第25話 クリスタルの不思議な少女

※今回は三人称です。




「魔女の末裔たるこのわたくし、キューリット・イム・レンエスカのダンジョン配信、はじまりますわ〜!!」


 とある迷宮型ダンジョンにて、魔女のキューリットが配信をはじめた。

 とはいえは、チャンネル登録者数はまだ200人。同時視聴者数も……多くて30人である。


 ちなみにいまは……1人のみ。


「きょ、今日はエメラルドゴブリンを退治していきますわ〜!!」


 もちろん、コメントはない。


 ぐぬぬと、キューリットの額に青筋が浮かぶ。

 現代の魔女として華々しくデビューするつもりが、魔法スキルレベル999に話題を持ってかれて未だに底辺配信者。


 それもこれも、サユキのせいで……。


「あのリリカとかいうギャルもですわ。一番言われたくないことを!! な〜にが嫉妬してるだけですのよ。しませんわよあんなヘッポコ忍者なんかに」


 勝手に逆恨みしているくせに。


 そんなこんなで、忌々しいふたりのことを思い出しながら、キューリットはぶらぶらと迷宮を進んでいた。


 視聴者は、まだ3人。

 コメントはない。


「あれ、もしかしてわたくし、迷いました?」


 不安に駆られながら周囲を見渡す。

 いま、自分はどこにいるのだろう。

 どうやったら元の道に戻れるのだろう。


 サユキほどの魔法の使い手なら、サーチ魔法で解決できるが、残念ながらキューリットの実力ではサーチ魔法のサの字も発動できない。


「くぅ〜、最近嫌なことばっかりですわ」


 恐怖でドキドキしながら、とりあえず引き返す。

 そのとき、


「わっ!!」


 落とし穴にハマり、キューリットが落下した。

 しかもかなり深い。


「いてて……もう、なんですの!!」


 立ち上がり、上を見上げる。

 簡単な浮遊魔法を使えば登れないこともない。

 しかし、それよりも気になるのは……。


「なんですの、ここ」


 自分が落ちた場所が、一本道の途中だったということ。

 このダンジョンには地下なんてないはずなのに。


「ま、まさか隠しルート!! みなさま〜、わたくし隠しルートを発見しましたわ〜!!」


 とカメラにドローンカメラにアピールしたものの、


「で、電波が繋がってない!? もう!! 本当に嫌なことばかりですわ!!」


 とはいえ、せっかく発見した隠しルート。

 なにがあるのか調べてみたい。


 魔法で手のひらに光の玉を出すと、その明かりを頼りにキューリットは先へ進んだ。


 やがて、道の奥から赤い光が漏れていることに気づく。

 モンスターでもいるのだろうか。


 そろりそろりと近づいた先には、


「な、なんですのこれ」


 巨大な赤いクリスタルが、壁にめりこんでいた。

 飾りでも、アイテムでもない。

 なにより不気味なのは、クリスタルの中で、少女が眠っていること。


 年はキューリットと同じくらいだろうか。

 金髪の、鎧を着た少女であった。


「もしかして何かのトラップに引っかかったのかしら? すぐに助けますわ」


 とりあえずクリスタルに触れてみる。

 瞬間、クリスタルに亀裂が走り、真っ二つに割れた。


 中にいた少女が倒れてきて、キューリットは慌てて体を支えた。


「だ、大丈夫ですの?」


 改めて少女の姿を凝視する。

 短い金髪に、白い肌。

 腰に剣を差した、古い西洋風の服装と、鎧。

 アニメのコスプレだろうか。


「心臓は……動いてますわね」


 少女が目を覚ます。


「ん……お前は……」


「わたくしはキューリット。誇り高き魔女の一族の末裔ですわ」


「魔女? あぁ、魔法族か」


「へ?」


「くそ……私はどれくらい寝ていた。戦いはどうなった?」


「戦い? あ、あなた何者ですの?」


「私は王宮騎士団一番隊副隊長、ピユシラ・オーエンだ」


「王宮騎士団? 副隊長? な、なにを言ってますの??」


 頭がおかしい子なのだろうか。

 それともアニメのキャラになりきっている?

 まさかクリスタルに閉じ込められた影響で精神崩壊でもしたのか。


「あなた、どうしてこんなところで眠っていたんですの?」


「隊長が、負傷した私を治療するためにな……」


「???」


「とりあえずここから出よう。解放してくれて感謝する」


「え、えぇ……」


 ピユシラを連れて、ダンジョンから出る。

 ワープゾーンである神殿を抜けて、街に戻る。


「なんだ……ここは……」


 ピユシラは目を見開き、腰を抜かした。

 高い建物。コンクリートの地面。行き交う人々。高速で移動する車。

 すべてがピユシラにとって初めてであった。


「日本の赤羽ですわよ?」


「アカバネ? ニホン?」


「あなたの家はどこですの? 都内ですの? 埼玉ですの?」


「……そうか、そういうことか」


「どうしましたの?」


「女神様、最終手段を取ったのか。じゃあ、私の故郷は、世界は、もう……」


 ピユシラの青い瞳から涙が溢れる。

 とても、アニメキャラになりきっているとは思えない涙に、キューリットはただただ困惑するしかなかった。


「私は、私はこれから、どうすればいいんだ!!」


「あの、お家は……」


「私にはもう、帰るところなどない」


「えっと……とりあえずわたくしの家に来ます? 狭いアパートですが、一人暮らしですし、融通が効きますわよ」


「……すまない」


 こうして、魔女の末裔と不思議な少女の共同生活がはじまった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


キューリットの魔法は、スキルレベルにすると2くらいです。

もしめちゃくちゃ成長したら、サユキみたいな最強魔法使いになれるんですが……まあ、そこまで成長することはありませんね。


新キャラのピユシラちゃん、彼女はいったい何者なのか!?


応援よろしくお願いします〜。

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