第32話 4コマ
「誘ったのは上椙さんだけど?」
「うん……そうなんだけど、実を言うと初めてなんだ」
「一度もないの?」
「ない。だから一度撮ってみたかった」
「韓国プリクラはわたしも初めて」
お店を出て駅に向かう途中でプリクラコーナーを見つけて、上椙さんが記念に撮ろうと言った。
プリクラなんて、最後に撮ったのはいつなのか思い出せない。会社の子が持っているのを見せてもらったことがあるけれど、実物が随分加工されていて、本人だと言われてもわからなかった。前はデコるくらいしかできなかったのに。
学生らしい子に混ざって順番を待っているわたしたちは、側から見たらどんなふうにうつるんだろう? 仲の良い恋人?
「人生4コマ……」
スマホで検索したらしく、上椙さんは真剣に説明を読んでいた。
このプリクラは、4カットがコマ送りみたいに、縦につながった写真になって印刷されるらしい。
「このポーズをしよう」
スマホの画面を見せられた。
1枚目は、カメラに向かって並んだ2人が笑顔の写真だった。
2枚目は、そのまま顔だけ向かい合って見つめる写真。
3枚目は、片方の手でハートの半分を作って、2人で一つのハートにする写真。
最後は、後ろから男性が女性にハグをしている。
「本気? まるで高校生みたいだけど?」
「僕たち、付き合ってるわけだし、これがいい。ダメ?」
そういう聞き方は、なんだかずるい。
「わかりました」
「了解を得られて良かった」
自分でもどうして断らないのかわからない。
10秒ごとになるシャッター音に合わせて、4カットのポーズを撮る。
横に並んで正面を向いて、笑顔。
シャッター音。
そのまま顔だけ相手に向けて、見つめあって。
シャッター音。
片方の手で半分のハートを形作って、上椙さんが作ったもう半分のハート型と合わせようとした瞬間、上椙さんがわたしの指先を掴んだ。
それで思わずカメラの方ではなく、上椙さんの方を見た。
上椙さんはただ、真っ直ぐにわたしを見ていた。
シャッター音が聞こえた。
あ……キスをされる……
そう思ったから、下を向いた。
だからなのか、本当に最初からそのつもりだったのか、抱きしめられた。
わたしの耳を塞ぐように、上椙さんの腕が包み込む。
そのせいで、最後のシャッター音は、どこか遠くで鳴っているみたいに聞こえた。
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