#9 インフルエンサー
SNS、それはアルゴリズムが支配する世界
誰の元にも平等に同じ情報が届けられるシステムではない
システムが理解したあなたに沿って、あなた宛にあなた好みの投稿が届けられる
あなたの反応があなた独自の世界を構成し、あなたの反応が蓄積される程にあなたの世界の独自性が増していく
そしてその世界では各々が評価付けされ、比重の重い者の投稿が優先して表示される
最もインプレッションを稼ぎその界隈で上位に君臨する者こそが、界隈の民に影響力を有する者
インフルエンサーと称される一握りの存在
連日の調査活動でアニメ界隈へと振り分けられていた自分は、当然アニメ界隈で生息する民だ
アニメ関連の投稿をしている様々な人々の意見や論評はとても興味深い
しかし、やはり目に付くのはインフルエンサーの投稿だ
彼らの声は界隈の下々までもよく届く
界隈の見識が広い彼らなら──
色々と思うところのあった自分は、自己結論に対して識者の意見を聞いてみたかった
アニメ界隈のインフルエンサーと意見を交わしてみたいな……
Web2.0と呼ばれる現代ではSNSで繋がりさえすればそれも容易に可能となる
『キリヤ』──
ここアニメ界隈で影響力のあるインフルエンサーの一人
主にYouTuberを生業としているがその活動は多岐に渡る
政治や教育関連を標榜しているがアニメへの造詣が深く、アニオタを自称し、現に年間幾百ものアニメを視聴し意見論評を発信している
ここ最近多くリプを付けていた彼へDMを送ってみた
即レスも度々くれている彼なら少なくとも認知はしてくれているはずだ──
事は思いのほかあっさりと進み、SNS上での音声通話を了承してくれた
Web2.0万歳!
サトシ「お世話になります。 いつも興味深く投稿拝見させてもらってます! 今日はお忙しいところお時間頂きありがとうございました。」
キリヤ「うん、で?」
背後のせわしないタイピング音が気になる……
仕事中なのかな……迷惑だった? もしかして怒ってる?……それともメモでも取ってるのだろうか
サトシ「……えと、DMにも書いたのですが、アニメに造詣が深いキリヤさんにご意見伺ってみたくて……」
キリヤ「どうぞ」
サトシ「現在のアニメについてどう思われますか?」
キリヤ「面白いよね」
サトシ「ですよね。 作品単体ではなく業界全体を見渡してはどうお考えですか?」
キリヤ「……まどろっこしいね、何が言いたいの? 言いたい事を率直に言って」
タイピング音気になるなあ……
サトシ「ですよね、すみません、では結論から失礼します。 日本のアニメ産業は世界的に見ても突出しており、この国の未来に成り得る宝だと思っています。 だからこそ現状に思うところがあってキリヤさんのご意見を伺ってみたく連絡させて頂きました。」
キリヤ「……続けて、あと率直にって言っただろ」
サトシ「失礼しました。率直にこのままじゃダメだと思うんです。 面白いアニメを制作して、視聴者も満足して、人気もあって、最近では海外でも評価され始めている。 それはそれで良いのですが、かつてこの国は所謂バブル時に世界でGDP1位の経済大国だったわけですよね? そこから衰退の一途を辿っている現状を考えると、あの頃の幻影に憑りつかれた様にかつての延長線上を右肩下がりに邁進する今の日本にも疑問があります。 何故これだけ有望な産業を国策として育てようとしないのか、何故古に固執し、新を軽視するのか。 アニメをいち娯楽に留まらせず、昇華させても良いのではないか、そう思うのです。」
キリヤ「いちモブがでけー事言うじゃんwww」
キリヤ「で?お前の考えは?」
サトシ「え?いや、取り敢えずキリヤさんのご意見を聞いてみたいなって……」
キリヤ「お前さ、それ言う為にわざわざ俺の時間浪費させてんの?」
キリヤ「お前の考えがなきゃ意見も論評もねえだろがよ!なめてんの?」
サトシ「いや、すみません、あります。では僭越ながら失礼します……」
サトシ「───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────……と考えます。」
冒頭から続いていたタイピング音がピタリと止んだ
自分の意見が刺さった?
キリヤ「……以上? お前ふざけんなよ!! 俺暇じゃねーんだけど!!」
違った──
思い上がりだった──
そのまま意見を貰う間もなく通話を切られてしまった
しかも即ブロックされてしまっていた……
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