最強だった悪役魔導士が生活魔法を極めたら規格外のぶっ壊れ性能で最凶に返り咲くっ!

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役魔導士、前世の記憶を思い出す






 テトラ・メイトン。


 彼の人生はまさに波乱万丈と表現するに相応しいものだった。


 幼い頃、常人を遥かに凌ぐ圧倒的な魔力に目覚め、また魔法を扱う才にも長けていた彼を、多くの者が天才魔導士と称えた。


 しかし、そのせいでテトラは増長してしまった。


 自分はもっと強くなれる、もっともっと強大な力を扱える、と。


 テトラは太古に滅びたという魔神を復活させ、それを使役しようと儀式を執り行った。

 膨大な魔力を有するテトラだからこそ可能な儀式だった。


 その結果は――失敗。


 否、途中までは完璧だったのだ。勇者という邪魔が入るまでは。


 勇者。

 それは女神の加護を受け、魔王討伐の旅をしている正義のヒーローだ。


 女神の寵愛を受けた勇者の前では、天才は無力。


 呆気なく敗北し、魔神復活の儀式に失敗した反動で力の大半を失ってしまったテトラ。

 儀式に使われた施設が崩壊し、勇者一行はなんとか逃れたものの、テトラはそれに巻き込まれてしまう。


 テトラは生死不明となり、仮に生きていたとしても魔導士としてのプライドが打ち砕かれ、廃人のように生きていくだろう。



「ってのがテトラ・メイトンの設定だったな……」



 俺の名前はテトラ。テトラ・メイトン。


 はい、どうやら俺はゲームの悪役に転生してしまったらしい。

 昔から色々と巻き込まれる体質だったけど、まさか悪役に転生するとは……。


 それに解せないことが一つある。


 俺は崩壊した魔神復活の儀式に使った施設の瓦礫に腰掛け、俯く。



「よりによって事後かよ……ッ!!」



 そう、俺はすでに「ざまあ」された後のテトラ・メイトンなのだ。


 つい数時間前の出来事、魔神復活の儀式を止めようと乱入してきた勇者一行により、儀式は失敗に終わった。


 俺は魔導士としての力の大半を失い、絶望に打ちひしがれていたのだ。


 その後、すぐに施設は崩落してしまった。


 その時に崩落した瓦礫が頭に当たり、その拍子に前世の記憶を思い出したのだ。



「どうしたもんかな……」



 仮に魔神復活未遂の儀式をやらかす前だったら、もう少しどうにかなったと思う。

 自分の行動を改めて、今日も楽しく魔法を使っていたことだろう。


 しかし、今や俺はロクな魔法を使えない。


 自分が天才魔導士であることを鼻にかけていたせいで友人もいないし、家族とも縁を切ってしまっている。


 要は完全なぼっちなのだ。



「……いや、複雑に考えない方が良いよな。俺はテトラ。テトラ・メイトンだ」



 俺の中には二つの記憶がある。


 一つはテトラとして生きてきた二十年、それから普通の男子高校生としての記憶だ。


 テトラとして生きてきた時間が長いからか、人格はテトラ寄りであり、日本の男子高校生だった記憶があるテトラと表現する方が正しい。


 つまり、俺はテトラなのだ。天才魔導士、テトラ・メイトンである。


 天才は一度の失敗ではくじけない。


 まあ、ゲームのストーリーでは力を失って半ば廃人のようになっているかも知れないそうだが……。


 そこは前世の記憶、陽気な男子高校生だった頃の人格が影響して程よい案配の性格になったのだろう。


 頑張ればどうにかなりそうな気がする。


 ただまあ、正直ド派手な大魔法を使えなくなってしまったのは悲しい。

 勇者一行に邪魔されて儀式が失敗に終わったことも悔しい。


 しかし、今の俺にはそれを差し引いてもあまりある希望があった。



「現代知識パネェ!! でゅふ!!」



 おっと、興奮のあまり気持ち悪い笑い方をしてしまった。


 昔からの悪い癖だな。


 それはまあ置いておくとして、俺が驚いたのは前世の記憶だ。

 日本、というか地球には魔法が存在せず、全て科学で成り立っていた世界。


 こちらの常識では計れない、まさに完全な物理法則の世界だったのだ。



「今の俺は儀式に失敗したせいで、使えるのは水を出したり、程よい風を起こせる生活魔法くらい。でも!! この知識を用いれば!!」



 俺はまた魔法を極められるかも知れない。


 ぶっちゃけ普通の男子高校生の知識では専門的なことは分からない。

 でも、物理法則の世界で生きてきた記憶は俺に自由な発想を与えてくれる。


 そのうち太陽光を利用したレーザー魔法とか使えそうなのだ。



「ふふ、はーはっはっはっ!!!! 俺はもっともっと強くなれるぞ!! 生活魔法だけでも魔法を極め、いずれは魔神を従え、邪魔をしやがった勇者たちを土下座させて……あっ。いや、それはやめておこうかな」



 スッと頭が冷静になる。


 普通に考えて勇者たちのしたことは良いことだし、魔神を復活させようとした俺が悪いし。



「復讐はせず、のんびり魔法を極めて余生を過ごそうそうしよう!!」


「なんじゃ、つまらんのう」


「うおわ!?」



 勢いよく立ち上がった俺の背後から、何者かが声をかけてくる。


 あまりにもビックリして変な声が出てしまった。



「だ、誰だ!?」



 咄嗟に背後に振り向くと、その先は瓦礫の山になっている。


 その瓦礫の山の上に幼い少女がいた。


 華奢で小柄な愛らしい体躯と小麦色の肌、それから風になびく美しい白銀の髪と血のように輝く真紅色の瞳。


 どこか妖艶な雰囲気を漂わせるその少女は、まるでサキュバスのような色香を放っていた。


 何よりその少女の格好だ。


 俺はその少女のあられもない格好を見て、思わず絶叫した。



「へ、変態だーッ!!」


「!?」



 少女がギョッとした様子で「!?」と本気で驚いている。


 でも仕方ないと思うの。


 何故ならその少女は、一糸まとわぬ姿をお天道様に晒していたから。


 いや、待て。



「こ、この状況!! 端から見たら、銀髪褐色ロリの裸を見ている成人男性……俺の方が変態じゃないか!! 失敬!!」


「あ、ま、待つのじゃ!! お主に話が――」


「ごめんな!! お兄さんは魔法を極めたいから、まだ捕まりたくないんだ!! ましてや幼女が相手とかシャレにならん!!」



 俺はその場から全力で駆け出し、慌てて近くの町に向かう。

 まずはそこで適当に金を稼ぎ、どこか遠い町に行きたい。



「ええい、待たんか!!」


「!?」



 その時だった。


 俺は膝からガクンと崩れ落ち、地面に叩きつけられる。


 身体が全く動かない。


 まるで鉄の塊で押し潰されているように、ピクリとも身体を動かせないのだ。



「この妾を変態扱いするとは……。久々に激おこぷんぷん丸じゃぞ」


「え、語彙古っ」


「あ゛?」



 とまあ、冗談を口にしたは良いが、やはり身体は動かない。


 まさか重力を操っているのか?


 思わず変態呼ばわりしてしまったが、この銀髪褐色ロリ……。


 一体何者だ?









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「銀髪褐色ロリは完成された属性だと思う。色合いの配分もそうだけど、癖として」


テ「あ、ああ、そう……」



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