5章 腐れ縁……(荒哉の過去編)
第1話 対峙し合う二人とそれを眺める一人
逃げよ
荒哉がそう言った直後のことだった。
宗次は素早く左手を動かしてとっさに首を守った。左腕からは小さな青い炎が燃えており、それは宗次の首を切ろうとしていた刃物の刃を溶かした。
宗次が咲守だと思っていた死体が突然動き、襲い掛かって来た。その事実に宗次はただならぬ危険を感じ、荒哉の言う通りに逃げようと背を向けた。
建物から外に出たが、地面に大きな揺れを感じてその場に転んだ。
宗次が体を翻した時、首に錫杖が突き付けられる。
錫杖は宗次が少しでも動けば刺さるギリギリの位置にある。
目の前にいるのは咲守だった。だが、たった一人を愛しその人のために尽くす、宗次が知っている咲守とは全く違う。
そうだとすれば、これは……誰だ?
宗次が動けずに咲守を見つめていると、咲守が言う。
「この罰当たりが……鬼神」
「鬼?」
どうして咲守は宗次と荒哉が同化していることを知っているのだろうか。
その時、頭の中で荒哉の声が響く。
……宗次、一度御前の体の全部を儂に委ねてくれないか?
宗次は口に出さずに反対する。
(まさか、乗っ取る気じゃ)
先程のやり取りのあとのことだ。荒哉ならやりかねない。
……乗っ取らん。儂は、この男と話がしたい
(こいつのこと、知っているのか?)
代われ
いつもヘラヘラしている荒哉のいつにない真剣な口調に宗次はただならぬ何かを感じ、おとなしく荒哉に体を貸した。
宗次が意識もろとも体から離れ、外から自分の肉体と咲守を眺める形となった。
錫杖を突き付けられている宗次の全身を借りた荒哉は言う。
「久しいのう……行曹」
咲守――行曹がニヤリと笑った。
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