第3話 悪役魔導士、闇ギルドを訪れる





「んっふふ~。旦那様好き好きなのじゃ~♡」


「……」



 どうしよう。


 リオロの魔法陣をちょっと弄ったら、彼女がおかしくなってしまった。


 俺の腕にギュッと抱き着いてきて頬をすりすりしてくる。可愛い。



「……あー、リオロ?」


「んっ♡ 旦那様に名前を呼ばれるだけで濡れるのじゃ♡ どうかしたのかの?」


「えーと、平気か?」


「平気ではないのじゃ!! 旦那様への愛が今にも爆発しそうで胸が苦しいのじゃ!!」



 どうやら平気では無さそうだ。



「しかし、流石に目を剥いたのぅ。妾の魔法陣に干渉するとは、驚き桃の木山椒の木なのじゃ」


「いや、語彙古っ」


「妾は古式ゆかしいイイ女というわけじゃな!! 流石は旦那様、見る目があるのじゃ!!」



 あ、さてはこいつ面倒な奴になってんな?


 いやまあ、興味本位で魔法陣に干渉した俺も悪いのかも知れないが。



「あー、それはそうと、契約の方はどうなってんだ?」


「む?」


「いやほら、お前を愛する代わりにお前の魔力を使わせる、みたいなことを言ってただろ」


「……」



 俺の質問に対し、リオロは少し俯いて答える。



「妾が間違っておったのじゃ」


「え?」


「旦那様の愛を受け取り、魔力をくれてやる? 傲慢極まりないのじゃ!! これからは妾が愛も魔力も身体も何もかも!! 旦那様のために捧げさせていただくのじゃ!!」



 別に愛と身体は要らない。


 そう言いたかったが、真っ直ぐな目で俺を見つめるリオロを見ると何も言えなかった。



「取り敢えず最寄りの街まで行きたいんだが……」


「無論、妾も行くのじゃ!!」


「……じゃあ、まずはその格好をどうにかしないとな」



 リオロはすっぽんぽんだ。


 裸の幼女を侍らせているとか、すぐに衛兵が逮捕しにやってくるだろう。


 多少ボロボロだが、俺は着ていたローブを脱いでリオロに着せる。


 かなりサイズは大きいが、裸よりはマシだ。


 するとリオロは俺のローブに鼻を擦り付ける勢いで匂いを嗅ぎ始めた。



「くんかくんか!! んほおっ♡ 旦那様の香りが染み込んでいて頭が馬鹿になりそうなのじゃあっ♡ 子宮がキュンキュンして旦那様への愛でおかしくなっちゃうのじゃあっ♡」


