第4話 告白

翌日の朝。


「はぁ…はぁ…うぅぅ…」


(やばい…風邪ひいたかも…会社に連絡しないと…)


連日の睡眠不足と昨日の配信のせいからか、加奈子は体調を崩してしまった。

会社に連絡し、何とか近くの病院に行った。

最近流行しているウィルスではなく、熱もそれほど出ていないことがせめてもの救いだった。


加奈子は布団の中で横になっても、やはり京子とコヨリのことで頭がいっぱいになってしまう。

優しく控えめでおっとりしている京子、割と挑戦的な衣装を着て汗だくになっているところも見せつけ欲情を煽ってくるコヨリ、一見真逆の性格をしている。

しかしあの加奈子好みの女性らしい体型と、なにより着ていた服が完全に一致していた。


それに今思うとコヨリのフォロワーのコメントにまめに返信しているところや配信スケジュールをきっちり守る妙な真面目さは京子に通ずるものがある。

かといってコヨリは配信切り忘れ詐欺や過去の投稿写真を引用し、どこがいいのかフォロワーにあえて聞いてしまうような小悪魔的な側面がある。


熱のせいもあり頭の中がぐるぐると無限にループしてしまう。

京子がコヨリの着ぐるみを着たり、コヨリから汗だくの京子が出てきたりと、加奈子は風邪の時特有の夢を見ては目を覚ましたりしていた。


(うぅぅ…しんどいのにうまく寝付けない…)


ピンポーン


加奈子が布団の中でうだうだしていたらインターホンのチャイムが鳴った。誰だろうか?

加奈子はゆっくりと体を起こしインターホンの画面を見る。

そこにはなんと京子が映っていった。


(京様?なんで?とにかく出ないと!)


加奈子は慌てて鍵を開け、ドアを開いた。

京子は手にドラックストアの袋をいくつか持っていた。


「京子さん!?どうして?」

「はぁ…はぁ…ごめんね急に来ちゃって」


京子は少し息を切らしていた。

よく見ると額には大粒の汗をかいている。

加奈子はとりあえず京子を家にあげた。

加奈子は気づいていなかったが、いつの間にか午後の6時になっていた。


京子がドラックストアの袋から色々取り出す。

熱さまシートやゼリー、果物の缶詰、ヨーグルト、解熱剤などなどたくさん入っていた。

どうやらお見舞いに来てくれたようだ。


「食欲はどう?今日はなにか食べられた?お熱はどれくらいある?…って、こんなに聞かれても困っちゃうよね」


いつも落ち着いている京子には珍しくすこし焦っているように見える。

加奈子は京子が自分の体調を案じてきてくれたことに感動していた。


(あぁ、なんてお優しい…汗びっちょりだし走ってきたのかな?京様の匂い…)


加奈子は相変わらずであった。


「37度ちょいくらいで、今日はまだ何も食べてないです。ちょっとお腹すいてるかもです」

「そっか…」


熱がそれほど高くないと聞き少しだけ表情が緩む京子だったが、申し訳なさそうにうつむいてしまった。


「ごめんね。この前加奈ちゃん体調悪そうだったのに私が無理にお買い物に付き合わせちゃったから…本当にごめんなさい」


京子は深々と加奈子に頭を下げた。

加奈子は慌てて京子の顔を上げさせた。


「違いますよ!京子さんのせいじゃないです!あの…え~と…昨日コタツで寝ちゃって!私の体調管理不足のせいです!」


加奈子は適当なウソをついて誤魔化した。

京子とコヨリのことが気になって寝れなかったなんて言えない。

あたふたしている加奈子を見て京子の表情が少しだけ緩んだ。


「お邪魔じゃなければお夕飯作ってもいい?消化にいいやつにするから」

「え!作ってくれるんですか?やったぁ!食べたい食べたい!食べたいです!」


加奈子は病人だということも忘れはしゃぎだした。

そんな加奈子を見て京子は笑顔になった。


「じゃあお台所借りるね。ちょっと時間かかるから加奈ちゃんはお布団で横になってて」

「は~い!」


加奈子は京子の言う通りにして布団の中に入っていった。


(京様の手料理!私のために!早く食べたい!食べたい!)


