第14話 バッテン

水戸さんの歓迎会では、大西くんが盛り上げ役になって、出席したメンバーはみんなお酒がすすんでいた。


隅の方で飲んでいると、主任をしている神里さんが随分酔った状態で隣にやってきた。


「館山さん、今まであまり話したことなかったよね?」

「そうですね」

「俺さぁ、子供生まれたんだよ」

「おめでとうございます」


それは部署のみんなが知っている。神里さんが嬉しそうに言いふらしていたし、お祝いをしたから。


「やばいよ、かわいすぎるんだけど、どうしよう?」

「良かったですね」

「あ、写真見たいよね?」


神里さんはこちらの返事も聞かずに、スマホで撮った写真を何枚も見せてくれた。


赤ちゃんは眠っている写真がほとんどだったけれど、奥さんが撮ったのか、赤ちゃんと一緒に写っている神里さんは、本当に幸せそうだった。


「でさぁ、館山さんのバッテンって誰なの?」


バッテン?


「何ですか、それ?」

「知らないの? これ」


神里さんはスマホを操作すると、そのままわたしに渡してくれた。


女子社員の名簿のようだったけれど、名前の横に「有」とか「婚」とか書かれていて、その右には西暦がある。

スクロールしていくと、マキちゃんの名前の横に「婚」と書かれていた。

確かに自分の名前の欄を見ると「×」と書いてある。

ずっと下にスクロールしていって、吉田美和の名前を探すと、「有」と書かれていた。


「これ、誰が作ったんですか?」


神里さんはテーブルに突っ伏して既に寝ていた。


それで、もう一度、さっきの表を上からゆっくり見ていった。

知らない名前もいっぱいあったけれど、知っている名前を見つけて、その右に書かれていることを照らし合わせていくと、表の意味がわかった。

マキちゃんと、知っている先輩の横に書いてあったから「婚」は結婚しているという意味。

確か吉田さんには彼氏がいる。「有」は、彼氏がいるという意味だ。

そして、表の一番右の西暦は入社時期。


細野さんと不倫をしていた派遣の子は? そう思ったけれど、その子の名前をわたしは知らない。

辞めてしまった小山内さんの名前はなかった。

派遣の子は載っていない? そう思ってまたスクロールすると、水戸愛美の名前を見つけた。

一番下までスクロールすると、ご丁寧に「最終更新日」という記載と、昨日の日付が書いてあった。

辞めた人は表から削除されて、新しく入った人は追加されるようだった。


上から下までもう一度ゆっくりと見たけれど、バッテンは、わたしにしかついていない。


この表は誰が作ったんだろう?


バッテンの意味は誰に聞いたらわかるんだろう?


神里さんのスマホの画面を自分のスマホで撮った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る