大好きだったゲームのモブに転生した俺〜主人公やヒロインを裏から応援しようとしていただけなのに何故か表舞台に引きずり出される〜
シャルねる
第1話
俺が前世で大好きだったゲーム、シルメイの世界に転生したと気がついたのはちょうど10歳の誕生日の日だった。
なんで気がついたのか。
それは簡単だ。
俺が住んでいる里は前世で言うところの忍びの里だ。
だからこそ、情報が伝わってくる速さはピカイチだ。里のみんな、外の情報には敏感だからな。
勇者と聖女が誕生した。
ある日、そんな情報がうちの里に入ってきた。
それだけで俺が大好きだったゲームの世界と決めつけるには早い。
だったら、なんでなのか。
名前だ。勇者と聖女の名前、そして出身だ。
これら全てが重なることなんて有り得るか? ……俺の答えはありえないだ。
だからこそ、その日、俺はプライドなんて全て捨て去り、里の長に全力で頭を下げた。
俺を、最強にして欲しいと。
全ては、主人公とヒロインの物語をバレないようにその目で見るために。
そんな日から、4年の月日が経ち、俺は14歳になっていた。
「トウカ、お前はもうこの里……いや、この世界最強だ。教えられることはもうない」
少し前までこの里最強であった長に俺はそう言われた。
世界最強は正直盛られていると思うが、それでも、嬉しいことには変わりない。
「これから、どうするのだ?」
長はもう俺が何をしたいのかを分かっているのか、全てを察したような顔でそう聞いてきた。
「里を出ようと思います」
「そうか。儂にお前を縛ることは出来ぬ。好きにしなさい」
「はい。……ここまで育てて頂き、本当にありがとうございました」
最後に頭を下げ、俺はその場を後にした。
原作が始まるまで残り一年。
遂に、ここまで来たんだ。
まだ一年あるっていうのに、やっぱり感傷深いな。
俺が内心でそう思うと同時に、森の奥から人の気配を感じてしまい、俺は咄嗟に気配を消した。
……もはや人の気配を感じたら気配を消すのが癖になってるな。
まぁ、あの気配の持ち主がどんな人間か分からないんだし、間違ってはいないんだろうけど。
面倒事になる可能性がある以上、俺は直ぐにその気配から離れようとしたんだが、その気配の周りに魔物の気配があることにも気がついてしまった。
囲まれているな。
……クソッ。もしもあの気配の持ち主にあの状況を打破する力がなかった場合、俺は絶対に後悔する。
助けるしかない、か。
……まぁ、このくらいは大丈夫だ。
あの気配の持ち主が何か物語に関わってくる重要人物ならともかく、そんなことはありえないし、モブの俺がどれだけモブに関わろうが、物語は変わらないんだ。
そう思い、俺は気配の主の元まで移動した。
「──ッ」
気配の主……黒い服にフードを深く被っており、顔が見えないが、女性だということは理解出来た。
分かりやすく胸のラインがあったから……なんて理由では無い。
ただ単純に、呼吸の音を聞いたからだ。
これも長に叩き込まれたことだが、人間は性別の違いで多少ではあるが、呼吸の仕方が違ってくるのだ。
そして、この女性は気配も無しにいきなり現れた俺に驚いているらしい。
……自分を囲んできている魔物ではなく、俺に驚くのか。……これは、助けは必要なかった感じか? ……まぁ、いい。出てきてしまったものは仕方がない。
魔物を片付け、直ぐに立ち去ろう。
「忍法、
名前の通り、俺の体から毒を出す術だ。
俺のオリジナル忍術、長に俺を最強だと言わしめた理由だ。
どんな毒でも俺の想像次第で変化する忍術だ。
今は単純だが、人間には効かず、魔物にだけ効く毒を生み出している。
そうしなければ、俺の近くにいるこの女性にも害を及ばしてしまうからな。
直ぐに効果は現れた。
魔物は動けなくなり、その場にバタリと倒れた。
「ま、待ってください」
さて、面倒事になる前に俺は消えるか。と思ったところで、女性は俺を逃がさないとばかりに、あろうことか俺に抱きついてきた。
「身代わりの術」
「えっ? あっ、な、なんで……」
「隠行じゅ──」
その辺にあった適当な岩と俺を入れ替え、今度こそ俺はその場を去ることにしたのだが、急な風により女性のフードが捲れ、長い黒い髪と黒い瞳が露出すると同時に、顔までもが見えてしまった。
何故、こんなところにヒロインの妹……サブヒロインがいる?
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