第4話 荒寺の仏像、覚醒者(過去編)

 大日如来像が宙に飛ぶ直前に宗次は走り出してその額に触れることができた。ギリギリだったが、また仏像の世界、〈真相世界しんそうせかい〉に入った。

 

(あれ?)


 前の〈真相世界〉は広大で、魂まで大分走らないと近づけなかった。

 だが、今回の〈真相世界〉は狭い。10帖ほどか、宗次の自室くらいだ。

 仏像に宿る魂が中心でぼんやりと光っている。そしてその隣には胡坐をかいて俯く男性がいる。宗次は男性に少し違和感を覚えたが、時間がないと割り切って魂を焼こうと左腕を地面に置いた。

 後は荒哉の青い炎が魂を焼き尽くすだけだった。だが、左手を地面につけた時、自分の意志に反して左腕が弾かれるように飛びのく。

 その直後、宗次が左腕を置いていた地面から大きな雷が上に貫いた。

 大きな雷が止むと、地面に大きな穴が開いていた。大きな雷にあたっていれば宗次の左腕は粉々になっていたかもしれない。


「荒哉……ありがとう」


 多分、左腕を地面に置いた時、荒哉がすぐに危険を察知して避けてくれたのだろう。

 

「礼には及ばん。それにしてもここは面白い」

「何が?」

「大抵、覚醒者は。だが、是は特殊だ。


 その時、魂を中心に同心円状に雷が上に貫く。宗次はとっさに端まで飛びのいた。


「よっぽど強い想い、信仰なのだろうな。、気になるのう……」


 雷が消えた時、魂を中心にぽっかりと穴が開いていた。

 そして、魂の傍に立っていた男性が魂に縋りつく。


 


 宗次はその声が男性から発せられているものだと理解するのに時間を要した。


 極楽に連れて行ってあげてください。どうか、。このままではかわいそうです! 極楽に、極楽浄土に連れて行ってあげてください! どうか……


   *


 現在から1年前、2024年某日。

 あるところに咲守さきもりという男性がいた。

 世界中で仏像による厄災が相次いだ。その厄災の波は滋賀県のこの地にまで訪れた。滋賀県で厄災が起きた時、咲守はその時たまたま山でキノコ採りをしており、すぐに洞窟に避難したため、難を逃れた。

 しかし、家にいた咲守の母親と妹は厄災で家屋ごと焼かれてなくなった。

 京都の避難所で咲守は京都で仕事をしていた父親に会った。

 父親に全てを話すと、父親は咲守を責め立てた。


「お前がいながら何で二人を守れなかったんだ! お前が、代わりに死ねば良かったんだ!」


 厄災で母親と妹を失ったことで咲守の心はズタズタだった。それに追い打ちをかけるように発せられた父親の言葉は、咲守の心を抉るには十分だった……。




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