った。

「そうですね。」紫苑は 薄っすらと笑みを 湛えていた。

「今朝 お話したように 黄泉の国から 神様が来るとは とても信じ難くて……申し訳ないですが 私の中では 確定が 出来ませんでした。」智は 頭を下げた。

「智 頭を上げてくれ。そもそも ここに 飛んで来たのも 俺達からだし。」漆黒は 慌てて言った。

「はい。来て下さって とても嬉しかったです。」智は 微笑んだ。


智は 一口お茶を飲んで「神様なのは わかったのですが……ただ 申し訳ないですが お名前までは 私では わかりかねます。」と 2人の顔を 見ながら言った。

「そうか……。黒龍も 神様だとは 教えてくれたんだが 誰かまでは 教えてくれないんだ。」漆黒は チョーカーを触った。

(そこまで 教えてやる義理はない……。待っててやっただけでも 有難く思え。)黒龍は 静かに答えた。

「わかったよ。俺が 誰か 思い出すか 探し出せば いいんだよ……な?」漆黒は 紫苑を見た。

「ええ。それが 1番いいかと……。僕も 自分が 誰か まだわかりませんし……。2人で 色んな神社を 周ってみますか?」紫苑は ゆっくりと お茶を飲んだ。


「漆黒さん お2人さえ 良ければ お手伝いします。何かあったら 僕が お守りします。」智は 2人を見て きっぱりと言った。

「いや。俺が 智を守るから ぜひ手伝って欲しい。」漆黒は 頭を下げた。

「では 僕が 香奈さんを お守りしますね。」紫苑は 香奈を 見て言った。

「え?あ……ありがとうございます!私も 紫苑さんを 守れるように 頑張りますっ!」香奈は 慌てた声を出して 紫苑に向かって 頭を下げた。


皆が 言い終わった瞬間 真っ白な眩い光が 4人を 一瞬包み込んだ。

「え?今の何……?」香奈は キョロキョロと周りを見た。

智も 漆黒も 紫苑も びっくりした顔で 周りを見渡していた。


(契約成立だな……。)黒龍の声が 聞こえた。

「契約成立……?なんのことだ……?」漆黒は 不思議そうに 黒龍に聞いた。

(漆黒と智 紫苑と香奈 それぞれの契約が 成立した。)黒龍が チョーカーから しゅるっと 顔だけを出した。

黒龍は 人間の顔と 同じぐらいの大きさの顔と両手を出し 胴体部分は チョーカーに 収まったままだった。

漆黒の左側に 顔を出して(この方が お互い 話しやすいだろう?)黒龍は にやりとした。


(元の大きさまで戻ると 皆も 俺の顔が 見えなくなるからな。)黒龍は フッと笑った。

「自由自在なのか……。」漆黒も 唖然とした顔で 言った。

(この中途半端な状態だと 長くは 無理だがな。で?何が 知りたいんだ?)黒龍は 漆黒を見た。

「契約成立とは 何の契約が 成立したんだ……?」漆黒は 黒龍に言った。

(今 お互いが お互いを『守る』と言っただろう?)黒龍は みんなの顔を 見ながら言った。

全員 ハッとした顔になり お互いの顔を 見合った。


(誰かからの強制ではなく 自然に『守る』と お互いに 言い合った。それが 契約の言葉だ。俺も 教えていない。もちろん 知っていたがな……。)黒龍は にやりと笑った。

(仮に 俺が教えて お互いに 言い合ったとしても 契約は 成立しない。お互いが 自然に言い合った時にだけ 契約が 成立する。だから ずっと黙っていた。これからも 基本的に 俺が お前達に 教えることはない。ただ黙って 漆黒に従うだけだ。あぁ……。そう言えば 漆黒達にも ひとつヒントを やったな。)黒龍は 智と香奈を見やり(お前達にも ひとつヒントをやろう。)黒い爪で 自分の頬をなぞった。


(お前達は 今日から 神怪師かみかいしだ。)黒龍は 智と香奈を 黒い爪で差した。


神怪師かみかいし妖怪師あやかいしは 聞いたことが あるけど……。」智は 困惑した表情になった。

「え……?」香奈は 絶句してしまった。

神怪師かみかいしは 妖怪師あやかいしの上位互換だと 思えばいい。あやかしではなく 神様である漆黒と紫苑に 力を借りるのだからな。喋り過ぎたな……。元に戻る。)黒龍は 唐突にしゅるしゅると 元のチョーカーに戻った。


