第13話 色彩の閃光。

今日は 雲が 厚いな……と 真一は 教室の窓から ぼんやりと眺めていた。


5日前の席替えのくじで 前から3番目だけど 窓側の席を引けた。

真一が 外を見てたところで そうそう先生の気を引く位置では ないらしい。

午前中の授業は ただでさえ眠いのに 昨日の夜 パソコンで 神社を調べていたので いつもより 少しだけ寝る時間が 遅くなってしまった。

真一は 寝ないように たまに黒板を見て 重要そうなことは メモるぐらいで 聞いてる感を 醸し出しながら ほどんどは 外を見て過ごしている。


どのクラスにも 2つ~3つは 得たいの知れないかいは いるし 真一は そいつらに 目を 付けられたくなかった。

もちろん 外にも たくさんいるが 遠過ぎて そいつらには ピントが 合うこともないから 外を見てる方が まだましだった。


真一は たまに 自分の能力が 嫌になることもあった。

かいが 視えてることを 否定すると 真一は ばっちゃんと 自分のことも 否定している気分になって 否定することは 小学生の頃に 止めた。

視えることと 上手に付き合うしかなくて……今は ピントを合わさない 視えていない振りをする これ以外他に方法が 思い浮かばなかった。


だから この窓側の席に なれたことは 純粋に 真一には 嬉しかった。

真一は そいつらに 集中しないように 景色に 集中する。

防衛本能なのか 綺麗なものを見ておけば 少しは 自分が 救われている気分になれた。

マイナスの念を 自分の中に入れないように 入られないように 真一は 自分で自分を 守るしかなくて……この席になってからは 余計に空を眺めることが 多くなった。


日々 変わっていく空の色を 分析するのも 真一には 良い暇つぶしになった。

科学的に見れば すぐ答えは 出てしまうだろう。

それを調べずに ただ『空は なぜ青いのか?』を ぼーっと考えるのも 好きだった。

1人の時間の楽しみ方は たくさんあった。


真一は 毎日 それを組み合わせて 学校での時間を やり過ごすだけだった。


雲を 見てるだけでも 充分面白かった。

ひつじ雲や 入道雲 雨雲など 簡単な名前なら 覚えている。

ちゃんとした正式名称も あるのだろうか。今度 調べてみるか。

真一は 分厚い雲に 覆われた空を見ながら 考えていた。


空は そこまで暗くないから 一雨来そうな感じは しない。

これだと 午後からの体育の授業も やれそうな感じがすると 真一は 思った。

確か 今日は テニスとか 誰かが 言ってた気がする。

友達が いるわけじゃないから シングルでの対戦にしろ ペアを組むにしろ 真一にとっては 苦行になってしまう。僕と組む相手も 嫌だろうな……と 真一は 考えてしまった。


いや ダメだ……起こってもいないことを 考えるのは 止めよう……負のループに 入り込む前に 真一は テニスのことを 考えるのを止めた。

体育の時間になったら 考えればいいと 真一は 思った。


さっきの雲の続きでも 考えるよう……確か 入道雲は 積乱雲とも 言うはずだ……わた雲が 積雲だったような……?ひつじ雲は 何だったっけか……?

スマホで調べれば 簡単だけど 授業中に出すわけにも いかないし それよりは 頭で考えた方が 時間も経つし……と 真一は 頬杖をついて 流れて行く雲を 眺めていた。


その時 分厚い雲に ほんの少しの割れ目が入り 太陽の光が射した。

真一は 目を見開いた。これは 久しぶりに 珍しいものを見たと思って 頬杖を止めて 身体を起こした。

確か……薄明光線?天使の梯子とか 言うんじゃなかったっけ?と思った瞬間 そこから 大きな白い龍が ゆっくりと降りて来て 上空を旋回しながら 優雅に 飛び始めた。


真一の目は さらに見開き 手に持っていたシャープペンが ポトリと手から 落ちた。

コロコロと音を立てて 机の上から 落ちそうになったシャープペンを 真一は 間一髪で 拾い上げた。


そして 真一は もう1度 空を見た。

………いる。

白い龍が 悠々と 空を飛んでいた。


「まじか………。」誰にも 聞こえないぐらいの小さな声で 真一は 呟いた。

真一が 幼少期の頃 1度だけ 遠くに飛んでいる龍を 視かけたことが あっただけで こんな間近で 視るのは 初めてだった。

視ていては いけないと 頭でわかっていても 真一は 龍のあまりの大きさの迫力に ついつい目で 追ってしまっていた。

真一は 時間が止まったように 龍から 目が離せなくなった。


あっ……。ヤバい……。今 龍と目が 合ったかも……⁈ と真一が 思った瞬間 真っ白な閃光が 真一を包んだ。

それは ほんの一瞬のことだった。

周りの誰も 気付いていない。

真一だけが その閃光の中で 永遠とも思える時間が 流れた。


「私達が 視える人 発見ーーー‼ 」と言う声と共に 気が付いた時には 真一の机の上に 真っ赤な服を着たエアリーなショートボブの銀髪の少女が にっこり笑って あぐらをかいて座っていた。

