第67話 大団円ッッ!!
ピユシラ殿の世界も戻った。
その事実に、本人よりも早くキューリット殿が反応した。
「やりましたわねピユシラ!!」
「え? あ、あぁ。し、信じられない。……女神様、本当なのですか?」
女神様が頷く。
ピユシラ殿が、ペタンと腰を抜かした。
「そ、そうか……」
ニコリと、女神様が笑った。
「もう、この世界にダンジョンを残しておく必要もなくなりました」
「え!?」
「ダンジョンも、モンスターも、元の世界に返しましょう」
こはる殿に視線をやる。
不安そうに眉をひそめていた。
「そ、それは勘弁願いたいでござる!! どうか!!」
女神様がこはる殿の方をチラリと見やった。
ぶんぶんと、首を横に振っている。
「そういうことでしたら、いいでしょう。ダンジョンは残します。向こうの世界でまた作り直すだけですから。……では、あなたはどうしますか? ピユシラ」
「私は……」
「元の世界に、帰りますか?」
ピユシラ殿が俯いた。
ただ黙るだけで、何も答えない。
本心では帰りたいはずなのだ。
でも、キューリット殿のことを考えると、帰るとは言い出せないのだろう。
自分を拾ってくれた恩人。
忠義を示す主。
大切な存在。
キューリット殿もピユシラ殿の迷いを察し、問題を先延ばすように話題を変えた。
「こ、この世界、めちゃくちゃになったままですけれど、直したりできますの?」
「えぇ。この世界はマナや魔力といったエネルギーがない、シンプルな世界ですから。少し時間をくれたら、私の力でも戻せます」
「それはよかったですわ〜。わたくし、お母様とお話がしたいので、一旦ここでおさらばしますわ。ピユシラ、行きますわよ」
「……」
「ピユシラ?」
「キューリット、私は……」
その言葉に、すべてが詰まっていた。
誰だって、家に帰りたい。
故郷の空気を吸って、家族や友人とご飯を食べたいのだ。
しばしの沈黙が流れる。
そして。
「行きなさい、ピユシラ」
その時のキューリット殿の顔は、大人っぽくて、凛々しかった。
「背中を押してほしいなら素直に言いなさい。まったく、主人の手を煩わせて」
「キューリット」
「わたくしの家は、しょせんあなたの借りの家。あなたのいるべきところではございませんわ」
「…………」
「ぼさっと突っ立ってないで、いつもみたいにシャキッとしなさい!! ピユシラ!!」
ピユシラ殿の肩がビクッと跳ねた。
拳を握り、大粒の涙を流して、そして、キューリット殿を抱きしめた。
「ありがとう、キューリット。愛してる」
「……あなたの口説き文句は聞き飽きましたわ」
ピユシラ殿が離れる。
覚悟を決めた眼差しで、拙者たちを見つめる。
「ありがとう。本当に感謝している。会えてよかった。こはる、リリカ、それに……サユキ」
「拙者も、会えてよかったでござる、ピユシラ殿」
「向こうでも元気にやるんやで」
「一緒に冒険できて、楽しかったです」
ピユシラ殿が女神様へ近づく。
コクリと頷くと、女神様は彼女に触れた。
ピユシラ殿の体が、色素が、薄くなっていく。
徐々に消えていくように。
「キューリット、忘れない。お前のこと、永遠に」
その言葉でついに、キューリット殿の我慢が限界を迎えた。
「行かないでピユシラ!! 行っちゃやだ!! ずっとわたくしの側にいなさい!! いなさいピユシラ!!」
切なげに、ピユシラ殿が微笑む。
「わたくしもあなたを、愛してるのよ!!」
キューリット殿の言葉も虚しく、ピユシラ殿は、この世界から消えてしまった。
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ショタ王との戦いから数週間後。
「ほなサユキ、こはるちゃん、今日も配信頑張ろか」
「はい!!」
「やるでござる!!」
拙者たちは日常を取り戻していた。
女神様のおかけで亡くなった人も、崩れた建物も空いた穴も、ぜんぶ元通りになった。
デストルクトルの件は、世界各国の偉い人たちが口裏を合わせてうやむやにしている。
というより、別の世界だの世界を渡る破壊者だの、スケールが大きすぎて理解しきれていないのだろう。
リリカ殿が配信を開始する。
今日のダンジョンは、高難易度迷宮ダンジョン『アマテラス』。
出てくるモンスターすべてが高レベルらしい。
