しょりしょりしよ 4

むしろここからがはじまりとばかりに、富美は、

「どうしたの? 早くしてよ。しろ」

 要求すると、頤を預けていた指を解いた。そうして、戸惑う千香を尻目に、内股で、両の脚をず、ず、と滑らすように広げてみせる。内腿に左手を沿わした。

 右手は胸へと持っていった。

 頬が赤い? じわじわと朱に染まっていく。下唇を噛んで引き結ぶようにしている。たぶん、恥ずかしいんだ。あの、富美が。いや、まだ会って間もないが。それでも。

 言葉通り、本当に早くしろと促されているようだ。ちょっと意地悪したくなる。でも。

「おなに」

 我慢できない。

 ぽつりと千香は零した。零れてしまった。それもそのはず。

 みせあいっこ。

 みせあいっこをするのだ。いまから。しようというのだ。

 富美の痴態を、この目で見ることができる。

 その事実に、下がっていた千香のボルテージが俄然上がっていく。脳の回路が焼ききれたように、疑問を差し挟まず己の股間に手を伸ばす。左右の手を股間にもっていく。

「ん。ふ。ふ」

 けれど落ち着いて。徐々に。すぐに終わらせないように。

 意識はしていても千香は速度を緩めることができない。自分が自分の体じゃなくなったみたいに。

 普段なら胸をしばらくいじって、なにか想像でも巡らせて、ゆっくりゆっくり時間を掛けてぼんやり楽しむところをそうはしない。

 まず左手で股を少しばかり広げた。さらに肩幅に脚を開いた。

「んっ」

 続けて右手で人差し指を立てて、下から上へ強めに縦に入った筋をなぞる。上から下へなぞることはしない。指を離して再度下から上への繰り返し。

「ん、ん、ん、ん」

 唇を噛む。唾液が口内で溢れる。視線はまっすぐ下に。自分のそれなんか見ずに。

 シャワーによる水滴で滑りがいい。これじゃあすぐに終わってしまうじゃないか。けれど緩めることができない敵わない。だって。

「……~っ」

 富美がオナニーしているのだ。

 その事実に興奮する。すっぱだか。ありのままの姿。さっきまでと全然違く思える。

 富美はあまり声を出さない派、らしい。しかしその息は激しい。

 彼女の見上げる瞳。その瞳が潤んでいる。かわいい。目尻に水滴が溜まっている。あれを舐め取ってみたら、天上へ至れる気さえ今はする。

 富美のそれはけっこう激しい。

 まず右手で乳首をぎゅううっと摘んでいる。乳房を揉んだりはしない。ただただ乳首を攻めている。そうして、中指を膣口へと入れてぐちゃぐちゃくちゅくちゅと音を立て、一心不乱に自分のあそこを虐めている。痛くはないのか傷つけはしないのかと心配になる思考の横で、いつの間にか自分の右の胸に手を這わせていっている自分に気が付いた。なだからな丘を指先でなぞるようにする。それだけで背筋がぞくりとした。

 富美が乳首への責めを弱めているのに気付いた。激しいオナニーの手は一旦止めている。見れば千香と同じだ。線を、千香と違う歪んだ縦筋をなぞるみたいにしている。物足りなくないか。わたしのそのやり方。あなたのそのやり方。得られる快楽に差はないか。

 問い掛ける一方、動きの同調による快楽は高まっていく。富美の口端がだらりと開く。涎が落ちた。千香もだらしなく口を開いた。涎はわざとつくってわざと垂らした。糸を引いた。

 富美のとろんとした瞼が上下する度、視線があちこちへといく。千香の濡れたおまんこ。それをいじる子供みたいな指。ふくらみなど大してない尖った胸。お腹に脇に脚に腕に涎に目にへそに首筋。視線の不安定さが彼女の興奮を伝えてくれるみたいだった。幼い体した千香の全身に性的な視線を注いでいる。富美がなぞった。千香もなぞった。ぷちぷちと愛液が溢れた。気持ち良いのがきた。焼かれる。ぬめりを帯びる指先。まだ足りない。全然足りない。

