第2話 はじまり

 その後、宗次は目隠しされ、手首を後ろに回されて何かで両手首を縛られた。

 特に左腕に関しては、ぺたんと湿布みたいなものが貼りつけられた。


「呪符か。そんなもの貼らなくても儂は何もしない」

「邪鬼の言うことなど、信用に値しません」

「邪鬼邪鬼うるさいのう」

 

 その直後、宗次は担がれた。少し経った後、宗次はどこかへ降ろされる。そしてしばらく揺られていると、次にまた担がれてそして床に降ろされる。

 目隠しを取られ、拘束をとられる。

 部屋が暗くてまだ目隠しされているのか、と錯覚した。だが、徐々に蝋燭のぼんやりした光と丸いテーブルにいる6人の僧侶が見えてきた。

 僧侶全員、緋色の袈裟を着ており、独特な空気を発している。宗次はこの重苦しい空気に押し潰されそうだった。

 宗次から見て、丸テーブルの正面から左にいる僧侶が言う。その僧侶は宗次に同行を求めた人だった。

 彼は穏やかな笑みを浮かべて言う。


「手荒な真似をして申し訳ございません」

「……話したいことって?」

「あの覚醒者を殺したあなただからこそ、話せる内容です」

「だから、一体!」

「行曹についてです」 


 彼は淡々と語り始めた。




 1000年以上前、すなわち平安時代。

 京都の地に行曹という僧侶がいた。行曹は悟りを開こうとし、また京都の都から外れた場所で人々に浄土信仰を広めていた。全ては疫病、悪業が流行る世界で生きる人々を救い、この苦しい世界から人々を解放したいという思いからだった。

 そして行曹は、いつしか人類皆を極楽浄土に送りたいと強く思うようになった。

 そのために行曹は仏像を作った。また、寄木造よせぎづくりという、複数の用材を組み合わせて作る平安時代の仏像づくりに流行った技法は行曹に味方した。寄木造は仏像の大量生産を可能にし、行曹が大量に仏像を作ることを可能にしたのだ。

 行曹は全ての仏像に魂を吹き込んだ。

 魂とは器のようなものだ。

 器、すなわち魂にたくさんの信仰が集まり、魂が一杯一杯になった時、仏像の魂は信仰と結びつき、暴走する。

 そして、覚醒者となる。

 極楽を求める信仰をたくさん受けた覚醒者は極楽浄土があると信じて疑わない。だから、その地にいる人類を極楽浄土に送るために圧倒的な力を振るう。

 行曹は京都の、都から離れたその地で覚醒者による殺生を行った。その地域に暮らしていた人々は全員死んだ。行曹はこのまま覚醒者を引き連れて京都、都を侵攻しようとした。だが、それは叶わなかった。

 行曹が日本中の僧に封印されたからだ。そして封印された行曹の霊魂は都からかなり離れた僻地――武蔵国、今でいう渋谷に埋められた。

 誰もが二度と蘇らないと思った。しかし、時の流れとともに行曹の封印はだんだん弱まった。そして行曹が蘇ったあの日こそ、東京で覚醒者による厄災が訪れた。

 2024年Xデー。

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