第2話 どうして?

高校生になっても、皆の前で休み時間にマジックを見てもらって、感想を聞いて、腕を磨いていた。


同級生も楽しんでみてくれていたと思う。普段話さない男子や女子からも、

「おもしれーじゃん!また新作あったら見せろよ」とか「凄いね~!手先器用だね!」などと言われていた。


そして、私のマジックを一番誉めてくれたのは、担任教師、大野貴先生だった。


大野先生は三十代前半の体育教師で、アメフト部の顧問だ。黒い短髪で、鍛え上げられた肉体に、目鼻立ちの整ったイケメンだ。既婚者で子煩悩で明るい性格で、生徒からも好かれていた。


私も自分のマジックを楽しんで誉めてくれる先生が大好きだった。

だから私の卒業を待たずして、先生が他の学校への転任が決まったときは寂しくてしょうがなかった。


私は大野先生が学校を去るのがショックで落ち込んでいた。そんな私に菜名は、

「今度の先生の送別会で、マジックをしたらどうかな?大野先生、きっと喜んでくれるよ!」

と提案してくれた。


「マジックか……。先生、喜んでくれるかな……?」

そう呟いた私に、菜名は、


「先生、遥のマジック好きじゃん!どうせなら今までやったことない大掛かりなマジックしちゃうとか?」

明るくノリノリで話を聞いてもらっているうちに、私は俄然やる気になり、どんなマジックがいいかと菜名と相談しあった。


そして、クラス全員を驚かせるマジックを思い付き、大野先生の承諾も取り付けた。

悪のりがすぎるとも思ったが、大野先生もマジックに参加したいと言ったのだ。


そして、あの日、送別会の日がやってきた。


あの日のマジックのネタは、大野先生が皆に最後の挨拶を終えると、私が席から立ち上がり、ポケットからマジック用のニセモノのナイフを出して、先生を刺す。

先生にはすぐ破れる袋に血糊をセットしてもらい、床に倒れながら袋を破ってもらう。


そして皆が騒然となったとき、教壇の下から『ドッキリ大成功!』の札をピンピンしている大野先生に挙げてもらう。

という手順だった。


マジックというよりドッキリだが、皆をビックリさせて安心させて笑わせたかっただけなのに……。


私のニセモノのはずのナイフはいつの間にか本物にすりかわっていて、それに気付かぬまま、大野先生を刺してしまったのだ。


いつまで待っても起き上がらない先生……。

本当の血の臭い……。

そしておそるおそる教壇の下を見ると、『ドッキリ大成功!』の札はなかった。


その瞬間、私の頭は真っ白になった。


気が付けば、私が解けないマジックにかかっていた。





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