なんでだろ。なんでわからないの。なにもわからないのなんでだろ。2

 車がその場所に近づくに連れて、ひょっとしてこの人は自分のストーカーか何かじゃないのかと、デビュー当時の顔出しインタビューの幾つかがが頭を過ったが、到着した場所は彼女の佇まいからは想像も付かない程のボロアパートだった。

 彼女の部屋の扉が閉まった瞬間、千香から富美の手を握りキスしていた。先程よりも熱いキスであった。今度は千香が富美の身体に手を回した。その際、ずっと触れたかったうなじにさわさわと千香は触れた。身長差で、抱き締めている、というよりも縋り付いている、という風になってしまったが。

 擽ったそうに身を捩る富美は可愛かった。

 結局、キスしながら富美に股間を膝と腿とで攻められ続け、崩れ落ちたのは千香だけであった。見下されるその視線に千香はぞくぞくとした。


 翌週同じ曜日同じ時間。先週と同じ格好をし、千香は着想を得る為、また同じ公園を彷徨い歩いた。違っていたのはその下に履いていたショーツのみ。通販で購入したそのショーツは、万が一親に見られたらと不安になって、コンビニ受け取りに指定した。何種類か買った。

「お姉さん」

「千香ちゃん。また来たの?」

 千香は言って、お姉さんは笑顔で応えた。

 千香は自分の足元を見ている。

「今日もひとり?」

「うん」

「お母さんは?」

「おしごと」

「千香ちゃんは何歳だったんだっけ。お姉さん忘れちゃった」

 いじわるだなあと思いつつも口は勝手に動いた。

「じっさい」

 顔を上げた。含み笑いしているその姿に千香はひどく憤りを感じたが、質問のひとつひとつに答える度、自身が本当にじっさいだと思えてきてもいた。儀式めいた質問は暗示か催眠。植え付けられた弱者であるという自覚、奉仕しなければならない、演じなければならない、なりきらねばならない、彼女の求めるその姿でなければいけない――される、してくれないかもしれない。

 千香の中にはっきりと、じっさいの自分がいる。それを解ってしまった。


 たぶん、恋なのかもしれない。

 歪んでいるけれど、これが恋。


 千香はその日、公園で裸になった。

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