#2 オタク

今日もオクリオことBJは無駄に鍛え上げた筋肉をフル稼働して格ゲーに勤しんでいる


黒人のBJはいわゆるムキムキで日本人の自分では到底辿り着けないような筋肉の付き方をしている


偏食だしゲームばかりしていて、且つそこまでストイックに鍛えていないのにもかかわらずだ


DNAとはなんとも残酷である


自分はあまりゲームを嗜まないが唯一『鉄拳』という格ゲーだけはプレイできたのでたまにBJと対戦した


負けた時のBJのリアクションが面白かったから


破壊神の様な勢いでベッドを叩いて悔しがった


出川哲朗もびっくりのパワー系リアクションが持ち味だ


サトシ「ベッド壊れちゃうよ……」


力み過ぎてコントローラーのボタンを度々陥没させた


BJは面白くていい奴だ


合う趣味といえば音楽くらいだが、それでもよくつるんで遊んだ


彼はよくGameCityへ行きたがった


GameCityとは、ゲーセンをフォーマルにした感じの施設で、アトラクション等もありラウンドワンの上位互換の様なゲームのテーマパークだ


彼はそこへほぼ毎日行きたがった


サトシ「週末くらいクラブとか行こうよ」


BJ「……」


アメリカには日本にある様な気軽に入れるゲーセンの様なものは存在しない


というか日本以外はあまりないと思う


せいぜいバーやパブの隅に古びたゲーム機がたまに置いてあるくらいだ


BJはえらくGameCityにご執心で週末平日問わずしょっちゅう通っていた


当初は好きなんだなくらいに思っていたが、あまりに通い詰めるので次第に呆れへと変わっていった


サトシ「今日も行ったの?」


BJ「イエス!ヤバかった!」


翌日──


サトシ「行った?」


BJ「イエス!」


サトシ「あのさ、いくら何でも行き過ぎじゃない?」


BJ「そう?」


で、ドミトリーに戻ったら格ゲーである


上半身裸で、ムキムキの体で、鍛え上げた筋肉の全てをコントローラーに乗せて


何でこの生活でムキムキなんだよこいつ


毎日GameCityへ行った事を問い詰められるのが嫌だったのか、次第に行った事実を隠す様になった


サトシ「行った?」


BJ「……」


ニヤニヤしている


サトシ「行ったんでしょ」


BJ「……」


サトシ「行ったな。これは行ったな。言えばいいじゃん」


BJ「うるさい!お前はお仕置きが必要だ!」


サトシ「なんでだよwww」


実際には問い詰めない日も結構通ってたらしい


それから暫くしてだ


BJはGameCityでバイトを始めた


サトシ「マジかwww」


BJがいるので自分も以前より顔を出しに行く様になった


客に操作方法を教える体で自分が目一杯エンジョイするBJ


概ね想像通りの光景だ


サトシ「仕事しろよw」


BJ「お客さんに操作方法教えてんだよ」


サトシ「その客もうどっか行ったよ、BJが熱中してる間に」


BJ「……お前はお仕置きが必要だ!」


サトシ「だからなんでだよwww」


暫く順調に趣味と実益を兼ねて働いていたBJだったが、マネジャーと揉める事態が発生したらしい


どうせBJのエンジョイしすぎが原因だと思っていたがそうでもないらしい


聞くに、雇用契約に抵触しそうな話ではあった


サトシ「……で、どうしようと思ってるの?」


BJ「訴える!弁護士の叔父がいるから彼に頼む!」


その日は相当キレ散らしていた


程なくして店を辞めたBJだったが、時間とともに怒りも収まり結局訴訟云々は有耶無耶になった


しかしその後衝撃の事態が発覚する!!


なんとBJは辞めた後も客としてGameCiryに通っていたのだ


呆れた……というか言葉が見つからん


結局どこまで行ってもBJはBJなのだ


そんなBJだが、自分の誕生日には絵を描いてプレゼントしてくれた


何かのゲームのキャラクターらしい


嬉しかったけど、正直とんでもなく下手だった、笑えないレベルで


それでも自分に隠れて一生懸命に描いてくれた絵にはBJらしさが詰まっており素直に嬉しかった


思えば少し前から何かを準備していることを匂わせてコソコソしていた


これだったのかw




────時は移ろいアメリカでの学生生活を終えた自分は帰国の途に


就職活動に追われる日々を過ごしていた自分宛にBJから一報が届いた


結婚した──


なんとも目出たい、本当におめでとうBJ!


現地の共通の知人からプロポーズ時のエピソードを伝え聞いた


GameCityでプロポーズしたらしい……お店からの演出のバックアップの中


なんとも頭痛が痛くて痛すぎる話だ


とどのつまり、BJはBJでオタクはオタクなのだ

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