第3話 奮闘手ぬぐい


ある晩。

俺は酷い目に遭っていた。真っ黒な何かに上から押さえ付けられ、首を絞められている。夢かと思ったが、こんな苦しくて痛い夢があってたまるか。抵抗しようにも、身体は一ミリも動かない。焦りと苦しさで、気が遠くなりかけた。その時。

ひらひらしたものが、真っ黒なそれに被さった。薄い海色、掠れた青海波文様。手ぬぐい。ぎゅうぎゅうと、きつく黒いヤツを締め付けているような音さえしそうな様子だった。実際聞こえてないけど。黒いヤツは暴れて、手ぬぐいから逃れようとする。全部俺の身体の上でやるんじゃねぇよお前ら……。首が遂に全解放され、俺は激しく咳き込んだ。同時に、黒いヤツはパッと玄関の方へ向かう。それを追って手ぬぐいが飛んで行った。ドッタンバッタンと、マンガみたいな効果音が続いたと思うと、不意に静かになった。何とか起き上がり、呆けて玄関へ続く廊下を見ていると、ひらひらと手ぬぐいが戻って来た。まるで胸を張るように、ぴんと反り返った様子になる。

「追い払った、のか?」

手ぬぐいは頷くように、上下に動く。褒めて!と言わんばかりの様子が、何故かよく分かってしまって。俺は気付いたら笑ってた。

「ありがとうな。よくやったよ、お前は」

手ぬぐいは狂喜乱舞、と言った様子で俺の周りを飛ぶ。元気なヤツ。

「手ぬぐい……じゃ、ややこしいか」

俺の頭上を飛ぶ、青海波文様の手ぬぐい。

「セイガイ、とか」

ぴたりと、手ぬぐいが止まる。しげしげ、といった風に俺の前でゆらゆらしていた。

「名前だよ、お前の。青海波文様だろ?」

手ぬぐいは少し動きを止めた後、理解したようにまた元気になった。俺の首に落ち着き、頬擦りのように撫でつけてくる。

「気に入ったか?」

肯定のように、両端でパタパタと俺の肩を叩く。

「俺は矢絣やがすりって言うんだよ。吉祥紋仲間だな」

手ぬぐい、もといセイガイは、嬉しそうに首に軽く巻き付いた。不思議と、もう恐怖心は消えていたのである。


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