まあ、拙者にかかれば楽ちんちんなのでござるけど。
「こはるちゃん頼むで、迷宮ダンジョンはこはるちゃんだけが頼りや」
「はい!! 人を導く天使スキルでしっかりサポートしますっ!!」
:かわいい
:がんばれー
:こはるちゃんかわいい
:真剣にお付き合いしてーなー
「拙者もいるでござるよリリカ殿!!」
「あはは、わかっとるわかっとる」
まったくもう、リリカ殿ってばいじわるだ。
でも、そういうところが好き。
「おーっほっほ!! わたくしもいますわーっ!!」
「うげっ、キューリット殿が来ちゃったでござる」
「あなた達に便乗してわたくしもバズってみせますわー!!」
な、なんと逞しいことか。
キューリット殿とはもう友達だけど、自己主張が激しすぎるんだよなあ。
「あ、そういえばキューリット殿、変わったことはなかったでござるか?」
「変わったこと?」
「ないでござるか。ならいいでござるけど」
「どういう意味ですの?」
「あー、いやー、別に」
「???」
拙者が言葉を濁していると、リリカ殿が手を叩いた。
「ほら、さっさと行くで」
「そうでござるな」
さっそく歩きだす。
ここは道がゴツゴツしているので、足元に注意していないと転んでしまう。
お、キューリット殿が躓いた。
「ぬわっ、危うくコケるところでしたわ〜」
「少し薄暗いからな、気をつけるんだぞキューリット」
「えぇピユシラ。……え?」
キューリット殿が振り返った。
彼女だけじゃない、リリカ殿やこはる殿も。
ふふふ、拙者にはわかっている。
拙者たちの後ろにいる人物のこと。
まるで最初からいたように何食わぬ顔で立っている、中性的な金髪の騎士のこと。
「久しぶりだな、キューリット」
「な、ななな……」
リリカ殿とこはる殿も驚いている。
「なんで……」
「サユキのおかげだ」
「サユキの?」
ここらでネタばらしをするでござるかね。
「拙者が女神様に願ったのでござるよ。7体の凶悪モンスターを倒した報酬として、どうかピユシラ殿が、故郷とこっちを行き来できるようにしてほしいと」
当初女神様は難色を示していた。
世界を自由に渡れるなんて、神に等しい力。
それを人間に授けるのは、新たな混乱を引き起こす原因になるかもしれない。
しかし女神様は叶えてくれた。
拙者に免じて。
だから。
「サユキ、お前にはつくづく感謝だな」
「良いってことよ、でござる」
キューリット殿がワナワナと震えている。
混乱が極まりすぎてどうしていいのかわからないのだろう。
「サユキさん、じゃあ忍者界を盛り上げるってお願いは……」
「忍界は己の力で盛り上げるでござる!! ショタ王を倒して、拙者のチャンネル登録者数も1000万!! きっと弟子も増えまくりでござる〜!!」
:それはそれ
:感謝はしてるけど……
:魔法スキルのおかげじゃないの?
:ルフィは好きだけど海賊になりたくはない、みたいな
「なんででござるかーっ!! こちとら世界の救世主でござるのにーっ!!」
などと憤っていると、
「見つけたぜい!!」
こんなところにも現れたのだ、懐かしのチャラ男ギルドの色黒殿が。
「今日こそ遊んで貰うぜ!!」
「あーもー!! いまはそれどころじゃないでござる!!」
「来い、今日の助っ人!!」
はぁ、これじゃ以前と同じ。
登録者だけ増えても、なーんにも変わってないでござる。
「リリカ殿〜」
「まぁまぁ、自慢の忍術を披露していれば、きっと増えるで」
「うーん」
:魔法でぶっ倒せ
:また舐めプ?
:魔法をみせて
:舐めプはすなよ
「もう!! 舐めプじゃないでござる!! 忍術でござるううううぅぅぅ!!!!」
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※あとがき
終わりです。
最後まで読んでいただきありがとうございましたっ!!
ピユシラとキューリットを軸にすれば、まだまだ続けられそうな気がする……。
でも湿度が高くなりすぎそうだからやめておきます。
拙者、ポンコツくのいち。ダンジョンにて魔法スキルレベル999を手に入れてしまう。 ーーこんなバズりかた嫌でござるよっ!!ーー いくかいおう @ikuiku-kaiou
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