くれないちゃん そんなことしたら びっくりしちゃうでしょ⁈ 」と 横から 声が聞こえた。


一瞬の出来事に 真一は 声を 押し殺すのに 必死だった。

真一は 目をまん丸に 見開いたまま 銀髪の少女を凝視してから ゆっくりと視線を 窓辺に移す。

そこには  真っ白で 立派な髭を蓄えた龍の鼻先に 薄いピンク色のふわふわなワンピースを着た小さな少女と その少女を守るように オレンジ色の甚平を着た 体格の良い背の高そうな金髪の男性が 後ろに座っていた。


さっき 横から聞こえた声は きっと このピンク色の少女だろう。

しかも 3人共 ハレーションを起こしそうなくらいの眩い光に 包まれている。

大きな真っ白な龍は 真一を一瞥した後 ゆっくりと目を閉じて まるで眠りに 就いたように見えた。


これは……どう言う……状……況?なんだ……?と真一が 頭ので 混乱していると「視えてるよね?私達のこと。」銀髪の少女が 身を乗り出し あぐらをかいた膝の上に 肘を載せて 頬杖をついた状態で にやりとしながら 横眼で 話しかけて来た。

銀髪の少女と真正面で 目が合った状態では 真一も 嘘をつける状況ではなく ただ頷くしかなかった。

しかも 授業中に 声を出せるわけもなく どうするか……?と 思った瞬間 少女が「そうか。声が 出せないから 話し難いよね?外 行こ?外。」軽々しく言った。


えっと……今 授業中なんですが……と真一は 頭の中で 言った。

「え?外見てて 授業なんて 何も 聞いてなかったじゃん?」銀髪の少女は 真顔で言った。

真一が びっくりしていると「こうやって 頭の中を 見透かされる前に 私達と声を出して 話した方が 身の為だと思うけど?」銀髪の少女は にやにやしている。

大きな溜息をつき 真一は 腹 括ります……少し待って下さいと 少女に 頭の中で言った。


「先生 お腹痛いです。早退します!」真一は ドキドキしながら 手を挙げて 先生に向かって 大きな声で言った。

真一の余りの勢いに 先生も「お……おう。お大事にな。」と 慌てて答えた。

そう言われるのを見込んで 疑問形で聞くのではなく 真一は 無理して 言い切ったのだった。 

手を振りながら「外で 待ってるねー!」銀髪の少女の声を 背中で聞き ざわめく教室を後ろに 真一は 教室から 出て行った。


校舎から 出ると 3人と大きな龍が 真一を 待ち構えていた。

龍の身体が 校庭いっぱいに 収まっている。


真一は おどおどしながら 3人を見て「お待たせしました……。」と 呟いた。

そして 大きな白い龍に 目線をやって「龍さん 大き過ぎます……。気付く人は そうそういないけど……なんとか なりませんか?」真一は 申し訳なさそうに 小さな声で言った。


はくちゃん なんとかなる?」銀髪の少女は 大きな龍を 見やりながら言った。

(ふぉふぉふぉ。これでいいか?)龍は しゅるしゅるしゅるんと 身体を小さくして 銀髪の少女の手首に ブレスレットのように しゅるりと巻き付いた。

銀髪の少女は「うお!はくちゃん 凄えー。こんなことも 出来るんだ?」びっくりした顔で 自分の手首を 繁々と眺めた。

「いいなー。くれないちゃん。ブレスレットみたいー。」ピンク色の髪の少女が 羨ましそうに言った。

「私も 欲しいわぁん。」体格が良く 背の高い金髪の男が ピンク色の髪の少女を 肩に乗せた状態で くねくねしながら 言った。


あっ……そっち系……?思わず 真一は 心の中で 言ってしまった。

「そっち系とは 何よぉう。酷いわぁ。かっこよくはないけど ちょっとタイプだったのにぃ~~~~~。」金髪の男は 真一を 睨んだ。

「あっ。すみ……すみません。それに かっこよくなくて す……すみません。ただ 僕は 今のところ た……た……たぶん ストレートだと思います。」真一は しどろもどろになりながらも 金髪の男を 見上げて 素直に 頭を下げて謝った。

