ジョークか、マジか。2

 十分足らずで家に着く。

 平日昼間。家には誰もいない。

 父と母は共働きで、二十歳を過ぎた一人娘の自分は、遊び歩いていると云ってもいい程だ。実際には違うが、気持ち的に。

 お腹が空いている。このまま玄関先にバッグを投げ出し、軽くお昼を済ませ、シャワーを浴び仮眠を取る。そんなコースが浮かんだが、誰に見られるわけでもない自分の顔を万が一にでも親が帰ってきて訊かれたら――、そう思い直し階段を上がって自室にバッグを放った。脱ぎ散らかした部屋着を手に取り、脱衣所に向かい扉をぴっちり閉ざした。

 ドラム式の洗濯機の中から、父と母と自分の服を取り出すと、着ていたワンピースを脱ぎ、それだけ放り投げ、少量の洗剤柔軟剤と共にスイッチを入れた。ごうんごうん音がしだす。

「ふう」

 溜息をついた。

 ひと仕事終わった気分。

 富美のことでそんな気分を抱いた自分に腹が立ち、千香はずっと違和感があって仕方がなかった顔を両の手で挟んでぐにぐにと揉む。

 突っ張った表情のまま素っ裸の自分の体を見下ろした。

 膨らんでいるというより、尖っていると見える胸に、ぺこんと引っ込んだお腹、小さなへその真横に小さなほくろ、骨ばった鼠径部の下の、先まで弄られていた局部には、本当に薄っすらとではあるが毛が生えている。両手を体手前でぴんと伸ばし、あまり好きではない小さな手のひらと、二十・五センチしかないつま先とを交互に透かし見るようにする。

 鏡の前に移動する。

 透き通った鏡に子供みたいな千香が映っていた。

「富美」

 小さく呟いた。彼女に後ろから抱きしめてもらったら、顔の位置はこのくらいか。肩に顎を乗せられて、振り向き様にキスをする妄想をする。自分から舌を伸ばす。その拙さは彼女を喜ばせるに違いない。蹂躙される己が口腔を夢想し、涎が充溢したきたところで、断ち切り身を翻し、風呂場のスライド扉を開けた。

 熱いシャワーを浴びながら、富美とはじめて出会った夏を思い出す。

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