第5話 虹

不意に予定がなくなったので、YUKIを探すことにした。

昨日の覚えているところまでの道をたどってみる。


アルコールを提供する店が立ち並ぶ界隈は、夜でも色とりどりの派手な看板で明るいのに、太陽の下では、夜のそれとは全く違っていて、何一つ覚えているものがなかった。


二度とあんなに飲んだりしないようにしよう、そう思った時だった。

スマホにメッセージが届いたことを知らせる着信音が鳴った。


かっちゃんからだった。


<今 どちらにいますか? ここからは幻日が見えています>


幻日?

わからなくてその場で検索した。


『幻日――珍しい大気光学現象。太陽と同じ高さの位置に出現する縦の虹』


縦の虹?


顔を上げて辺りを見渡すと、太陽のある方向に、言葉の通り縦に向かって伸びる虹が見えた。これまで見たことのあるアーチ状の虹とは違って、天と地を結ぶ柱のような虹。

生まれて初めて見たこの縦の虹は、幻想的で、まるで空から幸運が降り注いでいるように見える。


自分もこの目でその虹を見ていることを伝えたくなった。


<ここからも見えます 初めて見ました>

<きれいだったので お知らせしたいと思いました>

<教えてくださってありがとうございます>

<solitusさんに幸運が訪れますように>


かっちゃんがどこの誰かなんて関係なくて、今、この時を共有して、そのことを伝えあえたことが、素直に嬉しいと思えた。

だからなのかもしれない。一歩踏み出した。


<わたしからもお願いします お友達になってください>


そうメッセージを送った。


<こちらこそよろしくお願いします>


返信と一緒に、かっちゃんが見ている幻日の写真が送られて来た。

だからわたしも、自分が今、目にしている、この虹のある景色を写真に撮って送った。



幻日について検索した時、「希望や願いが叶う前兆」とも書いてあった。

占いもスピリチュアルなことも信じていない。

それでも、今日のこのことが、あのことから、前に進んでもいいんだと言われてるような、そんな気がした。


そう、思いたかった。

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