「なぁんだぁ。残念。でも 気が変わったら いつでも 言ってねぇん。」金髪の男は 笑顔で言った。


「は……は……はい。その時は 言います……。」真一は 少しだけ緊張を 緩めて言った。

「その人の名前は 琥珀。」銀髪の少女も 微笑みながら言った。

「んで このちっこいのが 桜。私は くれない。」くれないは ピンク色の髪の少女と 自分を交互に 指差した。

「さっきの龍が はくちゃん。」紅は ブレスレットになっている白龍を 真一に向かって 差し出して見せた。


「白龍様だよ。桜達ね 自分達が 誰かわからないの……。だからね 桜が 名前を付けたの……。着ている服の色なんだよ。」桜が 泣きそうな顔で 笑いながら言った。

「なるほど……。ピンク色じゃなくて 桜色なんですね……。」真一は 桜に言うと ブレスレットになった白龍に向かって「白龍だったんですね。雲に紛れてたので 最初は 気付きませんでした……。身体のサイズは 自由自在なんですか……?」真一は 不思議そうに 白龍に聞いた。


(ある程度はな。自由自在じゃ。やろうと思えば 地球も覆えるが ちとしんどいのう……。無理は 禁物じゃ。)白龍は ちらりと目を開けて言った。

「最小が それですか?」真一は くれないの腕を 指差した。

(もっとちっこくも出来るが 踏まれても嫌じゃからのう。ふぉふぉふぉ。)白龍は 愉快そうに言った。

「そう言うことですか……。」真一は 小さく微笑んだ。


「あなたの名前は?何て 言うの?」桜は 小首を傾げて聞いた。

「あ……。す……すみません。桜さん。陣内……陣内 真一です。」真一は 3人に向かって 軽くお辞儀をした。

「桜で いいよ。」桜は 笑った。

「真一 頼みがある。」くれないは 真顔で言った。


「と……とりあえず 学校から 出たいです……。歩きながらでも いいですか?」真一は 先に 歩き出そうとした。

「確かに ここにいるのは 体裁悪いな。腹痛いんだったっけか?」くれないは クスクス笑った。

「誰のせいですか……?」真一も 釣られて 半笑いの顔になった。


「それで……何を 手伝えば いいんですか?」校門から 出たところで 真一は 声をかけた。傍から見ると 真一が 独り言を 言っているように 見えているのだろう。

実際には 先頭から くれない 真一 琥珀の順番で 歩いていた。桜は ずっと琥珀の肩に 乗っていた。

「私達が 自分が誰かを思い出す 手伝いをして欲しい。」くれないは 振り向きながら 言った。

「何か 手掛かりは ありますか?」真一が 聞くと「何も 無い!」くれないは 迷うことなく きっぱりと言った。


「無いんですね……。」真一は 困った顔になった。

「困ったことに……な……。」くれないも 苦笑いをしている。

「でもね……。桜達 たぶん それ以外は 全部覚えているんだよ?色も わかるし 山も川も 学校もわかったよ。ただ 自分のことだけ憶えてないの……。」くれないを庇うように 桜は 早口で言った。

「そうなのよぅ。何してたかも 憶えてないのよぅ……。気が付いたら 雲の上にいてさ。本当 困ったのよぉう。」琥珀も 困った顔で言った。


「琥珀さんの着てる服の色 琥珀って言うんですね……。僕 初めて知りました……。」真一は 琥珀達に 振り向き 微笑んだ。

「あたしも 知らなかったの。桜ちゃんが 教えてくれたのよう。」琥珀は 嬉しそうに言った。

「私も 自分の服 赤だと思ってたもん。桜が 教えてくれなかったら 気付かなかったよ。」くれないは 振り向いた。

「僕も 赤色だと思いました。」真一も 頷いた。


「それが 違うんだなぁ。よぉく見て……?赤じゃなくて ほんのすこぉしだけ 紫がかった赤色でしょ?これは 絶対 くれないよ。」桜は 自慢そうに言った。

「覚えておきます。」真一は 桜に 向かって微笑んだ。


「手掛かりが ありませんね……。どうしようかな……?」真一は 雲に覆われた空を見ながら 人差し指で 自分の頬を ポリポリと掻いた。

かいの類じゃない……よな……。ここまで 綺麗に 視えることは ほぼ無いし……。話も ちゃんと 通じる。どっちかって言うと 後光が差してるぐらい 身体の周りが 光ってるし……。この人達 なんなんだ……?と 真一が 頭の中で 思いを巡らせてると「あたし達 かいじゃないわよ?」琥珀が 真一に そっと声を掛けた。