黒龍が チョーカーに戻ると しばらく誰も 言葉を発しなかった。

皆が それぞれ頭の中で 考えを巡らせていた。

静寂を破ったのは 漆黒だった。

妖怪師あやかいしって なんだ?」智に 聞いた。


妖怪師あやかいしって言うのは えっと……その前に あやかしって わかりますか?」智は 漆黒を見た。

「眷属とか 精霊や妖精のことか?合ってるか?」漆黒は 少し不安そうに聞いた。

「大丈夫です。合っていますよ。その感じだと かいも わかりますよね?」智は 微笑んだ。

「お化けや 幽霊のことだろ?ここには あまりいないな。」漆黒は キョロキョロとした。

「神社なのも ありますけど 黒龍様のおかげで 入って来れないのだと思います。」智は にっこりと微笑んだ。

(智のおかげでも ある。結界を張っているのは 智だ。)黒龍は ボソッと言った。

「いえいえ。私の力は 微々たるものです。」智は 照れくさそうに言った。


「本当に ご自分達が 誰かと言うこと以外は 憶えているようですね。」智は 漆黒と紫苑に 微笑んだ。

「そう言われてみると そうですね。昨夜 お話した通り 護摩木も 神社も わかりましたし……。参拝のやり方も 憶えていました。あっ……でも 僕達が 神様ならば 参拝される方だった……のかな?」紫苑は クスクスと笑った。

「そうですね。人々が 参拝してくれていたのを 見てたから 憶えていたのかもですね。」智も 笑った。


妖怪師あやかいしと言うのは そのあやかしの力を借りて かいを祓う人のことです。今まで誰にも 言ったことは なかったのですが 実は 先代から 妖怪師あやかいしにならないかと 誘われました。それで1度は 妖怪師あやかいしとして 修行をしたのですが……。」智は 漆黒と紫苑に 向かって話していた。

「お兄ちゃん そうだったんだ……。」香奈は びっくりした顔で呟いた。

智は 香奈に 目線をやって頷いた。


「私の力が 及ばず あやかしを 傷付けられることが 多々あって……私が 傷付くのは いいのですが 相棒であるあやかしが 傷付くのは とても辛くて……。」智は テーブルの上で 両手を握りしめていた。

「もしかして 智さんの側に 今も ずっと一緒にいる狼ですか?」紫苑は そっと聞いた。

「やはり 紫苑さんには 視えていたのですね?」智は 微笑んだ。

漆黒は 無言で 目線を スッと狼に 移したので 漆黒にも 狼が 見えているようだった。 


「えっ⁈ お兄ちゃん ずっと お兄ちゃんの側に 狼がいたの?何も 気付かなかった……。お兄ちゃんに比べると やっぱり香奈は 視える力が 弱いな……。」香奈は 少しショックを 受けたようだった。

「すまない。視えないように 狼……名前を黒鉄と言うんだが 皆から視えないように いつも黒鉄に バリアを張っている。私と一緒にいるとわかると 攻撃してくるかいも いるから……。」智が 申し訳なさそうに言った。

「少し いいですか?」紫苑が 香奈の手に 自分の手を そっと重ねた。

「これで 視えると思います。どうですか?」紫苑は にっこりと微笑んだ。


「あ。凄い。本当だ……。初めまして……で いいかな?」智の横に 座っている黒鉄に 声をかけた。

黒鉄は 香奈に 一瞬だけ目線をやり 頷いた。

「私が 妖怪師あやかいしの修行をしたのは 中学生の頃だったんですが……黒鉄が 傷付くのが 嫌で 妖怪師あやかいしを 辞めようと思っていました。それでも 黒鉄は 私に対して とても忠誠心が強くて 離れるのは 絶対に嫌だと言ってくれて 今に至ります。」智は 黒鉄の頭を 愛おしそうに撫でた。

黒鉄は「守る。」と ひと言だけ発した。


「あっ……。思い出しました。そう言えば中学生の時 黒鉄に『私が 守る。』と言いました。なぜ すっかり忘れていたんだろう……?」智は 考え込んだ。

(言い合った後 人間は 忘れるようになっている……。手当たり次第に 契約出来ないようにな。先代からも 聞いていないだろう?)黒龍は 言った。

「契約の言葉があるとは 聞きましたが……。確かに その言葉自体は 先代から 教えてもらっていない気がします。ちょっと記憶が 曖昧ですが……。」智は 思い出すように言った。

