第2話 手ぬぐいの定位置


「ただいま、」

夜。

俺が帰ると、暗い部屋の奥から、一枚の手ぬぐいが飛んで来る。心臓に悪い。

「……まだいるのかよ。好きなとこいけ」

手ぬぐいは首を横に振るように、ぶんぶん左右に揺れる。

「ここにいたい、ってか?」

問えば、頷くように上下に動く。意思疎通出来るの、地味に腹立つな。

「首を絞めるなよ」

念押しで言うと、また上下に動いた後、嬉々とした様子で俺の周りを飛ぶ。やがて、ゆっくりと首に回って来た。風呂上がりに首に掛ける手ぬぐいそのものの格好になる。

「おい、」

昨日の今日で、俺はちっとも安心出来ない。感づかれたのか、手ぬぐいの両端が、俺の肩をパタパタと撫でる。安心しろ、とでも言うように。

「そこが気に入った、とか?」

恐る恐る聞けば、手ぬぐいは嬉しいのか激しくパタパタして来た。本当何なんだ?これ。首筋を頬ずりでもするみたいに、手ぬぐいがさわさわと動く。取ろうとすると、凄い力で張り付かれた。どこにそんな力あんの。

「どきたくないのか」

肯定のようにパタパタと動く。邪魔……でもないか、手ぬぐいだし。

「首、絞めるなよ」

再度言えば、手ぬぐいはふわりと俺の首元で両端を交差させて、動かなくなった。悪さはしないという意思表示のようにも思えて、溜息をつく。

「好きにしろ」

手ぬぐいは楽しげにパタパタし始めた。やっぱ大人しくしててくれ……。





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