第5話 荒寺の仏像、覚醒者(過去編)
父親から罵声で咲守の心はズタボロだった。
咲守は夜こっそり避難所を出て、死を求めてさまよった。
どれくらいさまよったのだろうか。厄災で全てが消えた世界に一人歩き続けているうちに咲守はその場で力尽きた。
気づけば咲守は小屋の中にいた。倒れている咲守を女性が覗き込んでいた。
「大丈夫? あなた、近くで倒れていたのよ」
白い肌の美しい女性だった。
彼女は
さまよい続けたことで体が限界だったため、小屋で休むことにした。本当はすぐにでも死に場所を求めて歩きたかったが、歩けなかったのだ。
紅潤は寝たきりになっていた咲守に仏像の良さを説いた。咲守は初め、仏像に激しい憎しみを覚えており、彼女の話など聞きたくなかった。彼女が仏像の話をした途端、激しい拒絶反応から傍に会った水瓶を投げつけたほどだ。
しかし、彼女は根気強く仏像のことを話し続けた。聞いているうちに、なぜか仏像に抱いていた憎しみがだんだん消えていった。そしてこう思うようになった。
母親も妹も、仏像が極楽浄土に連れて行ったのだと
紅潤との日々は幸せだった。今思えば、咲守は紅潤に恋をしていた。だから、元気に動けるようになっても、咲守は紅潤の傍に居続けた。この時、極楽浄土は幸せそのものの世界だと、そこで母親も妹も幸せに生きていると、咲守は信じて疑わなかった。
それから数か月後のことだった。
滋賀県で厄災が起きた時と同じように、この時もたまたま咲守は外に出ていたのだ。どうして外に出ていたのか、今となっては思い出せない。
だが、紅潤がいる小屋に帰ると、たくさんの人だかりが小屋の前にできていた。咲守が群衆をかき分けて前列に立つと、そこにはさらし首になった紅潤がいた。
咲守は何が起きたか、全く理解できなかった。そんな紅潤の頭に人々が石を投げつけた。
「仏像を作るなんて!」「この、殺人鬼!」
その様子を見て咲守は叫んだ。
咲守はさらし首になった紅潤の頭を抱えてさまよっていた。
まただ。
母親や妹が死んだ時も、紅潤が死んだ時も、咲守は傍に居られなかった。
「ごめんよ、ごめんよ」
さまよい続け、気づけば咲守は今にも崩れそうな寺に着いていた。
咲守は導かれるようにして寺の中に入った。3つの扉が並んでおり、扉は全て開いていたが、右の扉にだけ仏像があった。咲守は右の仏像に導かれ、その場にしゃがんで手を合わせる。多分、右の仏像――大日如来像は彼女が良く作っていた仏像に似ていた。
「どうか……彼女を極楽浄土へ連れて行ってください……彼女は、何も悪くないんです……彼女は、仏像で救おうとしただけなんです、だからどうか……」
どうか……
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