(先代も その言葉を 覚えていないはずだ。)黒龍の声は 優しかった。


「智は 妖怪師あやかいしでもあり 神怪師かみかいしでも あるわけだ。凄いな。」漆黒は 賞賛した声を 出した。

「いえいえ。とんでもない。妖怪師あやかいしは 開店休業状態ですよ。弱いかいを たまに祓っているだけです……。」智は 首を振りながら 言った。

(ふっ。それなら 漆黒を介して 俺をも 使えるわけだから 智は 龍怪師りゅうかいしでも あるぞ?)黒龍は さらりと言った。


龍怪師りゅうかいしですか……?初めて聞きました……。」智は びっくりしていた。

(だろうな。龍怪師りゅうかいしになれるやつは 滅多にいない。)黒龍は チョーカーのままで 話していた。

「じゃあ 智は 妖怪師あやかいし神怪師かみかいし龍怪師りゅうかいしに なったわけだ?」漆黒は 黒龍に聞いた。

(そうだ。全員を 上手く使えるなら 強力な力に なるだろう……。全ては 智次第だがな。)黒龍の目が ギラリと鈍く光った。


「私に……務まるでしょうか……?妖怪師あやかいしでさえ ままならないのに……。」智は 自信がなさそうだった。

「やれるか……じゃなくて やれば いいんじゃね?俺も 一介の神様らしいが 誰だかすら 全く憶えていないしな。」あはははっと 漆黒は 大笑いして「お互い 手探りでやって行くしか ないだろ?力を貸すし 協力もする。智のことも ちゃんと守るから 俺が 自分が 何者なのか 思い出すのも 手伝ってくれ。」智が 重荷に 感じないように 漆黒は わざと軽く 笑い飛ばしながら言った。


「そうですね……。」智は 少し考えてから「皆さんの力を お借りして 何が出来るか わかりませんが やれるところまで やってみましょう。」智は 顔を上げて 微笑んだ。

「お兄ちゃん?香奈も 頑張るけど 神怪師かみかいしって言われても 何が何だか わからないの……。この神社のこととか 先代さんのこととか 妖怪師あやかいしのこととか 教えてもらってもいい?」香奈は 半泣き状態だった。

「あぁ。そうだな。香奈には 何も 話していなかったな……。すまない。」智が 申し訳なさそうに言うと「俺達も これから どうするか 決めたいから 色々知りたい。ぜひ 教えて欲しい。」漆黒も 智に頼んだ。


「そうですね……。どこから お話しましょうか……。私が この神社に来たのは 中学生の時でした。私にとっては 気分転換のドライブのようなものでした。父親が この神社の先代に 用事があって 一緒に付いて来たんです。その時に 黒龍様に 魅入られたと言うか 一目惚れみたいなものですかね……。」智は 少し照れながら 話し続けた。


「それからは 電車に乗って 1人でも この神社を訪れるようになり 先代とも 仲良くさせて頂きました。最初は この神社に 磐座が 設置されていて そこで 黒龍様が 主を……漆黒さんを 待っていらっしゃいました。参拝者の皆様が 拝んで下さるのは いいんですが どうしても 人が たくさん来てしまうので 黒龍様は それが 嫌だと……。ここで 待っていることを 誰にも 知られたくないと仰ったので 先代と相談して 入口の狛龍に 移動して 入って頂きました。狛龍の中なら 気付く人も ほぼいないし 黒龍様も 入口を 見張っていられるからと 気に入って頂けたようでした。」智は ここで 一息ついた。そして また 話し出した。


「磐座は 先代が 然るべき処理をした後 岩を バラバラにして 神社の至る所に 置き直しました。その頃に 先代より 妖怪師あやかいしにならないかと言う話が 出てきました。この神社より もっと山奥にある廃神社に 黒鉄は 1人で いました。主も いなくなっていて 1人で ずっと その廃神社を 守っていました。私が 時々 その廃神社に行って 黒鉄を 気にかけていたのを 先代が知っていて 妖怪師あやかいしの話を 持ち掛けてくれました。そうすれば 黒鉄と ずっと一緒に いられるからと……。私は 黒鉄と一緒にいられるならと 深く考えもせず 安易に 妖怪師あやかいしになることを 決めました。」智は 少しだけ 後悔しているような表情に 見えた。


「実際 妖怪師あやかいしになってみると まだ中学生だった私の守る力が 足りなかったのでしょうね……。かいを祓う時に 黒鉄が 傷付いてしまうことが  多々あって……。気持ちが 弱くなり 妖怪師あやかいしでいることより 黒龍様の居場所を守るため 神主になりたい言う気持ちの方へ シフトして行きました。先代は 跡継ぎも いなかったので 黒龍様の居場所さえ決まれば この神社は 廃神社にして 自分は 身体の続く限り 妖怪師あやかいしとして 全国を周りたいと仰っていたので 私が この神社を継ぎますと 頼み込みました。」智は 喉が渇いたのか お茶の残りを 飲み干した。


「それで 高校の時に ここに引っ越して来て 先代と一緒に 住みながら 高校と大学の時も 学校へ行きながら バイトをして そのお金とお賽銭を足して この神社を 先代と一緒に少しずつ 手直しをして行きました。私が 大学を卒業すると同時に 先代は この神社を 私に譲ってくれて ご自身は 妖怪師あやかいし1本になりました。今でも たまに メールのやりとりを しています。先代から 頼まれた時には たまにですが 妖怪師あやかいしとして お手伝いに 行く時もあります。」智は 淡々と話した。 