「もうなってる」



 俺はローブの匂いを嗅ぎながら絶頂しているリオロを無視して最寄りの街に向かった。

 その道中、リオロが可愛らしく小首を傾げながら訊ねてくる。



「ところで旦那様、これからどうするのじゃ?」


「適当な田舎に家でも買って、そこで魔法の研究をする」


「むむむ。妾の他にも魔神を従える気かえ?」


「ん? ああ、それはもういい」



 魔神を従えたかったのは、無尽蔵の魔力でより強くなるためだった。

 しかし、当初の予定とは違うが、その目的を達成することができたからな。


 魔神を複数従えるというのはロマンがあるが、無尽蔵の魔力がいくつもあっても持て余すだけだろう。


 今は現代知識、前世の知識を魔法に応用して面白い魔法を作りたい気分なのだ。


 今の俺は儀式失敗の影響で生活魔法を扱うのが限界だからな。

 生活魔法を基にした魔法で自衛能力を少しでも上げておきたい。


 国によっては指名手配されてるしな、俺。



「むっふふー。つまり、旦那様の魔神は妾一人で十分というわけじゃな!!」


「あー、うん。そういことにしておこう」



 否定すると面倒そうなので、俺は適当に頷いて街に向かう。


 それから俺たちは街に到着した。


 流石にボロボロのローブを着せた幼女を連れているせいで悪目立ちしてしまったが、今いる国では俺は指名手配されていない。


 怪しまれこそすれど、逮捕される謂れはない。


 ましてやリオロが「旦那様好き好きゾッコンラブちゅっちゅ、なのじゃ♡」と言ったお陰で問題なく街に入ることができた。


 まあ、持ち物検査をしている衛兵やその検査のために並ぶ商人らからは「ロリコンだ……」という目で見られて少し泣きたくなったが。


 解せぬ。


 街に入った俺は、すぐ大通りから外れて路地裏に入る。


 そこから複雑な道を通り、ある建物の前で足を止めて戸をノックした。

 すると、扉の向こう側からしわがれた男の声が聞こえてくる。



『誰だ?』


「月夜と兎」


『……なんだ、テトラの旦那じゃねぇか。待ってろ、今鍵を開ける』



 しばらくして扉が開き、俺は薄暗い建物の中に入った。



「そっちのお嬢ちゃんは?」


「俺の連れだ。詮索はするな」


「おっと、申し訳ねぇな。情報屋としての血が疼いちまった」



 俺は男の案内に従って客間に通され、ソファーに腰かける。


 すると、それまで黙っていたリオロが訊ねてきた。



「旦那様、ここはなんなのじゃ? はっ!? まさかここで妾のあられもない姿を大勢に見せつけようと――」


「違う違う。ここは闇ギルドだよ」


「闇ギルド?」


「まあ、ざっくり説明するならヤバイモンを取り扱っている組織だな。俺も一応、この闇ギルドに所属している」



 魔法の研究には多大な金がかかるからな。


 利益率の高い違法な魔法薬を適当に作って闇ギルドに売っているのだ。



「ここなら人目につかない建物の一つや二つ、所有しているだろうからな」


「わざわざ闇ギルドを利用しなくても良いのではないかの?」


「表通りの不動産屋を使ったら記録が残るだろ。それを避けるために闇ギルドを使うんだ」



 リオロに軽く闇ギルドについて説明していると、不意に客間の扉が開かれる。


 中に入ってきたのは、俺よりも年下に見える少女とリードに繋がれ、目隠しと猿轡を嵌められた四つん這いの裸の女だった。



「やあ、テトラさん。お待たせしちゃってゴメンね?」



 少女が申し訳なさそうに謝罪した。


 ミニスカートのメイド服を着ている金髪碧眼の美少女である。

 可愛らしい格好と人形のような顔立ちをしているが、その趣味は悪辣だ。


 女でありながら女を好むことを悪いとは思わないが、問題はその愛し方である。



「新しいメス犬がボク様の命令を無視して粗相するものだからお仕置きしてたんだ」


「……相変わらず、良い趣味をしている」


「ふふ、羨ましいだろう? 前に街で見かけたから手に入れてね。結婚して子供もいたけど、夫を借金漬けにして奪ったんだ。前は夫を立てる良妻賢母だったけど、今はボク様からのご褒美を貰うために夫も息子も足蹴にして罵倒する可愛いメス犬になったんだよ」


「ただの嫌味だ、嬉々として語るな」



 このキチガイレズサイコの名前はエリット。


 以前からこの街で世話になっている闇ギルドの頭目である。



「それで? 今日は何の用だい?」


「……家が欲しい。人目につかない場所だ」


「おや? 天下の天才魔導士様が隠居生活するのかい? そっちの女の子が関係あるのかな?」


「詮索はするな」



 エリットが俺の隣に座って足をぷらぷらしているリオロを見てクスッと笑う。



「ふむ。ボク様の趣味ではないけれど、君も良い女を侍らせるようになったんだね。友人として嬉しい限りだよ」


「お前と友人になった覚えはない」


「酷いなあ。君が童貞を卒業した娼館はボク様のポケットマネーで運営してる店なのにぃ」



 ニヤニヤとからかうように言いながらも、部下に命令して書類を持って来させるエリット。



「うーん、君が好みそうな家は四軒だね。この中から選んで欲しいな」


「ならここにしよう」


「おや、即断即決だね。分割と一括、どっちに――」


「一括だ。金は俺の魔法薬を売って得た利益から差し引いておいてくれ」


「了解。それじゃあ、案内人を用意しよう」



 そう言ってエリットが手を叩くと、一人の少女が部屋に入ってきた。


 年齢はエリットとそう変わらないように見えるが、目が死んでいる女の子であった。







―――――――――――――――――――――

あとがき


作者「ガチレズサイコ女は最高だと思います。人生壊されたい」


テ「……うわー」



「リオロが可愛い」「エリット好きやで」「エリットに人生めちゃくちゃにされたい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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