第15話 失礼なサイト

何かのプログラムなのか単なる静的ファイルなのか、見ただけではわからない。上椙さんに聞けば、詳しそうだからわかるのかもしれないけれど、聞きにくい。


そう思っていたところへ、ちょうど大西くんがやってきた。


「神里さんこんなとこで寝て……」

「どうしたの? さっきまで元気だったのに」

「あれ見てくださいよ」


大西くんが指差した先を見ると、上椙さんが水戸さんと話し込んでいる。


「負けました」

「そっか」

「上椙さん、彼女いるって聞いてたのに……」


大西くんは恨めしそうな顔で2人を見ながら、大きなため息をついた。


「そんな、ため息つくほど落ち込まなくても。まだ会ってから間もないんだから……」

「館山さん、知らないんですか? 恋に落ちる瞬間っていうのは、いきなりやってくるもんなんですよ! それに、自分じゃとめられないんです」


あまりの勢いに圧倒されてしまう。


「あ! ねぇ、大西くん、これ知ってる?」


話を変えるついでに、神里さんのスマホ画面を撮った画像を見せた。


「ああ、これですか……えっ? なんで館山さん知ってるんですか? これ女子社員には内緒なのに……」


女子社員に内緒?


「これ、誰が更新してるの?」

「誰って言うか……ほぼ男全員……」

「何それ……」

「だいぶ前からあるみたいで、入社してしばらくして、IDとパスワード教えてもらいました。僕が言ったって言わないでくださいよぉ!」

「誰にも言わないから、わたしのとこのバッテンが何なのか教えてくれない?」

「館山さんのバッテンですか? 僕が入社した時にはもうついてました」

「どういう意味なの?」

「『絶対手を出すな』って意味らしいですよ。館山さんのこと思ってる男が社内にいるってことです!」

「誰かがつけてそのままってことは?」

「それはないです。入社年と『婚』以外は3か月たつと強制的に削除されるんです。それで、また誰か気づいたやつが更新するから。これ作った人すごいですよねー」

「作った人知ってる?」

「さぁ。でもすっごい昔からあるみたいですよ? 僕、課長に聞いたから」

「バカバカしい」

「そうですか? 彼氏いる子とか結婚してる子好きにならなくてすむから」


へらへらと笑う大西くんを見て、ため息が出てしまった。


「あ! 上椙さんが水戸さんのとこからいなくなったんで、僕行ってきます! これ、絶対に内緒ですよ!」



「将棋の質問に答えるチャット」や「社内物々交換サイト」とか、社内に誰かが趣味で作ったプログラムがいっぱいあるのは知っていたけれど、女子社員に特定の相手がいるかどうかのサイトがあるなんて初めて知った。



こんな失礼なサイトを作った人に文句を言いたい。

それ以上に、わたしにバッテンをつけた人に言いたい。


わたしにそんな価値なんてない。

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