数分前まで元気のなかった加奈子だったが京子の料理が食べられると聞いただけでお腹の虫まで鳴り出した。

トントントントンと心地の言い包丁の音。

グツグツと食欲をそそられるスープの匂いがしてくる。

加奈子は布団から顔を出し、台所に立っている京子の後ろ姿を見てうっとりとしていた。


(新婚さんみたい。若奥様の京様…なんて♪ふふふ♪)


相変わらず訳の分からない妄想をしていた。


そうこうしているうちに料理が完成した。

卵のおじやと野菜のスープ。

加奈子が熱いのも気にせずガッつこうとするのを京子は慌てて止めた。


「か、加奈ちゃん!まだ熱いよ!ちゃんと冷まして食べて!ね?」

「わかりました!ふぅぅ…ふぅぅぅ…はふっ!はふっ!…美味しい!凄く美味しいです!」

「ふぅ…よかった。お口に合ったみたいで。ちゃんとよく噛んで食べるんだよ?」

「は~い」


京子に制されながらも加奈子はあっという間にご飯を食べてしまった。

加奈子は歯磨きをしようとしたら京子に歯ブラシを取られてしまい、なんと京子に歯磨きをされることになった。


「きょふこさん…じうんでできまふよ?」

「しゃべっちゃダメだよ。やらせてやらせて♪」

「うぅぅ…」


京子はなぜかニコニコし、今の状況を楽しんでいるように見える。

それとひきかえ加奈子はまるで赤ちゃんのような扱いをされ顔を赤らめて恥ずかしがっていた。


恥ずかしい歯磨きが終ると京子は手早く洗い物を片付け、スープが入った鍋を冷蔵庫に入れた。


「粗熱も取れたし冷蔵庫に入れておくね。お片付けも終わったから…お風呂どうする?ちょっとまだ大変かな?」

「う~ん。はい…」

「わかった。じゃあ体拭いてあげるね。いっぱい汗かいちゃってると思うし」

「はい…え?」


話の流れで京子が加奈子の体を拭くことになってしまった。

京子はテキパキと桶にお湯を貼り、タオルを濡らしてギュッと絞った。

まずは髪と顔を丁寧に拭いていく。

加奈子の脳内では大型犬が飼い主にタオルで拭かれるイメージが何故か浮かんできた。


頭を拭き終わると京子は加奈子のパジャマのボタンを外していった。

ボタンが外れるたびに加奈子の胸の鼓動がどんどん速くなっていく。


(どうしよう、京様に体を…ドキドキする!)


そんな加奈子とは対照的に京子は手早くブラジャーのホッグを外し、加奈子の小ぶりな胸がプルンとでてきた。

加奈子はあっという間に上半身を裸にされてしまった。


「やっぱり汗かいちゃってる。ちゃんと拭いてあげるね」

「はい!うぅぅ…」


京子は丁寧に加奈子の体を拭いていく。

腕、うなじ、背中、お腹、わきの下…そして胸まで。

汗でベタベタしていたから確かに気持ちいいのだが、加奈子はそれどころではなかった。

ゆでだこのように顔を真っ赤にしている。

一緒に旅行に行ったときにお風呂で洗いっこしたことはあったが、ここは室内で自分だけ裸という状況に加奈子は妙に興奮していた。


(おっぱい触られちゃってる!やばい…!恥ずかしい!でもきもちい…じゃなくって!うぅぅ!)


