1章 荒哉(こうや)

第1話 2025年某日

 2025年某日。

 奇妙な少年がタクシーに乗っている。

 乗って来たのは中学生くらいの少年だろうか。背が小さく、顔に幼さが見られる。

 そうだとすれば、こんな平日の昼間に一体何をしに来たのだろうか。また、行き先に京都の羅生門の跡地を指定したのはなぜだろうか。

 運転手の頭の中に疑問が溢れたが、少年から醸し出されるどこか暗く儚い雰囲気がその質問をすることを阻んだ。 

 タクシーの運転手をしてきて約数十年、こんな客を乗せたのは初めてだ。

 目的地にだんだん近づく。羅生門の跡地――今では児童公園になっている――にもうすぐ着くという時に少年は言った。


「ここでいい」


 運転手はその言葉通り、その場でタクシーを止めた。

 少年は膝に置いていたリュックから財布を取り出し、料金を支払う。


「ありがとうございます。それと今すぐここから逃げて。厄災が来るみたい」


 少年のその言葉を聞いて運転手は顔から血の気がひいた。

 あいつとはおそらく世界中を混沌に陥れる、宙に浮く仏像のことである。

 東京での出来事以後、誰もが仏像のことを「厄災」と呼んでいた。

 宙に浮く仏像の出現情報はほとんどがデマである。だが、妙なことにこの少年の言葉には信ぴょう性があった。

 少年を降ろした後、運転手は規定速度ギリギリの速さでその場から急いで逃げた。


 

 羅生門は13世紀に失われ、それ以来、再建されることはなかったという。現在では小さな児童公園に羅生門跡地の碑がひっそりあるだけである。

 少年――宗次そうじは児童公園の中心に立つ。

 お昼ご飯の時間帯からか、児童公園には誰もいない。非常に好都合だった。なぜなら、とある情報によるとこの地に仏像が出現するかもしれないからだ。

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