第2話
なんで、こんなところにサブヒロインが居る?
そんな内心の驚きのせいで、その子のことを凝視していたからか、恥ずかしそうにサブヒロインはフードを被り直してしまった。
可愛い顔が隠れてしまったのはちょっと残念……じゃなくて! なんでこんなところにサブヒロインがいるんだって話だよ。
「は、話を聞いてくれる気になったんですか?」
そんな俺の疑問なんて知る由もないだろうサブヒロインはそんなことを言って首を傾げてきた。
さっきまではただのモブだと思ってたから普通に接することが出来ていたけど、サブヒロインだと分かってしまった今は緊張感が半端ないぞ。
「……少しくらいなら」
そう思いながらも、何故サブヒロインがこんなところにいるのかが気になった俺は、そう言って頷いた。
「は、はい! ありがとうございます!」
……やめて。そんな明るい声でお礼を言ってこないで。
俺、あなたがサブヒロインなんかじゃなく、モブだったら絶対放置してここを離れてたからさ。
「……話を聞く前に、こっちから聞いておきたいんだが、なんで君はこんなところにいる?」
当然名前は知ってるんだけど、流石に名前を言うわけにはいかないから、俺は名前を呼ばずに、そう聞いた。
「……そ、それは……ちょっと、お姉ちゃんと喧嘩しちゃって」
「は?」
姉……ヒロインと喧嘩? ありえないだろ。
俺が知ってる原作なら、二人ともめちゃくちゃ仲がいい姉妹だったんだぞ?
「え?」
「あ、いや、なんでもない。……ちなみになんだが、なんで、喧嘩なんてしてしまったんだ? ……他意は無いぞ?」
……正直、俺は影から主人公たちを応援するモブに務めたいのだが、好奇心に負けてしまい、気がついた頃にはそんなことを聞いていた。
「……お姉ちゃんは、その、凄く有名な人なんです」
知ってる。聖女なんだから、当然だろう。
「そうなのか?」
ただ、そんなことを俺が知っていたらおかしいから、内心でそう思うだけで、言葉ではそう聞いた。
すると、サブヒロインの子はこくりと頷き、話を続けてくれた。
「はい。……尊敬、してた姉ちゃんなんです」
「してた?」
「……普段は、いつも通り優しいお姉ちゃんなんです。……でも、私とお姉ちゃんが二人っきりになると、隙を見て、いつもお姉ちゃんは自分の恋人を私に勧めてくるんです。……自分の恋人、ですよ? そんなの、おかしいじゃないですか」
……いや、それはどうなんだろうか。
確かに、前世の記憶がある俺からしたら明らかにおかしいことだと思えるけど、この世界の基準で言ったら別に普通なんじゃないのか?
原作でもヒロインの妹のサブヒロインを攻略するルートに入るにはヒロインの聖女からの紹介が必須だったし、おかしいことでは無いんだと思うぞ。
「正直、俺は誰かとそういう関係になるなら、その人とだけ関係を持ちたいタイプだし、気持ちが分からないとは言わないけど、一夫多妻が普通の国なんだし、割と普通のことだと思うぞ」
「…………」
「あー、だから、なんだ? あんまり、お姉さんのことを嫌いになる必要は無いと思うぞ? その人と結婚しても君と一緒に居たいからこその言葉だと思うしな?」
……話を聞いてくれと言われた立場ではあるけど、結局俺が他人であることには変わらないんだから、他人の俺にこんなことをいきなり言われてもって感じか。
「本当に……いえ、はい、ありがとうございます!」
そう思っていると、俺のそんな内心の思いを察したのか、元気にそう言って礼を言ってきた。
「あの、今更なんですけど、私、エリーナって言います。エリィって呼んでください」
理由も聞けたし、流石にこの森で放置するのは危険だから、適当な街まで送って行ってそこで別れようと思っていたのだが、突然、俺はそんな自己紹介をされてしまった。
……知ってる。知ってる名前ではあるけど、俺はこの世界のモブに務めるつもりだから、サブヒロインとはいえ、主要キャラと深く関わるつもりなんて無い。
だからこそ、名前なんて聞かずに、俺も名前を伝えずそのまま別れようと思っていたのに、自己紹介をされてしまったら、俺が名前を伝えないわけにはいかないじゃないか。
……この世界のモブとして主人公たちを応援して生きるという俺の目的を考えるのなら、名前なんて伝えない方がいいんだろうけど、少しの間とはいえ、好きなゲームのキャラの一人に「この人は自己紹介も出来ないのか?」なんて目で見られるのは嫌なんだよ!
モブとして見られるのは望むところなんだけど、嫌な奴として見られるのだけは耐えられないんだよ!
「……俺は、トウカだよ。……街まで送って行く。その間だけだけど、まぁ、よろしく」
内心でそんな考えをした俺は、気がつくと、サブヒロインに……エリィに、自己紹介をしてしまっていた。
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