あ……そうだった……と真一は 苦笑いをした。

「ってか ここ かい多くない……?上から 見た時も思ったけど 人間より かいの方が多い。」琥珀は 周りを不安そうに キョロキョロと 見ながら言った。

「はい。そうなんです……。ここのところ 急に 闇が 濃くなって来ていて……。」真一は 1度言葉を切った。


言うか言わないか 迷いながらも 真一は それを 言葉にした。

「実は 神社でも 神様を 見かけなくなって……。それで……余計に 闇が 濃くなって来た気がします……。」真一の足は 止まっていた。

「神様が いない……?何 それ?」くれないは 怪訝な顔をした。

「僕は……友達が そ……その……あまりいなくて いつも神社で あやかしと話してて……神社には かいも ほとんどいないから……。気が付いたらだから いつからとは 言えないんですが……。」真一が 言い淀んでいると「真一くん?敬語じゃなくて いいよ。」桜は にっこりと微笑んで言った。


「あ……。ありがとう。」真一は ゆっくりと深呼吸して 大きく息を吐いた。

「それで 気が付いたら 神様が いなくなってて……。僕も どうしていいか わからないけど いつも行く神社にいるあやかし達が 不安がってるから 何か 出来ることはないかと思って 色んな神社を周って 神様がいるか いないか 確認してみようかなと考えてたところで……。」真一は 緊張しながら なんとか言い終えた。


ばっちゃん以外の人と話すのは 久しぶりなので ちゃんと伝わったか 真一は 少し不安になった。

「大丈夫。ちゃんとわかった。」くれないは サラッと言った。

「あっ。そうだった……。慣れないな……。」真一は 照れくさそうに 頭を掻いた。

「ばっちゃんって 誰?」桜が 聞いた。

「おばあちゃんだよ。一緒に住んでるんだ。」真一は 嬉しそうな顔になった。


「桜も 会いたい!」桜は わくわくした表情になった。

「もちろん……。」真一は 桜に 笑顔を向けた。「って言うか……僕 家と神社以外 居場所も 行く所もないですよ。」真一は 自嘲気味に言った。

「友達いないの?」くれないは 少し驚いた顔をした。

「んー……。あやかししかいないですね……。かいが視えると 変わった人と言われることが 多くて……なので 人を拒絶してたら……こうなってました。」真一は 泣きそうな顔で 薄っすらと笑った。真一は 悲しいのか 寂しいのか 嬉しいのか わからない表情をしていた。


「あたしが 真一のお友達になる。ちょっとタイプだしぃ。」琥珀は 真一に向かって ウィンクをした。

「桜も なるー!」琥珀の肩の上で 桜は 元気よく手を挙げた。

「んじゃ これから 友達ってことで!よろしく。真一。」くれないは 微笑みながら 右手を差し出した。


「は……はい。」くれないに釣られて 真一も 右手を差し出して 握手をした。

くれないの手は 暖かいのに冷たくて 不思議な感覚だった。


「よし!じゃあ まずは神社が どうなってるか 見に行こう。あやかしとも 話してみたいな。その後で ばっちゃんに 会いに行こう。」くれないは 真一に 向かって言った。

「全部周ろうと思って 昨日調べたんだけど……どこの神社から 行きますか?僕が いつも行っている神社は 神様がいないことは 確認出来ているけど……。」真一は スマホをポケットから 出しながら くれないに聞いた。

「真一が いつも行ってるとこ。」くれないは 迷いなく答えた。

「じゃ こっち。」真一は スマホをポケットにしまい 右側を指差した。


真一は 3人に慣れて来て 徐々に気持ちが 落ち着いて来た。

「レッツ ゴー‼ 」桜は 嬉しそうに言った。

右折した後「で?どっち?」先頭にいるくれないは 真一に 振り向いた。

「道が わからないなら 先に行かなくても……。」真一は 笑いながら 小走りでくれないの横に 追いついた。

「待ってぇーーー。」琥珀も 肩の上に桜を 乗せたまま 真一の隣に 追いついた。


こんなふうに 誰かと肩を並べて歩くなんて いつ以来だろう?真一は 照れくさくて嬉しくて 少し浮足だった気分になった。

「友達だからさ。」くれないは 真一の肩に手をかけ にやりと笑った。

「あ……。そうだった。なかなか慣れない……。」真一は 照れくさそうに笑って 3人で並んだまま 神社へ向かって歩いた。


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