第3話
「はい、トウカ様、これからよろしくお願いします!」
「……さっきも言ったけど、街までな?」
「……分かっていますよ?」
なんだろう……フードを深く被っていて、俺の方が背が高いからこそ、口元すら見えないんだけど、何となく、笑っている気がする。
……いや、気のせいか。
サブヒロイン……エリィにそんな腹黒キャラみたいな設定はなかったからな。
「それで、街はどっちにあるんだ?」
俺が内心でサブヒロインと関わることになってしまった不幸……いや、幸運に内心で溜息をつきながらもそう聞くと、エリィから小さく「えっ?」という言葉が聞こえてきた。
……自慢では無いんだけど、俺はこの世界のことは知っているが、残念なことに里の外に出たことは無いんだよ。
何となく理解はしているけど、それでも間違っている可能性がある以上、聞いた方がいいと思ったんだよ。
「えっと、街の場所、分からないんですか?」
「いや、分からないことは無いんだが、ちょっと確信がなくてな」
「……そうなんですか。でしたら、私が案内するので、ちゃんと私のことを守ってくださいね?」
初対面なんだけど、少しは信用してくれているのか、おどけた様子でエリィはそう言ってきた。
「分かっていますよ、お姫様」
だからこそ、俺も少し冗談っぽく、そう返した。
「えへへ」
すると、心做しかエリィは嬉しそうな雰囲気を醸し出してくれた。
……俺の行動で好きなゲームのキャラが嬉しそうにしてくれるのは嬉しいっていう気持ちが湧いてくると同時に、主要キャラにあんまり深く関わる気がないんだから、別れる時に惜しまれたりしないか? なんて自意識過剰な考えが湧いてきてしまうな。
「では、行きましょうか、私の騎士様」
騎士様って……いや、そういう冗談に乗ったのは俺なんだけど、忍が騎士様かぁ……。
裏と表、騎士とは正反対の存在だと思うけど、まぁ、顔は見えないけど雰囲気的にエリィが楽しそうだし、別にいいか。
そう思って、エリィの後を追って歩いていたんだが、俺は思った。
これ、エリィに歩かせるより、俺がエリィを運んだ方が魔物や盗賊だったりにも出会わないし、エリィと過ごす時間が短くなる。
「ちょっと失礼するぞ」
「ひゃっ」
だからこそ、顔が見えないようにもう少しフードを深く被らせながら、俺はエリィを抱えた。
普通におんぶとかが良かったんだけど、いわゆるお姫様抱っこってやつでだ。
……当然、めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも、こうやってエリィを抱えた方が俺はエリィと深く関わらなくて済むんだ。
だから、それは我慢するしかない。
幸い……と言うべきなのか、エリィも抵抗する様子は無いし、さっさと街に行こう。
そうして、魔物を避けながら走ること数時間。
エリィの言っていた通り、街が見えてきた。
「よし、もう見えてきたし、ここまででいいか?」
「……ダメです。私の騎士様なんですから、ちゃんと送り届けてください」
まだ言ってるのかよ、それ。
俺、剣すらまともに持ったことないんだからな?
「はぁ。分かった」
これが好きになってしまった弱みと言うやつか、と思いながらも、俺は頷いた。
「エリーナ、下ろすぞ」
そしてそのまま、そう言うと、顔は見えないんだけど、何故か雰囲気的にエリィが拗ねているような気がした。
それを不思議に思いながらも、俺は言った通りエリィを下ろした。
「エリィって呼んでくださいって言いましたよね? 忘れたんですか?」
すると、そんなことを言ってきた。
……それ、マジだったのか。
いや、心の中ではそうやって呼んでるんだぞ? ただ、本当に口に出してそんな呼び方をするのは、主要キャラと深く関わりたくない俺からしたら嫌なんだよ。
いくら好きなキャラの頼みとはいえ、そこは譲れない。
……いや、もっと譲るなよってことがあったかもだけど、とにかく、そこは譲れない。
「気が向いたらな」
「むぅぅ」
なんだその効果音。可愛すぎるだろ。
「身分を証明できるものは?」
そんなことを思いながらも、俺は拗ねた様子のエリィを無視して、街の門の所までやってきた。
すると、門兵らしき人間がそんなことを聞いてきた。
……俺はついこの間まで山の中の里に住んでいたんだぞ? そんなもの、あるわけが無い。
「これで大丈夫ですか?」
逃げるという選択肢が頭の中に浮かんだ瞬間、横からエリィが何かを門兵に手渡していた。
「こ、これは……し、失礼しました! お連れの方も連れて、どうぞお入りください」
「ありがとうございます」
「いや、俺は──」
「行きましょうか、トウカ様」
もう街まで届けたんだから、ここまででちゃんと届けたことになるだろうと思った俺は、もう行こうとしたんだけど、エリィに腕を掴まれて、無理やり街の中に入れられてしまった。
……抵抗出来たか出来なかったかと聞かれると、出来た。
でも、門兵も見てるし、何より、好きなゲームのキャラに怪我を負わせる訳にはいかないから、抵抗なんてできなかったんだよ。
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