第2話 悪役魔導士、魔神と契約する






 身体が全く動かない。動かせない。


 首を上げることもままならないため、俺は視線だけを褐色銀髪ロリに向けた。



「ふふん、どうじゃ? 妾の力の一端を目の当たりにした感想は?」



 感想。感想、ね。


 前世の記憶を取り戻す前の俺なら、初めて食らう魔法に驚愕して軽くパニックに陥っていただろう。


 しかし、今はそうでもない。



「重力を操作する魔法、か?」


「……」



 前世の知識を得た今なら、当たらずとも遠からずな推測をすることはできる。


 今の俺は身体が麻痺しているわけではない。


 動かせそうではあるが、重みで押さえつけられているような感覚だ。


 風魔法に暴風で対象を地面に叩きつける魔法は存在するが、褐色銀髪ロリから感じられる魔力の波長から推察するに別物だろう。


 となると、考えられるのは褐色銀髪ロリが重力を直接操作している可能性。


 果たして正解は――



「じゅ、重力操作ぁ? な、な、なななーにを言っておるのじゃ? わわわ妾にはさっぱり分からんのう」



 めっちゃ目を泳がせる褐色銀髪ロリ。


 これはあれだな。まさか一発でどういう魔法か見抜かれるとは思ってなかった反応だな。



「コホン。ま、まあ、よい。そのまま話を聞くのじゃ。妾の名はヴァリオロメオアーザ」


「ヴァリ……何? 長いよ」


「貴様ら人間の名が短すぎるのじゃ。まあ、覚えられんならリオロでも構わん」



 そう言うとリオロは俺の前に屈み、俺の顔を覗き込んだ。


 必然、地面に倒れたままの俺は見てしまう。


 一糸まとわぬリオロの穢れ一つ無い、つるりんとした美しい割れ目が。


 このテトラ・メイトン。


 魔法に人生を捧げると誓った身なれど、健全な男である。

 当然ながらそういう欲求はあり、魔法の研究の合間に息抜きで娼館に通うことも珍しくはない。


 だからうっかり見惚れてしまうのは仕方ないことだと思う。


 え? 幼い少女でも興奮するのか、だって?


 そりゃまあ、娼館にはロリからお姉さんまでいたからな。指名することも何度かあった。


 あ、別にロリコンではない。


 大人のお姉さんにもしっかり興奮するし、ただストライクゾーンが広いだけである。


 おっと、話が逸れたな。つまり俺が何を言いたいかと言うと……。



「眼福」


「は? 何を言うておるんじゃ?」



 自分があられもない部分を晒している自覚がないのか、目を瞬かせるリオロ。


 天然なのだろうか。


 などと考えていたその時、俺はリオロの次の言葉に絶句してしまう。



「さて。まずは妾を復活させた礼を言ってやろう」


「え……?」



 俺は一瞬、思考が停止した。


 俺が復活させようとしたのは太古に滅びたという魔神だ。


 つまり、リオロは……。



「正解。妾こそがいにしえの魔神なのじゃ」


「っ、そ、そうか」



 心を読まれた!!



