第4話 攻防 

    *


 一方、荒哉は腕を組んで一部始終を傍観していた。

 囲まれていた多くの腕から脱した宗次は荒哉の前に転がり込む。荒哉は冷ややかな目で宗次を見下ろした。

 宗次は咳き込みながら立ち上がるが、よろけてその場に座り込んだ。


「なんで……」

 

 力を貸してくれなかったのか、と宗次は言いたいのだろう。


「一緒に、覚醒者を滅ぼそうって言ったじゃないか!」

「こうも言ったはずだ。儂は人間が嫌いだと」

「……え?」

 

 荒哉は宗次の前にしゃがみニタッと笑みを浮かべる。宗次は目を見開いた。

 気づいたみたいだ。


「お前……裏切ったのか?」


 もはや、荒哉は笑いをこらえることができなかった。


「御前と同化して肉体を手に入れられた以上、もう用はない。御前の魂がここで死ねば肉体だけが残り、それを儂は手に入れ、また生きる」

「嘘つきめ」

「いくらでも言うが良い」

 

 宗次は俯いて歯ぎしりする。

 その宗次の様子に荒哉が大笑いした。


「ま、安心しろ。あれは必ず滅ぼす」


 その時、宗次が荒哉の右足首を左手で掴んだ。


「離さぬか、時間がないぞ」

「荒哉……荒哉は肉体が欲しいのか?」

「ああ」

「だけどこれは僕の肉体ものだ」


 宗次は息を切らしながら左腕を掲げて叫ぶ。

 

「荒哉! この腕なら、この腕ならくれてやる! 戦え!」


 荒哉は宗次のその言葉に一瞬だけ圧倒されていた。

 宗次から、ただならぬ覚悟と激情だけがにじみ出ている。それは初めて出会った時より更に増していた。


(左腕を、くれるというのか……)


 荒哉は取引で宗次の警戒心を解くために肉体を貸せ、と言った。だからこの時点では肉体の全ての所有権は宗次にある。

 だが今、宗次は左腕をくれると言った。それは、ということだ。


(それに、宗次御前を気に入っているのも誠……)


 覚醒者を滅ぼしたいという利害は一致している。

 不思議と迷いはなかった。荒哉は小さな笑う。


「良いだろう。御前の提案に乗る。その腕をもらおう。儂は御前の腕に宿る」


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