第3話 真相

柏木菜名は、窓から救急車を見送り、茫然自失の親友が学校から警察官に連れていかれるまで、一言も発することなく、ただ教室の椅子に座り続けていた。


とにかく、一旦生徒は家に帰るよう命じられ、菜名は一人で学校を後にした。


菜名は自宅に向かって歩いていたが、途中から町中にある公園に軌道を変えた。


そして、公園に着くと、ある人物が木のベンチに座って、菜名を待っていた。


茶髪のロン毛を軽く束ね、両耳には金のピアスが三つずつ、細い眉の鋭い目付きの男だった。


素行不良で評判の、同級生、青柳 行人あおやぎ ゆきとで、親友も知らない菜名の彼氏だ。


菜名は行人の隣に座り、公園の様子をさりげなく観察した。


ベンチから遠く離れた砂場で、小さな子どもが二人、山を作っている。

その傍で母親らしき女性が二人、お喋りに夢中だ。

他には誰もいない。


菜名はフッと笑って、

「あんなに上手くいくなんて……」と微笑を浮かべた。

行人も

「だな。あの女一生頑張ってもマジシャンになんかなれねぇよ。俺のかけたマジックに気付かないんだからな」と小声でせせら笑った。

菜名も笑いながら、

「あんたのの方が凄いじゃん。さすがスリの名手」

とこっそり行人に耳打ちした。


行人は自分の制服のポケットからナイフを取り出した。そして先端を触って引っ込める。


「簡単すぎたよ。あの女のポケットからナイフを入れ替えることくらい。だーれも気付きやしねぇ!」


菜名は少し声が大きくなった行人の唇に人差し指を当てた。


「でも死ななかったのは残念。あのセクハラ教師、既婚で子どももいるくせに高校入ってからずーっと、言い寄ってきてマジでウザかった」


「その話聞いたときは、俺がぶっ殺してやろうかと思ったぜ」


拳を膝にドンとぶつけた行人を制するように菜名は行人の手を触った。


「遥には少し罪悪感はあるけどね。でも小学校の頃からマジックを毎日見さされたり、助手をさせられたり、ウンザリだった……。やんわり嫌だって言っても、親友でしょ?お願い!って」


菜名は行人にもたれかかり、自分の髪の毛を指で巻きながら、話し続けた。


「昔から悪のりが過ぎて、周りの子達から少し引かれてるのも全然気付いてなかったし

……。大野も、『遥がやっぱりマジックはやめます』って言ってるって伝えたら、

『さすがに悪のりが過ぎるよな』って笑って、ドッキリの看板と血糊を押し付けてきたし」


行人が「俺が一番のマジシャンだよな」と意地悪く笑った。


菜名はぼんやりと自分達に覆い被さる木を見やった。


(大野は生きているし、いつか遥にも皆にも全てがバレるんだろうな……。その前に私はこの街から出ていこう。ずっと前からそのつもりだったし)


隣に座っている茶髪の男がニヤついた顔で菜名を見つめている。


菜名は、男に笑顔を向けながら、制服のポケットに手を入れた。

ポケットにはいつもと同じ、折り畳みナイフが入っている。




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ポケットに忍ばせた狂気 青野ひかり @ohagichan

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