「黒鉄は ずっと私と一緒にいたいと 言ってくれているので なんちゃって妖怪師あやかいしみたいなものです。今は 参拝者にくっ付いて来てしまったかいが 鳥居の前に残っていた時に 祓っているぐらいです。自ら 妖怪師あやかいしとして バリバリ動いているわけでは ありません。なので 神怪師かみかいし龍怪師りゅうかいし それと妖怪師あやかいしとして どこまでやれるのかは 私にも やってみないとわかりません……。それでも こうして漆黒さんと紫苑さんに 出会えたこと 黒鉄が 一緒にいてくれることも 何かのご縁だと思います。神様から 頂いた使命なのかも しれませんね……。」智は 皆の顔を見て 微笑んだ。 


「香奈も 今朝ね 漆黒さん達を 神社に案内する時 ふと思ったの。高校辞めて こっちに 引っ越して来なければ こんな平日に 漆黒さんと紫苑さんを 神社に 案内することなんて 出来ないよなぁって……。こうなる運命だったのかなぁって……。ただ……妖怪師あやかいしを通り越して 神怪師かみかいしになるなんて これっぽっちも 想像してなかったの……。香奈 視える力も 弱いし……。」香奈は 泣きそうな顔をしていた。


「大丈夫ですよ。僕と一緒にいれば 智さんと同じぐらいに 視えますよ。香奈さんが 嫌でなければ さっきみたいに 常に 触れていれば その間は 僕が 香奈さんに 力を 貸している状態になるので あやかしかいも もっと視えるようになります。僕も 香奈さんを守るので……。」紫苑は 香奈を 安心させるように 微笑んだ。

「あ……ありがとうございますっ!香奈も 頑張って 紫苑さんを守れるように ならなくちゃ。」香奈は 一生懸命 笑顔を作った。


「智は 俺が 力を貸さなくても 視るのは 出来るんだな?」漆黒は 智に聞いた。

「視る分には 大丈夫ですね。ただ 神怪師かみかいし龍怪師りゅうかいしが 初めてなもので……どこまで やれるか……ですが……。」智は 苦笑いをした。

「俺も 誰かに 力を貸すなんて 初めてだしな……。お互いやってみないと わからないだろうな。今日の夜にでも 練習して かいを祓ってみるか?なんとなくだが 人目は 避けた方が いいんだよな?」漆黒は 皆を見渡した。


「そうですね。私が 妖怪師あやかいしをやっていた時は 先代と夜中に やっていました。黒鉄に 指示を出すのも 声を出すので 昼間にやると 怪しい人に なってしまいますから……。余程のことが ない限り 妖怪師あやかいしとして 行動するのは 夜中でしたね。」智は 苦笑しながら 言った。

「それなら 今夜 やってみるか?俺も 力加減を 覚えたい。」漆黒は 智に言った。

「わかりました。やってみましょう。香奈達は どうする?」智は 漆黒に頷き 香奈に聞いた。

「香奈も 練習したい!紫苑さん いいですか?」香奈は 紫苑に聞いた。

「もちろん いいですよ。一緒に やりましょう。」紫苑は にっこりと微笑んだ。


「後は そうだな……俺達が 誰か 思い出せるように 昼間は 神社を 周ってみればいいか?」漆黒は 紫苑に向かって言った。

「そうですね。昼間は 神社を巡って 夜は かいを祓う練習を しましょうか?」紫苑は みんなの顔を 見ながら言った。

「智は 昼間は ここを留守に 出来るのか?」漆黒は 智に聞いた。

「そうですね……。余程のことが なければ 私が 留守にしても 大丈夫だと思います。外せない用事が 入っている時は 3人で 神社を 周ってもらうことに なりますが いいですか?」智は 漆黒に 向かって言った。


「そうだな……。」漆黒は 少し考えてから「基本的に 俺は 智と一緒にいた方が 良い気がする。智が 外せない用事がある時は 2人で 神社を周ってくれ。それでもいいか?」漆黒は 顎に手をやり 考えながら 紫苑と香奈に言った。

「いいですよ。その時は 香奈さんと2人で 神社を周ってみてきます。」紫苑は 香奈に 向かって頷きながら 言った。

香奈も「はい。大丈夫です。」と 頷いた。


「それとな……智 黒鉄のことも 傷付かないように 俺が 一緒に守ってやるから 安心しろ。」漆黒は 智に向かって きっぱりと言った。

「ありがとう……ございます。」頭を下げた智は 少し涙ぐんでいるように 見えた。

「それと もうひとつ……俺に 敬語は 無しだ。」漆黒は 智に にやりと笑った。

「わかった。これで いいか?」智も にやりとしながら 漆黒に言った。


「おう!よろしくな。智!」漆黒は 本当に 嬉しそうに笑った。


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