#10 邂逅

未知のウィルスの去来により人類が屋内へと追いやられて1年も過ぎようとしていた


ウィルスの解析は進むものの、未だ人類は現在の安寧の地である自宅から以前の様には外出できずにいる


在宅での業務もおうち時間を構成する一旦だ


所謂リモートワークは割とすんなりと受け入れられた


職場の空気感、程よい緊張感を保つのは難しいが、朝の準備も通勤もないのは殊更に大きく、楽な方角へ流れるのは容易且つ合理的でもあった


しかし、自分が自宅に居ようとも世界と時間と経済は回る


この異常な状況を指し示す様に蠢くチャートラインに翻弄される日々は続く


もはやこの事態以前に算出された数字は破綻し、意味を持たなくなりつつある


算出したコストは材料費や輸送費の高騰により膨れ上がり、売値を易々と超えて尚上昇を続ける


契約通貨の変動も激しく、指標に沿った価格変動の条件も優に想定の限度を超えてしまっている


その状況を加味して続ける売値の価格変更交渉


そもそも麻痺した交通網や、現状の労働環境により物そのものが生産できず、生産しても輸送できない


一つの製品に関わる世界中の幾百もの企業、それらが一斉にこの状況に陥ったのだ


カオス以外に何と表現できるだろうか


連鎖倒産が大規模に起きずに耐え忍んでいるのは各国政府の補助によるところが大きいのだろう


しかし、どれだけ焦ろうが夢でなく現実、現実は醒めない


次第に人類はこの状況を『現在』や、『最近』と呼称し、以前までの同音の意味を置き換えながらこの現状に適応していった




過剰に供給されるおうち時間と、バランスを取るべく人類が新たに探し始めたおうち時間を埋める為の需要


憑りつかれた様にアニメ漁りに没頭した末、ふと何かに背を押されるようにコンタクトをとったキリヤには何事も成さぬまま秒であしらわれてしまった


そのあまりに傲慢な態度にムッともしたが、立場を考えれば致し方ないのかもしれない


むしろ機会を貰えただけでも感謝するべきなのだろうか


機会を上手に生かせなかった自分にも落ち度があったのは認めざるを得ない


自身の話力と惹きつける魅力のなさ、その無力さに正直ショックだった


釈然としないまま、行き場を失ったモチベーションは元来た道へと戻って行った




食い入るように観ていた長編アニメがファイナルシーズンに差し掛かろうという時、何とあのキリヤからDMがきた


一方的にブロックしておいて都合が悪くなったら解除してDM


何て勝手な人なんだ


だが、その内容は非常に興味深いものだった


キリヤ『元気? この間言ってた話、たまたま取引先の人と話してた時話題に上がって。 なんかお前に興味あるって。 とりま繋がってみる? 』


……でもこの人クソ性格悪いんだよな……が1%、残り99%の好奇心が圧勝


二つ返事でお願いした


サトシ『キリヤさんご連絡ありがとうございます。 先日は拙いお話にもお時間割いて頂き感謝しています。 また、この様な機会を振って頂きありがとうございます。 是非ともお願いしたく、宜しくお願い致します。』


自分だって社会人だ、感情的になる程子供じゃない、それなりに取り繕いつつキリヤには丁寧に返信した


キリヤ『OK、伝えとく。 変な期待すんなよ、立場は弁えろ。』


やっぱ性格悪いなこの人


でも感謝すべきだ! 平々凡々な自分にこういった話が降って湧く事などそうそう無いのだから


日本の社会人は礼儀正しい、対応も迅速だ


それから程なくして自身のSNSの垢へコンタクトがあった


『初めましてサトシさん。 ㈱KADOONAでキリヤさんの編集担当させて頂いております箕浦と申します。 キリヤさんからご紹介頂き連絡させて貰いました。 申し出にご快諾頂いたと伺い嬉しく思っています────』

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