第30話 次の約束

人事部に寄った帰りに休憩室の前を通ると、目を閉じた上椙さんがイスに座っているのを見かけた。


眠っているのかと思って、そっと近づいたつもりだったのに声をかけられた。


「寝てないですよ。少し目を閉じていただけです」

「そうですか」

「日本食が食べたくないですか? 今日仕事終わったら行きましょう」

「早く家に帰って寝た方がいいんじゃないですか?」

「どこにしよう……」

「わたしの話聞いてます?」

「聞こえないですね」

「あの、考えてたんですけど、3日ってどうやって測ればいいんでしょう?」


黙ってスマホの画面を見せられた。

「3days」と書かれたアイコンがある。


「タップしてください」


言われた通りタップすると、タイマーのようなものが表示されたけれど、今はカウントしていないようだった。


「ちゃんと測ってます」

「意外に律儀なんですね」

「まぁ」

「こんなアプリあるなんて知りませんでした」

「作りました」

「え? これだけのために?」

「そうです」


上椙さんは大きく伸びをした。


「どこに行くか決めました」

「わたし、行くって言ってないですよ?」

「今日は定時に上がるから、一緒に会社を出ましょう」

「それはちょっと……」


会社には上椙さんに彼女がいると思っている女子社員がいる。

そんな人達に見られたくない。


「じゃあ、前にタクシー拾ったとこならいいですか?」

「そこなら」

「じゃあ、仕事終わったらそこで」

「あ……」

「残りの仕事のペースあげよう。じゃあ、また後で」


約束してしまった。

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