#13 大日本帝國アニメ協会

お会いしたあの日以来、箕浦さんは繋がったSNSでちょいちょい反応をくれる


ひょんな切っ掛けで知り合ったが、人生とはこんなものなのだろう


おうち時間を穴埋めする一翼として、濃密なアニメトークができる彼の存在は貴重だ


業界の人と知り合えた事も殊の外嬉しい


一方、その切っ掛けをくれたキリヤとは以後疎遠で、相変わらず苦手なままだ


出来れば箕浦さんとの関係は保ちつつ、キリヤとはフェードアウトしたい




視聴を続けている長編アニメのファイナルシーズンがいよいよ動き出し過渡期に差し掛かろうとする頃、箕浦さんからDMが届いた


『サトシさんおひさ! 週末時間ある様でしたらランチでもどうですか?』


おうち時間を持て余し、恋人もいない暇人サトシのリプはYes一択だ


指定されたホテルラウンジの一角にあるカフェに着くと、既に箕浦さんはコーヒーカップを片手に資料に目を通していた


やべ、先に着いてる……休日なのに忙しそうだな


サトシ「箕浦さんお久しぶりです。 すみません、先に着くつもりだったのですが……お待たせしてしまい申し訳御座いません」


箕浦「サトシさんおひさです! 全然大丈夫ですよ!」


箕浦「調子どうですか? お元気されてますか?」


サトシ「お陰様で。 籠り気味なのでウィルスの脅威も少ないですし。 逆にこの生活にも小慣れてきて時間持て余しています」


箕浦「お、手持ち無沙汰ですか。 じゃあ色々始められますね!」


サトシ「ポジティブですね」


箕浦「ははは、ですです」


軽食を摂りつつゆるい会話、アニメの話や近況の報告


業界の人の話は面白い


視点の角度が視聴者目線とは異なり、殊更に興味深い


それにしても箕浦さんはとても気さくな人だ


こんなモブ男でも何の傲りもなく、一貫して至って普通に接してくれる


箕浦「そろそろ行きましょうか」


昼食後、暫く歓談をした後、時間を気にしながら退店を切り出した


予定が詰まっているのだろうか


サトシ「はい、今日はお忙しい中ありがとうございました。 昼食までご馳走になってしまって」


箕浦「全然問題ないですよ、お互い様です。 てか、サトシさんこの後もう暫く大丈夫ですか?」


サトシ「はい、自分は暇なので。 むしろ箕浦さんお忙しいのでは?」


箕浦「はは、私も手持ち無沙汰の暇人ですよ」


箕浦「では行きましょうか」


サトシ「次はどちらへ向かわれるのでしょう?」


箕浦「んー……サトシさんサプライズはお好きですか?」


サトシ「……どうでしょうか、別に嫌いでもないですが」


箕浦「じゃ、とりま向かいましょう」──




タクシーに乗り込み到着したのは都心の一角にある何の変哲もない普通のコンビニだった


サトシ「ここ……ですか?」


箕浦「サトシさん面白いですね、なわけなくないですか? こっちですよ」


そのコンビニから一区画と数件進んだ先にあった建物


都会の喧噪の只中に溶け込む様にしてあるその古めかしいその建物は、まるで時が止まったかの様に静かに佇んでいた


レトロで物々しいその風貌が歴史の深さを物語っていた


サトシ「……ここって」


箕浦「アニメ協会ですよ」


表札に『大日本帝國アニメ協会』の標記……旧日帝時代からの産物なのだろうか


箕浦「サトシさんの話の続き、場所をここへ移して続けましょう」


サトシ「……えと、すみません、全く状況が掴めません」


箕浦「ま、何も言ってないですからね。 サトシさんも暇って言ってた事だし、とりま行きましょうか、時間も時間ですし」


サトシ「…………」


ハメられてる? 話ってなんだ? 時間て? 計画的だった? 詐欺とかある?


無人の受付を抜けた先にあった一室……


コンコン!


箕浦「失礼します」


箕浦「どうも遅くなりました、皆様お休みのところわざわざご足労頂き有難う御座います」


その会議室の様な室内には既に何人か着席し、我々の到着を待っていたかの空気だった


え、計画的にハメられてる?


岡口「資料は?」


箕浦「はい、準備してあります」


箕浦「サトシさんも空いてるとこ座っちゃって下さい」


やべえ……脳がバグる、全く状況が把握できん……


促されるまま着席した自分にも資料が回ってきた──


と同時に部屋の扉がノックもなく開いた


烏山「どうもこんにちは! 皆さん休日なのにご苦労様! あれ、私最後?」


岡口「ちょうど揃ったところです。 うちの箕浦がご無理言って申し訳ありません」


烏山「全然大丈夫だよ、了承したの私だし」


烏山「休日だし茶でも啜りながらざっくばらんにやりましょう」


箕浦「自分淹れてきます」


烏山「おお、すまないね、今日ここ誰も居なくて」


箕浦さんはそう言うとそそくさと出て行ってしまった


烏山「もう皆さん挨拶は済んでるのかな?」


岡口「概ねは。 箕浦は全員面識あるので大丈夫です」


サトシ「…………」


まるで空気みたいな存在感だ……場違い感がハンパない


烏山「では初対面の方もいるし簡単に自己紹介しようか」


烏山「烏山です。 普段は色々しておりますが、今日はここ大日本帝國アニメ協会の会長として箕浦くんにお招き頂きました。 どうぞ宜しく」


サトシ「────」

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