第3話 先輩の裏の顔

翌日、休日ということもあり加奈子はいつもより遅く目覚めた。

昨日の京子の姿が脳裏に焼き付いてしまい、今日も寝不足である。


(うぅ…あんまり寝れてない。連日はキツイ…二度寝しようかな)


もう一度布団に潜ろうかと思った加奈子だったが、携帯に通知が入る。

それはコヨリの動画配信の通知だった。



コヨリ着ぐるみコスプレ@KOYORI_KIGURUMI


本日20:00~

新しいお洋服を買ったのでお披露目配信をしようと思います。

よろしかったら見にきてくださいね♪

コヨリ



その通知を見て飛び起きる加奈子。

先ほどまでのねむけ眼が嘘のように目がぱっちりと開いている。


(コヨリちゃんの配信!しかも新しいお洋服!この前言ってたやつだ!うわぁ…楽しみ♪早く時間にならないかな♪)


昨日は京子、今日はコヨリとリアルとネットの推しとの触れ合いにルンルンな加奈子だった。

その日はコヨリの配信までソワソワしてしまい何も手につかず、気を紛らわせようと部屋の中を必要以上に掃除してしまいピカピカにしてしまった。


そして迎えた夜8時頃。

加奈子はパソコンの前で準備万端だった。


(まだかなまだかな♪はやくはやくぅ!)


ワクワクが止まらず待ちきれない加奈子に反して8時を過ぎてもなかなか配信が始まらない。

なにかトラブルでもあったのだろうか?


(いつもなら時間ピッタリに始まるのにどうしたんだろ?大丈夫かな…)


心配し始める加奈子。

そんな加奈子を察したのか配信画面にコヨリの姿が映し出された。

しかも顔が度アップで。


(始まった!うわ近い近い!?カメラの設定ミスってる)


コヨリはそんなことに気づかずコメントを打ち込んでいる。


▷こんばんわ~今日も配信見に来てくれてありがとう。

▷あとお待たせしちゃってすみません。準備に手間取っちゃって…


コヨリの顔でまだ新しい衣装が見れない。

加奈子はそれをもどかしく思っていたが、推しに負担をかけたくないという一心からかROM専を貫いているため指摘することもできず、やきもきしていた。

でもさすがに他の視聴者から指摘が入る。


▷ごめんなさい!ちょっと調整しますね…こんな感じでしょうか?

▷これが昨日買ったお洋服です。どうですか?似合ってますか?


カメラを調整し、コヨリが画面からゆっくりと引きで映っていく。

だんだんコヨリの全身が映し出されるにつれて加奈子の鼓動も速くなっていく。


豊満な胸、くびれた腰のライン、プリンとしたお尻、そしてムッチリとした太もも…スタイルのいいコヨリの体が強調されるような洋服だった。

そんなエロいコヨリの姿に加奈子は大興奮だった。


(うわ!うわ!すごいエッチだよ!そのキャミソールとスカート最高過ぎる!カーディガンも似合ってるよ!萌え袖あざとい!昨日の京様みたい!)


しかし加奈子の思考が一瞬止まる。


(京様…みたい?京様…え…え?なんで?)


画面に映るコヨリの姿、そして昨日の京子の姿が一瞬重なって見えた。

コヨリの衣装をよく見てみる。

白いニーソックスに、タイトで短めな黒いスカート、ピンク色のキャミソール、白のカーディガン…昨日の試着室での京子の恰好とかなり似ているではないか。


心臓がドックンドックンと音がするくらいに脈打つ。

加奈子は慌てて携帯を取り出し、昨日撮影した京子の写真を見る。


(違うよ?だってこれはコヨリちゃんだし京様じゃなくって…服だって流行りだって言ってたし。え?本当に流行ってるこの服装?でも違う…違うよ!)


パソコンの画面のコヨリと携帯の写真の京子を見比べる。黒タイツを履いていることと、カーディガンの色は違う。

しかしキャミソールとスカートは全くと言っていいほど同じに見える。

キャミソールのワンポイントの位置やスカートのスリットの浅さ…見れば見るほど一致していた。

さらに注意深く見れば胸から腰、お尻にかけての曲線…体型が全く一緒に見えてしまう。


そして一緒に買い物をした日に感じた違和感を思い出す。

京子がいつも好んで着ている服とは違った攻めた服を恥ずかしがりながら試着し、買っていたことを。

加奈子は開いた口が塞がらず、思わず握っていた携帯を太ももの上に落としてしまう。


配信内容が全然頭に入ってこない。

コヨリの首筋のタイツが汗染みでどんどん色濃くなっていく…


いつまでも困惑している加奈子をよそに配信が終った。

しかし今日も"配信切り忘れ"という音だけの配信が続く。


『ふぅ…ふぅ…ふぅ…うぅ…ぷはっ!…はぁ…はぁ…はぁ…』


マスクを外した時の息遣い…今の加奈子には京子の声にしか聞こえなかった。


「うそ…京様…なの?」


パソコンから着ぐるみを脱ぐ音が部屋の中に静かに響く。

その日、加奈子は一睡もできなかった。

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