「くひっ、くひひひひ。怯える必要はない。妾は感謝しておるのじゃ。邪魔者が入ったせいで不完全な復活にはなったが、数千年の時を経て蘇った」


「……そうか。俺の儀式は半ば成功していたのか」


「そういうわけじゃ」



 やばいな。ちょっと嬉しい。


 魔神復活の儀式に使った魔法は俺が一から考えたオリジナルだ。


 それが成功していた。


 邪魔が入らなければ完全復活だったが、俺の構築した魔法理論が間違っていなかったことの証明である。



「……くひひひひ。よい、よいのう。この状況で己の心配ではなく、儀式が中途半端ながらも成功したことを喜ぶか。ますます気に入った。やはりお主しかおるまい」


「な、何の話だ?」



 不気味に口許を歪めて嗤うリオロ。


 俺は初めて不気味なものを感じ、動けないながらも警戒した。


 すると、リオロが女神のように愛らしい笑顔を見せる。



「お主、妾と契約せよ」


「……契約、だって?」


「そう。お主は今、力の大半を失っておる。魔力もな」


「あ、ああ、そうだ」



 今の俺は魔導士てしては割と致命的な状態だったりする。


 まず魔力の大幅な減少。


 かつての俺は魔導士が数人集まって魔力がすっからかんにして使う大魔法をポンポン使っていた。


 しかし、今は幼い子供でも使えるような生活魔法を数回使ったら魔力が底を突いてしまうほど魔力が減少している。



「そこで、じゃ。お主に妾の魔力を使わせてやろう」


「!?」



 ……悪くない提案だ。


 魔神は存在そのものが魔力の塊。魔力はほぼ無尽蔵に近く、空っぽになることはないはず。


 今の俺は魔力が大幅に減少している状態だ。


 これを克服するためには外部から魔力を供給する装置を作る必要があった。

 それには天才たる俺でも数年の時を要したことだろう。


 リオロの提案は渡りに船だった。



「……だが、分からん」



 仮に魔力が減っていなくても、元通りに大魔法が使えるわけではない。


 前は蛇口から出す水を好きに調整できたが、今は蛇口を何かで塞がれて、針の穴一つ分しか出せないような……。


 きっと魔力を放出する能力に何らかの欠陥を抱えてしまったのだろう。

 やはり当初の予定通り、生活魔法を極めるしかない。


 幸いにも魔神の無尽蔵な魔力を使えるようになるわけで、試行錯誤にも余裕ができるため、実にありがたい話だ。


 そう、俺にとっては。


 リオロには何のメリットも無く、俺と契約する理由が見当たらない。


 まさか善意ということはあるまい。



「その通りじゃ。当然、お主には妾の下僕となってもらう」


「……魔神の下僕、か」



 悪くない提案だ。


 ただリオロの下僕になるだけで失った魔力を補うことができる。


 むしろ最高の条件と言っていい。



「だが、断る」


「では早速儀式を……ほぇ? な、なんじゃと!?」



 俺は魔神を笑い飛ばした。



「俺は魔導士テトラ。稀代の天才魔導士。誰かを従わせるならともかく、従うのは御免だね」


「っ、や、やはり人間は愚かじゃな!! まあよい。そちらがその気なら、妾にも考えがある」


「なんだ? 力ずくで従わせるか?」


「そんな野蛮な真似はせん」



 その直後、俺にかけられた重力魔法が解けて身体が自由になった。


 俺はリオロを警戒しながら立ち上がる。


 すると、リオロは敵意を見せずに、むしろ好意さえ感じられるような優しい笑みを浮かべて俺を押し倒した。


 これは持論だが、人間は敵意に敏感なものの、好意や善意には鈍感な生き物だ。


 警戒していたにも関わらず、反応できなかった。



「な、何を……」


「お主を妾の下僕とするための儀式なのじゃ。妾は愛と欲望の魔神。愚かな人間の欲望を叶え、その対価としてその者の愛を得る」



 そう言ってリオロが俺の身体に手を伸ばし、優しく擦ってくる。


 それとほぼ同時だった。


 俺とリオロを中心に巨大な魔法陣が出現し、濃いピンク色の魔力を放ち始めたのだ。



「お主は魔力を得る代わりに、これから妾だけを愛するようになる。ああ、勘違いするでないぞ? 妾はお主を愛したりなどせぬ。お主が妾を一方的に愛し、焦がれ、欲するのじゃ」


「……」


「案ずるな。痛いことは何もせぬ。至高の快楽でお主を天上へと導いてやろう」


「……なるほど」



 そう言ってリオロは俺を犯した。


 たしかに今まで抱いてきた娼婦が児戯に感じられるくらい、気持ち良かった。


 しかし、俺の注意は別のものに向いていた。


 魔導士としての欲望が、俺とリオロを中心に出現した巨大な魔法陣に向けられていたのだ。


 そして、理解する。



「面白い魔法だな。洗脳なんて言葉じゃ生ぬるい、相手に自分を愛させる魔法……。ここを弄ったらどうなるんだ?」


「ほぇ? ま、待つのじゃ!! お主、それは――」



 興味本位でリオロの魔法陣を弄ってみた。


 すると、濃いピンク色の魔力の奔流が魔法陣から溢れ出てしまう。


 その次の瞬間だった。


 ナニがとは言わないが、リオロのリオロがよく締まり、俺は果ててしまったのだ。



「うっ、おお……ふむ。リオロへの好意はないな。魔法陣の細工に失敗したか?」


「……ま」


「ん?」



 ちらりとリオロの方を見ると、彼女はわなわなと肩を震わせていた。


 己の魔法陣を弄られて怒ったのだろうか。


 仮にも相手は魔神。

 今の俺では勝てる道理などなく、逃げるしかない。


 そう思って逃げようとしたら……。



「我が愛しき旦那様っ♡ 妾をお側に置いて欲しいのじゃっ♡」


「え、何?」



 なんかリオロがおかしくなった。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「最近、笑い方の汚い女の子に興奮する。あと即堕ちヒロインは日本文化遺産」


テ「あ、うん。そうだな」



「名前長い笑」「作者に賛同」「そんな文化があってたまるか」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る