第15話 3人娘集合!!
ケロベロスを眠らせた日の翌日。
まだ日も昇らぬうちに目を覚まし、ぐぐっとストレッチをしていると、家の呼び鈴が鳴った。
「どうぞでござる〜」
扉を開けた先には、
「おはようございます!! サユキさん」
妖精のようにふわふわした可愛らしい女の子、白雲こはる殿がいた。
垂れた大きな瞳、丸い顔、柔らかそうな長い髪、華奢な体。
同じ女性からみても、つい抱きしめてしまいたくなる子だ。
「おぉ!! 来たでござるな」
「はい」
可愛い外見だけれども、服装は動きやすいジャージだ。
寝室から寝ぼけ眼のリリカ殿が出てきた。
「ふわぁ〜、その子かぁ、サユキが言っとったの」
「そうでござる。うるさくしてごめんでござるな」
「ええよ別に。ほーん、配信のアーカイブで見た通り、かわええ子やな」
こはる殿の顔がみるみる赤くなる。
「あ、ありがとうございます。あ、あの、私、リリカさんのファンです。半年前にチャンネル登録した新参なんですけど……」
「関係あらへんよ新参とか古参とか。女の子のファンは少ないから、うれしいわあ」
「はわぁ〜、本物のリリカさん、キレイですぅ」
「寝起きやけどね」
リリカ殿とこはる殿が仲良くなって良かった。
さてさて、いつまでもお喋りしている時間はない。
「ではこはる殿、さっそく行くでござる」
「はい。忍者になるための修行、ですね」
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忍者に最も大切なのは体力。
あらゆる状況を切り抜け、いかなる術も操るための体力だ。
ならばとにかく走るしかない。
走って走って、足を鍛えるのだ。
そのために、拙者たちは街中をひたすら走り込んでいた。
拙者が毎朝使っているランニングルートである。
「はぁ、はぁ、いいでござるかこはる殿。ここは山ではござらぬが、決して平坦な土地ではござらん。はぁ……はぁ……塀を上り、屋根を渡り、ガードレールを飛び越えて、泥の上だろが砂利道だろうが、決して速度を落とさず……常に……周囲に気を配るでござる」
「はい!!」
「ダンジョンの……外では……スキルは使えぬが、忍術は使えるでござる。立派な忍者に……はぁ、はぁ」
「大丈夫ですか?」
「も、もちろんでござる」
かれこれ2時間以上も全速力で走っているので、さすがの拙者も少し辛くなってきた。
山と違って空気が悪いから、余計に疲れる。
「ふぅ、少し休むでござるか」
「そうですね」
公園で立ち止まり、ベンチに座る。
徐々に白んできた空が、拙者の目を活性化させていく。
「すごいですね、毎朝こんなに走っているなんて」
「まあ、こんなもの準備体操みたいなものでござるよ。……ってこはる殿、あんまり疲れてないでござるな!?」
「そんなことないですよ。足もパンパンで、汗もすごいです」
ていうか、普通に拙者についてきているだけでも恐ろしい。
大人のアスリートですら音を上げるようなコースのはずなのに。
「ふ、普段から運動しているでござるか?」
「はい。よく山を登ったり、川で泳いだり、野良猫さんと追いかけっ子しています」
「お、おぉ〜」
「ダンジョンも好きなんですけど、私にとってはこの世界も不思議がいっぱいなので、楽しいです」
「この世界?」
「あー、この街のことです。ふふふ。体が軽いから飛んだり跳ねたりは得意ですけど、もうヘトヘトですよ。うふふふふ」
とてもそうは見えぬが……。
「よし、今日はこの辺にして、帰るでござる。こはる殿も一緒に朝食を食べるでござるよ」
「ありがとうございます!!」
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「わぁ〜!! 私、こんなに美味しい白米ははじめてですっ」
帰宅後、拙者が用意した朝食を3人で囲んた。
白米、しめじの味噌汁、目玉焼きにトマトといったちょっと物足りないラインナップだが、リリカ殿が少食なのでこんなものだ。
「普通の米でござるよ?」
「でも、なんだか味が違います。美味しいです。もぐもぐ」
「そ、それはよかったでござる」
普段はよほど傷んだ米を食べているのだろうか。
咀嚼しながら、リリカ殿が問いかける。
「家はどこなん?」
「ふふ、ひみつです」
「ひみつて。……ホンマに忍者になるつもりなん?」
「はい!! ぜひ忍者になりたいです!! かっこよくて素敵ですっ」
「そうやろか」
な、なにを言うのかリリカ殿は。
こはる殿が興味を無くしたらどうするつもりか。
「ダンジョンにはよく行っとるんやろ? 配信はせえへんの?」
「ドローンは高いので……」
「うーん、そっかあ。余っとるドローンはサユキにあげてもうたしなあ」
「気にしないでください。誰も見てなくても、ひとりでも、ダンジョンは楽しいですから」
なんて、あからさまな作り笑顔。
こはる殿とて孤独は寂しくてつまらないのだろう。
「そうなん? じゃあせっかくやから、サユキとコンビで配信すればええやん」
え。
「いいんですか!?」
「かまへんやろ、サユキ」
う、うーん。
遠慮したいとは言えない空気。
別にこはる殿が嫌いなわけではない。
わけではないのだが、こはる殿は可愛すぎて視聴者の注目を集めすぎてしまうのだ。
ただでさえ拙者の忍術は見向きもされていないのに……。
しかし、こはる殿を一人前の忍者に育てるためには、ダンジョンで手取り足取り教えたいのも事実。
うーむ。
「わかったでござる。これからよろしくでござるよ」
「やったあ!! 毎回参加できないですけど、がんばってサポートしますねっ!!」
うっ、眩しい笑顔。
リリカ殿も嬉しそうにニコニコしている。
「私もテスト期間終わったら一緒にダンジョン行くで」
「わぁ!! リリカさんまで。おふたりといろんなダンジョンに行くの、楽しみですっ!!」
こうして、拙者に弟子が誕生した。
白雲こはる。天使のような謎多き女の子。
彼女に負けないよう、拙者も修行を積まないと。
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※あとがき
ダンジョンに入るにはお金がかかります。
サユキは忍者としての任務でそこそこ貯金があるので、入場料に困ったりしてないです。
応援よろしくお願いします……。
マジで……。
泣いちゃいそう……。
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