第31話 好きじゃない

今回のお店は、来たこともないような格式の高そうなお店だった。

こういうお店によく来るのか聞くと、「そんなに来ないよー」と笑って返された。

しかも、また常連さんのようで、女将さんや板長さんが挨拶に来たので驚いていると、「きっと暇だったんだよ」と話をかわされた。


料理は既にコースが注文されていたようで、すぐに運ばれてきた。

一つ一つが手の込んだもので、繊細なお出汁の味が美味しくて、日本酒ともよく合う。


「よく飲んで、よく食べるよね」と言われて、呆れられてるのかと思ったら、そうではないみたいで、ずっとニコニコされていた。


「僕と付き合うとこう言う店にもたくさん来れるよ」

「何ですかそれ? そんな理由で付き合う人を決めたりしません」

「なんだ、こういうのもダメか」

「何考えてるの?」

「いろいろ。一歩進みながら次の一手も考えてる」

「上椙さんって、今の仕事の前は何してたの?」

「興味出てきた? いいよ、朝まで話そうか」

「遠慮します」

「IT関連の仕事を幅広くやってる」

「どうして開発部じゃなくて情報システム部に?」

「そこに情報システム部あったから」

「山じゃないんだから」

「館山さんがいたから」

「もういい」

「真面目に答えてるのに」



言いたいことを言っている。

こんなこと言ったら怒らせてしまうんじゃないかとか、そんな不安もなく。

でもそれは、きっと好きじゃないからできることで、好きだったら相手に気を使って、何も言えないはず。


だから、わたしは彼が好きじゃない。

好きになんてならない。

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