#11 魔獣使い

『初めましてサトシさん。 ㈱KADOONAでキリヤさんの編集担当をさせて頂いております箕浦と申します。 キリヤさんからご紹介頂き連絡させて貰いました。 申し出にご快諾頂いたと伺い嬉しく思っています。 誤解のなき様、初めにお伝えさせて頂きますと、コンタクトさせて頂いた事には特段の意図はなく、私個人の単純な興味からです。 業務等とは一切関係はありません。 故、いち個人として繋がり頂けますと幸いです。 お時間許す際にでも一度食事でもしながらざっくばらんに世間話でも如何でしょうか?』


キリヤから紹介してもらった箕浦さんは、丁寧で柔らかくもありながら、距離を保ったビジネスライクな長文で直ぐに連絡をくれた


人との物理的な距離をウィルスに阻まれ、日夜連絡を取る彼女もいない自分


久々の外食と、自分の中で長らく蠢いていた話を率直にできる相手


その両方の機会を得た達成感で心躍った




箕浦「すみません、お待たせしました。 初めましてですね、箕浦です、今日はわざわざご足労有難う御座います」


サトシ「いえ、こちらこそです。 お誘い頂けて嬉しいです」


箕浦「あ、名刺交換とかは無しで。 ゆるく行きましょ!」


サトシ「了解です」


サトシ「キリヤさんとはどういったご関係なんですか?」


箕浦「DMでお伝えした通りです。 彼、うちから出す書籍の執筆してまして、私が編集担当させて貰ってます」


サトシ「そうなんですね…… キリヤさん、自分の事何か言ってましたか?」


箕浦「www…… まんま伝えると、何のエビデンスもない与太話を延々する厨二病の痛い奴って言ってたかなw ま、彼らしいよね」


あいつやっぱり性格悪いな……


サトシ「……何故、繋がってくれようと思われたんですか?」


箕浦「……正直に言えば何となくです。 まあこんなご時世で人と繋がれる機会もめっきり減ってしまったしね。 それに私は仕事柄、人との繋がりを大切にしてるので」


サトシ「しかし活字を生業とされてるのにメールやSNSでなく、いきなり面会のお誘い正直驚きました」


箕浦「はは、出版業界向いてないのかも。 私は古風なタイプでね、会って直接感じ

たいんですよ」


箕浦「それに変わってる人好きなんです。 一般社会は普通である事を是とするでしょ? でもうちの様なエンタメ業界は人に非日常を提供しているので、普通なんて退屈なだけなんですよ」


サトシ「自分、変わってますかね……」


箕浦「うん! ただのアニメ好きと聞きましたが、変わった見方する人だなとも。  でもね、サトシさんの様に若い方の意見は刺激的ですよ、自分にはない視点があります。 そういう意見は大事にしなきゃって思うんです。 うちの会社も結構お堅いからさ、実績を積み上げて今では大手の一角だけど、現場レベルだとそのかつての成功体験が是とされ過ぎている所もあって、社内レールから外れた意見を軽視するあまり、俯瞰して盤上が見えてない所もあると感じたりします」


箕浦「まあ作家なんて変わり者ばかりですからね。 活字書く事が共通なだけで業種も様々ですし、サトシさんくらいの若手の新人作家さんも全然います。 彼らの面倒を見ている自分は魔獣使いみたいなもんですよ」


サトシ「自分も魔獣属性って事ですかね…… 手綱握られちゃうじゃないですか!」


箕浦「ははは、魔獣使いだって手懐ける魔獣は選びますよ! サトシさんも魔獣レベル上げてくれたら面白くなりますね」


サトシ「箕浦さんの会社はアニメ関係もされてるのですか?」


箕浦「ですね、うちは総合的な出版会社なので書籍に限らずアニメも映画もそれ以外も多岐に渡ります」


サトシ「めっちゃ大手ですよね……」


箕浦「されど自分はいち社畜に過ぎませんよ。 いつか自分が担当した作品がバズってアニメ化や映画化まで行ってみたいですね……」


サトシ「キリヤさんも書籍書いてるんですよね、その……自分にもできたりしますか?」


箕浦「彼は総フォロワー40万人を超えるインフルエンサーですし、ああ見えて天才です。 歩んできた人生も波瀾万丈でネタに事欠きません。」


箕浦「サトシさんもまだ若いしいくらでも可能性はあると思いますよ。 何か小さな事でも成せれば。 でもまずは厨二病を卒業しなきゃですね」


サトシ「ぐぬ……がんばりたいです」


箕浦「ところでサトシさんのお勤め先は金融業界ですか?」


サトシ「いえ、全然違います」


箕浦「……そうですか」


箕浦「キリヤさんにお話された件ですが、サトシさんはこの先、日本アニメの未来はどうなるとお考えなのでしょうか?」


サトシ「どこの時点を指すかと、そこまでどう進むかによると思います」


箕浦「では例えば現状の先にある20年後の未来は?」


サトシ「……埋もれると思います。 先5年から10年でピークを迎えて先10年から20年で埋没するのではと思います」


箕浦「何故そう思われるのですか?」


サトシ「歴史に倣えば、です。勿論そうならないシナリオもあると思いますが、現状の先という前提ですと」


箕浦「ほう……詳しく伺ってみたいですね」

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