熱のせいもありかなり混乱しているようだ。

上を拭き終えると今度は下のパジャマを脱がされ、足も入念に拭かれていく。

流石に下着は脱がされなかったが。

そして加奈子は新しいパジャマと下着に着替えた。

加奈子はベタついていた体を拭いてもらいスッキリすることができたが、どっと疲れてしまったようだ。

食事をとったこともあり急な睡魔に襲われる。


「加奈ちゃん?もう寝ちゃおっか。体も疲れてるだろうし」

「はい…ねます」


京子に連れられ加奈子は布団に入った。

すると京子が加奈子の隣に添い寝し、加奈子の胸を手でトン…トン…としてくれた。

加奈子はまた子ども扱いされたような気がして顔を赤らめた。


「京子さん…恥ずかしいですよ」

「ふふふ♪大丈夫大丈夫、これやるとすぐ寝れるんだよ?」


何が大丈夫かわからないと思いながら加奈子は目を瞑る。

なんだかんだあったが何から何までやってもらい、京子の優しさにふれて加奈子は大満足だった。

横を向くとすぐ近くに穏やかに微笑んでいる京子がいる。

これ以上の至福の時はないと思っていた。


(トントンきもちいい…京様の匂い…ふふふ♪寝れそう…)


心地のいい手のリズムと最近よく寝付けていなかったこともあり、加奈子はだんだん眠りに入っていった。

そして最近の悩みの種であったコヨリの姿が目に浮かんできた。


(コヨリちゃん…かぁ…京様が?ちがうちがう…ふふふ♪)


「ちがうよ…エッチな…コヨリちゃんが…優しい…京様なわけ…ない…よね…」


加奈子は寝ぼけていたせいで心の声をわざわざ声に出してしまった。

トントンとしていた京子の手がビクッと止まる。


「え…え!?か、加奈ちゃん?…加奈ちゃん!いま…なんて…」


京子は加奈子の寝言を聞き逃さなかった。

京子の動揺した声に加奈子も浅い夢から覚め始める。


(京様…?なに?…ん…ん?)


加奈子はゆっくりと目を開け始める。

そこには目をぱっちり開けて耳まで真っ赤にした京子の顔が加奈子の目に入った。

加奈子はだんだんと頭がはっきりしてくる。

そして先ほど自分が口に出してしまったかもしれない言葉を思い出してきた。


(え…え?わたし何て言った?コヨリちゃんと京様のこと…聞かれてた!?)


京子は石のように固まったままだった。


「ご、ごめんなさい!わたしボケてます!さっきのは忘れてください!」


京子の様子から全てを察してしまった加奈子は布団を被り顔を隠した。

そんな加奈子に対し、京子は顔を隠している布団をめくり、顔を真っ赤にして唇をプルプルと震わせながらゆっくりと口を開いた。


「どうして…わかったの?」

「それはあの…えっと…」


加奈子は観念したかのように京子がコヨリだと思った理由を話した。

配信でコヨリが一緒に買い物した日に買った服を着ていたこと。

しかもその服はいつも京子が好んで着るような服ではないし、買い物の時の京子の態度に違和感を感じていたこと。

そして京子とコヨリの体型がほとんど同じであること。

まとまりのない加奈子の話を京子はうんうんと小さく頷きながら聞いていた。


「バレちゃってたんだ。加奈ちゃんに…」

「…」


言葉の出ない加奈子に京子は少しうつむいた後、意を決したように、大きく深呼吸をして喋り出した。


「そう、わたしがコヨリだよ。幻滅しちゃったよね。私があんな…変なことやってること…」


京子は悲しそうな顔で加奈子を見つめた。

加奈子はそんな気を落としている京子の姿を見ていられず、布団をのけてガバっと上体を起こした。


「変なことじゃないです!すごい可愛いです!私写真でコヨリちゃんのこと知って!配信までやってくれて…それにすごいエッチなんです!エッチで可愛いいんです!」


加奈子が急に早口でよくわからないことを喋り出したからか、京子は口をポカーンと開けて呆然としてしまった。


(なに言ってんだわたしぃ!)


加奈子も顔が真っ赤になってしまう。

そんな様子を見て京子はクスクスと笑い出した。


「ぷふっ!ありがとう。褒めてくれて…るんだよね?実はね、アレはね…ううん、なんでもない」


京子は何か言いよどんだが、はにかみながら自分の口元に人差し指をあてた。


「でも周りのみんなには言わないでね?やっぱりちょっと…一般的な趣味じゃないから。おねがい」

「はい!絶対言いません!二人だけの秘密です!」


二人はお互いはにかみながら指切りを交わした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る