第33話 自分の気持ち

「最近のプリクラはシールじゃないんだ」


上椙さんは何事もなかったかのように出来上がったプリクラをずっと眺めながら歩いている。

さっきのことについては何も言わない。

プリクラを持っていない方の手はずっとつないだまま。


ふりほどこうとすれば簡単にふりほどける。

だけど、そうしたくないとどこかで思っている。


「これのダウンロードしたものをPCの壁紙にしようと思ってるんだけど?」

「冗談だよね? 会社の人に見られたら何を言われるかわからないのに」

「会社のPCとは言ってないけど? でも会社のPCがいいなら……」

「ダメ!」

「そう……だったらこっちの印刷された方をデスクに飾ろうかな」

「自宅の、よね……」

「会社のデスクにだよ?」

「それはダメ!」


上椙さんが声を出して笑った。


わたしは彼を好きじゃない。


「ひどい。からかった?」

「だってさっき、キスさせてくれなかった」

「そんなのしない。本当に付き合ってるわけじゃないんだから」

「だったら本当に付き合おうよ」


答えられない。


「本気なんだけど」


答えていいのかわからない。


「手を、離してくれないと帰れない」

「離さないといけない?」

「帰れないから」

「帰るの?」

「駅まで送ってもらってありがとうございました。おやすみなさい」


自分で言っておきながら、ふれていた手の最後の指先が離れた時に、大切な何かが欠けていくような、よくわからない感情に戸惑った。


だから、振り返らなかった。



わたしが、誰かを好きになってもいいのかわからない。

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