第6話

 エリーナと別れてから、直ぐに街を出た。

 少しだけいい夢を見れたと思って、今日のことは忘れよう、とそう思いながらだ。


 一年後、エリーナを見かける機会はあるだろうが、見つかるなんてヘマをするつもりは無いし、もう会うことは無い。

 そのはず、だったのに、なんでこんな森の中で、エリーナの気配がこっちに近づいてきている?

 ……エリーナじゃない誰か違う人の気配、なんてことはありえない。

 ついさっきまで一緒にいて、一番最初、出会った時、俺は確かにエリーナの気配を確認しているんだ。

 あの時エリーナの気配は完璧に覚えたし、間違っているはずがない。

 だからこそ、余計に困惑してしまう。


 何故、俺の居場所がバレている?

 いや、まだ俺の居場所がバレていると確定した訳では無いが、こんなに真っ直ぐにこっちに向かってきているんだ。

 これで、たまたま、なんてことは無いだろう。

 ……まぁ、別にいいか。

 どんな方法で俺の居場所が分かったのかは知らないが、こっちは里で最強だったあの長に世界最強だと言わせた存在だぞ? こう言っちゃなんだが、一ヒロイン……しかもサブヒロインに追えるわけが無い。


隠行術おんぎょうじゅつ


 姿を消し、気配を消した。

 これでエリーナが俺を追って来れることは無い。

 ……少しだけ、名残惜しい気持ちが表にでてきたような気がしたけど、直ぐに気のせいだと首を振った。

 俺はエリーナの攻略途中に死んでるんだ。

 好きなゲームのキャラだからこそ、好きではあるけど、特別エリーナに思い入れがあるわけじゃない。

 だから、勘違いに決まってる。


 


 そんなことを色々と思いつつも、俺は適当に歩いていたのだが、何故かまだエリーナの気配は俺の後を着いてきていた。

 スピード的には俺の方が早いし、逃げ切るのも時間の問題だと思う。

 ただ、ここまでどうやって着いてきたんだ? その方法によっては、どれだけ距離を離そうと、逃げられないぞ。

 気配も消していれば、姿も消している。

 これで、バレるはずがないんだ。

 ……まさかとは思うが、ここでシークレット情報が関係してくるのか?


 各キャラを攻略すると、シークレット情報が解放されて、そのキャラを一枚絵と一緒により深く知ることが出来るのだが、エリーナのシークレット情報や一枚絵だけ、俺は知らない。攻略できてないんだから、当然だ。

 ネットでだってネタバレを食らわないように細心の注意を払っていたし、本当に知らない。

 

 俺が攻略途中に死んでしまったことを久々に悔やんでいると、突然、エリーナの進行方向が変わった。

 諦めた、或いは俺の居場所を見失ったのか? とも思ったけど、すぐに違うことに気がついた。

 エリーナは、魔物の気配がする方向に向かって行っている。

 最初出会った時のように、魔物に襲われて俺を誘き寄せようとしてるのかもしれないが、そうはいかない。

 俺は助けになんて行かないぞ。

 エリーナがあの時焦ってなかったのを知ってるんだ。

 焦ってなかったってことは、あの場をどうにかする力があったって事だからな。


 ……でも、もしも、仮にそれが勘違いだとしたら?

 ありえないことだってのは分かってる。

 いくら最強と認められようと、俺だって人間だ。失敗や勘違いくらいする。

 ……あの時、本当はエリーナは内心怖がっていて、それを上手く隠していただけなんじゃないのか? なんて、馬鹿げた考えが浮かんでくるのを止められなかった。

 

 攻略出来なかったキャラとはいえ、好きなゲームのキャラだったんだ。

 もしもこれで死んでしまう、なんてことになったら、俺は悔やんでも悔やみきれない。

 そう思ってしまった俺は、気がついた頃にはエリーナのいる方向に向かって走り出していた。


 そして、エリーナが魔物に接敵する前にエリーナの前に俺は姿を現した。

 

「やっぱり、来てくれました」


 今度はフードをしておらず、綺麗な黒髪をなびかせながら、黒い綺麗な瞳で俺のことを見つめながら、嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら、そう言ってきた。

 

「……待っててくれるって言ったのに、なんで、置いていったんですか」


 かと思うと、さっきまでの嬉しそうな雰囲気が嘘だったかのように、今度は怒ったような雰囲気を醸し出して、拗ねたようにそう言ってきた。

 

「……そんな嘘をつくような男だぞ? 今からでも、帰った方がいいんじゃないか? 帰るのなら、送って行ってやるからさ」


「帰りません。着いていきます」


 ……意味がわからん。

 

「もう好きにしてくれ」


 そう思いながらも、今ここで逃げたところでまた危ないことをしようとするんだろうと思った俺は、諦めに近いため息を吐きながら、そう言った。

 そもそも、どうやってかは分からないが、気配を消しているはずの俺の位置を普通に補足して、また追いかけて来るだろうし。


「はい!」


 ……可愛いから、こんなにしつこくされても、嫌いにもなれないんだよな。

 

「はぁ。取り敢えず、街の場所を教えてくれ」


「……私無しでどこに行く気だったんですか?」


 別に俺、街に辿り着けなくたって、生きられるし。里で色々と叩き込まれたし。

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大好きだったゲームのモブに転生した俺〜主人公やヒロインを裏から応援しようとしていただけなのに何故か表舞台に引きずり出される〜 シャルねる @neru3656

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