第26話 強敵からの……強敵?

「レッドワイバーン。レベル20でござるか。ほれスリープ」


 とある午後、拙者はリリカ殿、こはる殿の3人でダンジョン配信をしていた。

 今回挑んでいるのは全50階層のタワー型ダンジョン。

 各階層ごとに迷路とボスモンスターが交互していて、拙者たちは現在、20階にてボスモンスターと対峙していた。


 まあ、すぐに倒したのだが。


「ふう、無事に眠ったでござる」


「お、宝箱でてきたで。うわぁ、ただのポーションかあ」


「それ何なのでござるか?」


「回復アイテムや。ダンジョン内でしか具現化せえへんけど、飲めば体力回復や」


 アイテムは所持していても外に出たら消える。

 けれど再度ダンジョンに入れば、ステータス表示から出せるらしい。


「リリカさん、私たちはまだ上にいけるのでしょうか?」


「せやね。私がBランクやから、25階まで行けるで」


「よかった〜。噂によると、タワーの半分の25階で、一度外の景色が見れるそうです。一面の木々が広がっている、美しい緑の景色らしいです」


「おぉ〜、そりゃ楽しみやねえ」



:50階はどんな景色なんだろう


:こはるちゃんかわいい


:天使


:真剣にお付き合いしてえ〜



 2人が仲良くお話している間、拙者は眠っているワイバーンを観察していた。

 拙者は召喚魔法が使える。倒したモンスターを使役できるのだとか。

 ワイバーンを手下にできたら、大空を飛べて気持ちいいだろうなあ。


 あ、そもそも浮遊魔法を使えばいいのか。


「ふたりとも、そろそろ行くでござ……あれ?」


 いない。リリカ殿も、こはる殿も。

 まさか、置いていかれた?


「ひどいでござるよ〜」


 急いで追いかける。

 階段を駆け上がって、次の迷路の階へ上ったところで、2人が見えてきた。


「もう、置いていかないでほしいでござ……」


 いや、ふたりとも拙者を置いていっていない。

 だって、だって、


「拙者がいる!!」


 もうひとりの拙者がいるから!!

 まさか拙者、無意識に影分身の術を!?


「お、お主、拙者の分身なのでござるか?」


 もうひとりの拙者は黙ったまま、頷きもしない。

 何なのだ? 分身じゃないのか?


 途端、こはる殿がリリカ殿の腕を引き、もうひとりの拙者から離れた。


「油断しました。ぼけーっとしていたから、つい普段どおりのサユキさんかと」


「どういう意味でござるか!!」


「この子はドッペルゴースト。対象の姿や能力をコピーするモンスターです」


 なぬ!?

 つまりこやつは、拙者をコピーしたモンスターなのか。

 分身じゃ……なかった……。


 がっくし。


「こはるちゃん、こいつ危険なん?」


「姿を変えて油断させ、隙をついて生命エネルギーを吸い取るのです」


「あかんなあ、よりによってサユキをコピーか……」



:じゃあこいつも魔法レベル999?


:おいおいおい


:いや、たしかレベルはコピーできないはず


:サユキみたいにすべての魔法は使えるけど、レベルは低いのか?



 コメントの情報が事実なら、大した敵ではない?


「お主、拙者をコピーして強くなった気になっているようでござるがあ、拙者には手も足もでないでござるよ!! 大人しく去るがいいでござる!!」


 ゴーストが、ニヤリと笑った。


「そうでござろうか」


「喋った!?」


「確かに、ドッペルゴーストである拙者はレベルまでコピーできない。しかしそれは、今の拙者よりレベルがマイナスにならないということ」


「どういう意味でござるか」


「魔法スキルのレベルでは勝てなくても、知能レベルでは勝っているということでござる」


「なにを〜!! なんでござるか知能レベルって!!」


「ステータスを確認するでござる」


 言われた通り、バーチャルディスプレイを出現させてステータスを確認する。

 おぉ、拙者の能力が数字化されているのか。

 こんなの今まで気にしていなかった。

 えーっと、なになに……。


 魔法スキル レベル999

 筋力 レベル15

 素早さ レベル30

 知能 レベル4


「レベル4!?」


「一方、拙者はもとより知能レベルが6。つまり、拙者の方が頭が良いのでござる」


「なぬううう!!!!」


 リリカ殿がため息をついた。


「2しか違わんやん」



:ちな平均は30な


:4もあったんだ


:これは残当


:そんな気はしてた



「知能4のお主より、知能6の拙者の方が、忍界を引っ張っていくに相応しいでござるな」


「うぐっ……」


「つまり!! これからは拙者が猿飛サユキとして生きていくに相応しいということでござるよ!!」


「なにいいいいッッ!!??」


 だ、ダメだ、反論できない。

 拙者の知能レベル4じゃ反論が思いつかないいいいい!!!!


「諦めてはいけません!!」


「こはる殿!!」


「確かに、知能レベルは低いかもしれません。ですが、サユキさんにはステータスに書かれていない能力、『愉快さ』があるはずです」


「愉快さ……」


「私は、知能が高い人より、頭が愉快な人に忍術を教わりたいですっ!!」


「こはる殿……」


 うぅ、さすがはこはる殿。

 拙者がほしい言葉をくれる。


「頭が愉快は悪口やろ」


「リリカ殿は黙っているでござる!!」


 こはる殿のおかげで、闘志が湧いてきた。

 こんな偽物に負けるわけにはいかない。


 ならさっさと倒して次に進んでやる。

 と思った矢先、


「わっ!! こやつ、体が赤くなったでござる!!」


「ええ!? 凶悪化してもうた!!」


「こんなタイミングで!? 4回目の凶悪モンスターでござるか!!」


 こはる殿が拙者の手も引いて、さらに距離を取った。


「凶暴になって、問答無用で生命エネルギーを吸い取るようになってしまいました」


「4回目、それでもまだレベル320でござる!! 拙者が瞬殺してやるでござる!!」


 手をかざす。

 魔法の名前を唱えようと口を開く。


 その瞬間、


「レベル320。ザコが」


 突如、肩まで伸びた金髪の少女が飛び出し、手に持った剣でドッペルゴーストを貫いた。

 剣が眩く光りだす。


「消えろッッ!!」


 彼女の一声で、ドッペルゴーストはチリとなって消滅した。

 リリカ殿も、こはる殿も驚いている。


 拙者より弱いとはいえ、相手はレベル320の凶悪モンスター。

 それを、こうも容易く、一瞬で……。


「な、何者でござるか」


「少女が振り返る」


 鎧を着込んだ、凛々しい顔つき。

 その強い眼力に、思わず萎縮してしまう。


「我が名はピユシラ・オーエン。誇り高き王宮騎士団の、副隊長だ」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


ピユシラちゃんは16歳です。

キューリットちゃんは17歳です。


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