第7話 引きこもりには喜びと憎しみと。

•うちの母は天照の大神•


〈今は生まれて初めて正社員で働けている。介護の仕事だ。意外と下の世話とかそういうのは引かないでできる。

どちらかというと利用者さんの嘔吐の方が慣れてなくて辛い。一緒に吐きそう。慣れた人はタッピングしながら、ナースは吸引機の準備、吐瀉物を入れるガーグルを運んでくる人もいる。そんななか、新人の私は、具合の悪い人以外の人にも気を配らなくちゃと辺りを見回したりしている。

先輩たちは、なんというか、先輩というよりザ•職員という感じもある。

ハローワークの研修で色々習えといてよかった。

でもオムツ交換は難しい。

全然できない。


私生活

母が言うことがドロドロしていて辛い。研修中にハロワからお金が入るからって「お金あるんでしょ」って、まるで人を金持ちみたいに僻んでくる。

グッズの爆買いがバレた。父とイベントに行ったから。私は精神疾患の障害者だから場合によっては本人と介助人の父は割引かタダで会場に入れたりする。


生まれて初めてチケットをネットで取って不安になりながら東京へ行った。


乗り物に長期間乗るのが心配だったけど、父もいてくれたし助かった。たまに回転寿司に一緒に行く。


一人暮らしの時や昔は辛い思いもさせられて、親に死んで欲しかったけど、今は不思議と仲良くやれてる。


妹が赤ちゃんを産んでくれたおかげだと思う。


母はもう孫のために習い事貯金とか学費貯金とか、赤ちゃんが喜ぶものをちょこちょこ百均で買ったりしている。


私の人生は妹と比べられてばかりだった。

活発な妹。内気で動かない長女。そんな立ち位置。


鬱になったのもいじめもあったけど、……家族のせいもある。両親の両方が不倫したりしたのはむしろ離婚してくれると思って嬉しかったのに、仲直りしやがった。


順調に、パートやアルバイト代の三分の一を貯金して、90万まで貯められた。


ニュースでは将来は、老後は二千万以上あっても足りないらしい。


保険料とかも払わなくちゃ。


今のところ両親が全部払ってくれてる。

私は自分の食費と趣味と貯金。

親が車の車検で苦しくなったらお金を四万か五万出してと言ってくる。任意保険? とかなので、それはもちろん払う。事故とか対物? 対人? とか弁償とか人引いちゃったりとか怖いし。


お金がなくて体がおかしくなった時期もある。

母も父にお金で散々困らせられたから私の独身生活とお金の使い方、部屋に増えている物にも目を光らせていて怖い。


ちゃんと人生を考えていた。貯金もしていた。それなのに、楽しまなくて逆に鬱病になった。


パート先の人には二十代、独身、もっと楽しんでいいんだよ、多分、と言われた。

楽しめない。老後がある。お金。お金貯めなきゃ。


そんな時、母に口喧嘩をしたわけでもないのに、ある日言われた。


「ちゃんと将来考えてるの?!」


今思えば仕事で嫌なことがあったり、お金をもってるだろう私に腹が立ったのだろう。


その日から私はおかしくなった。


壁に金、死ね、人殺し、臭い! と書いて母を呪った。


何も言われなかった。

父にだけ実はカレンダーの下に、家の壁紙に落書きをしてしまった。消す努力はしたことは伝えた。


追い詰められた、と言ったら許してくれた。


父は介護の仕事がしたいらしいけれど家計のために違う職種で頑張っている。

本当は昔大嫌いだった父が好きな介護なんてやりたくないと思っていたけれど、将来を考えて就職活動してもどこも落ちてばかり。


介護なら門を広く開けていそうだ。


最初は大変な仕事だからお給料は高いと思っていたら、基本給16万位だった。


それでも、一ヶ月食費で3万、家の白米とかは母が買ってくれるのでおかずや冷凍食品、作る気にならない時用のカップ麺をストックしておけばいい。

あとの十万円はすっかり口座に残してスマホ料金だけ引いてもらうか趣味で本が好きだから本屋で手に入らない小説をネットで買っている。


長くなりすぎた。


母と喧嘩して、私は1週間引きこもった。

仕事にはちゃんと行く。お金は大事だし、初めての正社員だから責任、を感じてる。


私は、貯金を切り崩すことにした。欲しかった漫画の特装版、ワンピースとか名探偵コナンの全巻購入、Twitterの試し読み広告で面白かった少女漫画も買った。それから好きな漫画家の展覧会に行ってグッズを全種類買ったし、気に入ったものは二つかった。それだけでお会計が十万円いった。徐々に、徐々に、気づけば趣味に一ヶ月十万円使っていて、カードで好きな乙女ゲームの予約特典付きの高い方を買ったりして、クレジットカードの請求額も膨らんだ。

それでもお金はまだあった。


でも、六ヶ月くらいたって、流石になくなってきた。

デパコスを買ったわけでも、高額なお着物にハマったわけでも、ブランド品にハマったわけでもない。


ただ、今まで欲しかったけど我慢してきたものを片っ端から買っていったら。


とうとう、貯金が無くなった。来月のお給料をあてにしてるから毎日出勤できる。

そんな状態がハロワの研修時代から新入社員として働いている今まで続き、請求額も隠し通している。


唯一妹にだけ一ヶ月のカードの使用額が十万超えたと相談したら「それはあぶないよっ」と注意してくれた。

でも、もう止まらない。


母とは口をきいていない。

私はまた追い詰められて、あるいは自分を追い詰めてしまってまた壁に大きく死ね、と書いた。


誰かに死んで欲しいわけじゃない。

でも、その言葉が書いた後、なんだかスッキリに近い解放をくれた。


翌日母が壁を擦る音を聞く。多分布か何かで文字を消そうとしているのだろう。


私はその夜母に殴りにかかった。

鬱状態でお風呂に入れず部屋も体も臭ったのか。


母に、「臭い」とだけ言われて去られた。


昔のイジメの記憶がよみがえる。


「アイツって臭くね?!」


気づけば母を平手打ちしようとしていて、父親に止められた。


こんなに長くなって、どうせ、PVは低いだろうな。


すると、今度は母が和室に引きこもった。

テレビも見ないし、私がミラーリング? とかしたNetflixも楽しまなくなった。


完全に断絶状態。


家で一緒にいる時間は殺す事ばかり考えるし、洗面所や台所などですれ違う時は憎しみが心と体を走る。


引きこもった母。


その部屋さえ、今は禍々しい。


昔の天照の大神が、天岩戸に引きこもったのって。

みんな悲しさとかやるせなさより、その中に、辛い、めんどくさい、憎い、早く出てこい、とか。マイナス感情もあったのかな。


どんちゃん神様が騒げば母も出てくるのか。


どちらにしても、口はきかない〉

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