第66話 修復
ショタ王にトドメの一撃を食らわせた。
どうか立ち上がらないでくれと心から願う。
やつの話が本当なら、これでやつが食べたものがすべて吐き出されるはずなのだが……。
拙者の体から力が抜けていく。
ハイパーハイテンションも、超絶筋肉ムキムキの術も、効果が切れたのだ。
「ま、まいったな、ここまで僕を……苦しめるなんて」
「そんな……」
ショタ王が、立ち上がってしまった。
口から血を流し、涙まで流している。
けれど、立ったのだ。
「ぼ、僕が、サユキお姉さんなんかに……負けるわけが……うぐっ!!」
さらに大量の血を吐いた。
ショタ王の体が光り出す。
ぷくぷくと、膨らんでいく。
「そ、そんな……いやだ!!」
まるで風船のように丸く膨らんで、
「た、助けて!! 助けてええええ!!!!」
バンッ、と激しい音と共に破裂した。
それに合わせ、彼から放たれていた光が強くなっていく。
闇一面だった世界が、色付いていく。
そしてーー。
「サユキ!!」
リリカ殿の声がした。
気づけば周囲は夜。拙者は忍術学園の前に立っていた。
まさに、先生がショタ王と戦ったあのときだ。
振り返れば、そこには……。
「リリカ殿、こはる殿……先生!!」
消えてしまったはずの3人がいたのだ。
火薬に火を灯したように、一瞬にして拙者の感情が弾ける。
吹き上がる火山の如く、涙が止まらない。
戻った。本当に戻ったのだ。
「リリカ殿〜!!」
大好きなリリカ殿を抱きしめる。
リリカ殿は困惑しながらも、その優しい手で拙者を包んでくれた。
「サユキさん、いったい何があったんですか? ショタ王に吸収されたはずなんですけど……」
「うぅ、こはる殿も無事でよかったでござる。本当によかったでござる〜」
「えっと〜」
ポン、と先生が拙者の頭を軽く叩いた。
「これサユキ、きちんと説明せんか」
「先生!! 拙者、倒したのでござるよ」
「倒したって……まさか……」
「だから、みんな戻ってきたのでござる!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すべてが元通りになったわけではない。
ショタ王が倒され、彼が食ってきたものはすべて吐き出された。
おそらく、ピユシラ殿の世界も。
しかし、ショタ王が食べていないものは、戻らないのだ。
例えば、戦いの中で壊れたもの。
例えば、デストルクトルの人魂に取り憑かれて、殺さざるを得なかった者。
挙げたらキリがない。
世界は、まだ壊れたままだ。
「お、キューリットいたで」
街中でキューリット殿と合流した。
「い、いったい何がどうなっていますの!?」
事の顛末を説明しながら、自然豊かなドーム型ダンジョン、カヤノに入る。
ちゃんとダンジョンも復活していて、よかった。
ならば、
「キューリット!! 忍者!! こはるとリリカも……」
「ピユシラ!!」
うん、ちゃんとピユシラ殿も復活している。
キューリット殿がピユシラ殿に抱きついた。
今生の別れだと思っていたのに、また会えたのだ。
気持ちはよくわかる。
2人を眺めていると、拙者は無意識にリリカ殿の手を握ってしまった。
よし、ピユシラ殿とも合流できたし、
「リリカ殿」
「そうやな。ちょっと待ってや」
リリカ殿がドローンを飛ばした。
配信を開始する。
さすが人気配信者なだけあって、こんな状況でもたくさんの視聴者が集まっていた。
「リリにゃんやで〜。みんな大変やと思うけど、大事なお知らせがある」
:なになに
:どうしたの
:みんな揃ってる
:黒い人魂、消えたね
:急に街が静かになった
:夢でも見ている気分
「世界をめちゃくちゃにした連中、デストルクトルっちゅーんやけど」
リリカ殿が拙者の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「サユキが倒してくれたで」
「えへへでござる」
:え
:マジ?
:あの子供を?
:倒した!?
ピユシラ殿も驚いている。
「本当なのかサユキ!!」
「詳しいことはまだ言えんけど、とりあえずみんな、もうアイツらはおらんから安心してや」
まだまだ問題は山積みだ。
それでも、世界から脅威が去ったのは事実。
「いまはそれだけを伝えに、配信をしたんや」
リリカ殿が配信を切ると、ピユシラ殿が拙者に詰め寄った。
「ほ、本当に倒したのか? ひとりで? どうやったのだ?」
「ふっふっふ、これも忍者の力でござる!!」
「……凄いのだな、忍者とは」
「弟子にしてあげるでござるよ」
「遠慮しておく」
「なんででござるか!!」
「そういえば、女神様はどこだ」
確かに。
女神様もショタ王に食べられたのだから、戻っていてもおかしくない。
「私はここにいますよ」
空から女神様が降りてきた。
「勇者……いえ、忍者サユキよ。あなたには感謝します。あなたのおかげで、多くの世界が救われました」
「じゃあ」
「はい。私が管理していた世界も、復活しています」
「おぉ!!」
ピユシラ殿の方を向く。
瞬間、拙者の脳裏に疑念が浮かんだ。
ピユシラ殿はやはり、元の世界に帰るのだろうか。
そうなったら、キューリット殿は……。
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