 富美が前のめりになった。それは嫌だ。見えない。視線での訴えが通じたのか、富美が掠れる荒い息を吐きながら、姿勢を戻した。「くん」と声が漏れた。

 それだけで何度でもイケた。

 相手との同調がこんなにも気持ちのいいものだったなんて。その事実に千香は驚く。鏡写しじゃない。ふたりの利き腕の違いからか、そこに座ってオナニーしているのは自分。そう感じてしまう。富美も同じだ。たぶん。

 ふと悪戯心が湧いた。

 ぐっとない胸を持ち上げてみる。富美の豊かなそれも持ち上がった。

 くにくにと揉んでみる。ぐにゃぐにゃと富美の乳房が形を変える。

「……」

 それまでの性的興奮とは違った種類のものを抱いていた。例えるならば、自分にないものへと憧れ。この悪戯心はなんなのだろう。面白いくらいに形を変える胸を見て思い出したのは、数年前に流行ったアニメ映画のワンシーン。

 男女の入れ替わり。女になった男がおっぱいを揉むシーン。アレってきっとこんな気持ちだったのかなと考えていたところで、富美の目つきがじとーっとしたものに変わっていた。

「ごめん」

 真面目にやってない。怒られている気になる。

「…………」

 富美が無言で乳首をぎゅうと摘んだ。射竦められるような瞳に、千香も乳首を摘む。きゅっと絞るみたいに痛いくらいに。だって、富美がそうしてるから。罰なんだ。罰。

 ぴくりとする。痛い。けれど富美はその手を緩めない。己の乳首をしごき始めた。千香のそれはもう既に痛いくらいに勃起している。けれどしごく。しごかれている。自分の指で。富美の指で。摘んで摘んできゅっと。

「あ、はあ、ん」

 喘ぎ声が漏れる。痛い。けれど指は止まってくれない。無論それは反対側の指も同様で、入れたり出したりこそしないが、なぞる指は激しさを増していた。千香のやり方に合わせてくれるのは嬉しいが、ちょっと早い。気持ち良すぎて立っていられない。

 極度に内股になる千香に終わりを悟ったのだろう。

 富美はへらっとした笑いを浮かべると、そのまままただらしなく口を開いた。まるで力の入っていない虚脱した表情。後、視線は千香の身体のあちこちを犯すそれに逆戻りしている。

 脚がぐっと開いた。千香もぐっと寄る。間に体を割り込ませるみたいに。富美の眼前に自分の局部を近づける。フェラチオさせる男性の気持ちが今なら分かる。千香の場合、先の前髪掴みの件が尾を引いて、一瞬の主従逆転の気持ちも乗っかっている。この綺麗な顔をわたしの分泌液で汚したい。なすりつけ、息もできないくらいに、びしゃびしゃに。

 溢れる愛液が彼女の顔を濡らしている。舌を出した。指を速めた。愛液が舌へと飛ぶ。混ざり合って融け合う。富美の目尻からは涙が溢れている。富美の甲高い吐息が千香の意識を焦がしている。

 ずっと聞いていたい。けれど終わりが近い。終わらせたくないけれど終わりは近い。意識が撹拌する。混ざって解けて、狭いバスルーム内をふたりの女の濃密な匂いで満たしていく。

 ふー、ふー、という吐息は富美のもの。あー、あー、という大人の色気というものがまるで感じられない、反応による反応は千香のもの。限界が近い限界が近い。

 膨張した風船が弾けるみたいにして、甘い嬌声が空間を包んだ。ふたりで一緒に高めあったエクスタシーをふたりで一緒に破裂させる行為。それはとても蠱惑的。膨張し、己が体に溜まっていた愛の蜜は、今互いの体を濡らしていく。

 先におしっこしたのは意外にも富美だった。

 だから千香もちゃんと応えた。ぶるっ、と、体を震わせ、愛液と共に富美の顔面にしっかりとおしっこを浴びせた。最後には、富美の顔面に千香の陰部をなすりつけるようにして擦り付けた。富美は溺れながら喘いだ。とても満たされる行為だった。全てを出し切り、ふたりのいろんな液で濡らされたタイルにへたり込んだ後も、千香の体は痙攣を繰り返していた。

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